表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらのアトモスフィア  作者: わた雨
prologue‐アオ‐
1/6

one day of summer



―――A number of years or before―――



 大空(そら)は蒼く澄み渡り、大海(うみ)は碧く煌めき、森林(もり)は青く茂る。

 あらゆる『アオ』が一番の色を放つ季節。


 夏。


 蝉時雨が響き渡る青の中、まだ小学生高学年くらいであろう数人の少年少女が、小高い丘を目指して土の斜面を駆け上がる。

 一番最初にたどり着いたものが一等賞なのだ。皆、息を切らしながらそれでもスピードを落とさず、上がる、上がる、また上がる。

 やがて、溢れる光が青の奥から少年少女らに降り注いだ。彼らはその光に躊躇うことなく突入し、青を、抜け出す。

 そこに姿を現すのは、またもや蒼、そして碧。ついでに町並み。

 この『ゴールの丘』は、彼らのお気に入りの場所であり、ここから見えるすべての『アオ』は、彼らにとって一番の宝物であった。

「チクショー! また負けた〜!」

 二番目に到着した少年が、悔しそうに声を上げた。目つきが鋭く、襟足が長い髪型だ。

「さすがにしんどいわ〜。今すぐ痩せそう」

 三番目の少年が、膝に手をつき、背中を丸めて息を整える。身長は一番高いのだが、太っている。

「いや、それはないな。アンタは絶対痩せない。アタシが保証する」

 四番目の少女が、厳しい口調で言い放つ。ボーイッシュな印象で、髪型はショートカットだ。

「それ、根拠あんのか……?」

 五番目の少年。緩い天然パーマで、そばかすがあるのが特徴だ。

「わあ……! いつ見ても綺麗だねっ! サクラの分、写真撮ってあげないと」

 六番目の少女は、到着するなり、首に下げていた立派なカメラを顔まで持ち上げる。容姿も性格もナチュラルで、女の子らしい明るさが全面に出ている。

「お前ら……早すぎ……。俺は文化系なんだよ……!」

 ようやく到着した最後の少年は、ぐったりとうなだれながら、ぶつぶつと文句を呟く。栗色のロングヘアで、将来性のある美少年だ。

「本当に綺麗だ。何も変わらないよな、ここは」

 そして一番目の少年―――成海(なるみ)シオンは、眼前に広がる『アオ』を見渡し、十分に目に焼き付け終えると、皆の方を振り返った。

「俺たちも、変わらずにずっと一緒にいられるかな?」

 その問いに対して、六人は顔を見合わせる。少し間を置いてから、一人を除いて声を揃えて言った。

「もちろん!!」

「多分だけどな」

 一言付け足したのは最後の少年だ。

「そっか」

 シオンは皆に向けて微笑んで、再び『アオ』に視線を戻す。その色は、さっきまで見ていた色よりも深く、輝いて見えて、どこか永遠を感じさせるほど広かった。

「よっし、野郎ども〜! 集合写真じゃ〜! シオンの元に集え集え〜い!」

「おお〜!!」

 六番目の少女が、『アオ』に向かっているシオンに向けて、カメラを構える。

「敢えてみんなで背中向けて撮ろうぜ」

 二番目の少年の提案。全員承諾する。

「んでもってジャンプだ!」

「俺は、それ断る」

 三番目の少年の提案も呑む。例の一人を除いて。

 並び終え、五人は飛ぶ準備をする。一人は手を腰に当てて格好付けている。

「よ〜し! それじゃあいきま〜す! はいっ、チーズっ!」


 シャッターの心地いい音が大気を一瞬震わせる。しかしその一瞬は、確かに映像に永遠に閉じ込められた。


 そして着地―――した、その時だった。



「――――――――――――」



 聞こえた。聞こえて、しまった。


「おいっ、今の、聞こえたか!?」

 最後の少年―――出雲(いずも)シズル。

「聞こえたっ! ぼくもっ!」

 六番目の少女―――近江(おおみ)ハル。

「聞こえたけど、これなんだ!?」

 五番目の少年―――方波見(かたなみ)マサヒコ。

「何かを尋ねてきたような感じだったけど……」

 四番目の少女―――東間(あずま)カエデ。

「イエスかノーかってことか?」

 三番目の少年―――大楯(おおだて)レンジ。

「ならみんなでイエスって言おうぜ!」

 二番目の少年―――大鳥(おおとり)ケンヤ。

「じゃあ、せーので言うぞ……。せーのっ」

 そして一番目の少年―――成海シオン。


「イエス!!」


 その言葉が、カウントダウンのゼロだった。

 彼らの運命は、数年後に大きく揺れ動くことになる。

 巨人に乗り、未知なる敵と対峙する、絶望の運命。

 この「イエス」が、少年らに何をもたらすのかは、今の彼らには分かるはずがない。

 それでも、『アオ』は知らん顔でずっと変わらずに、この島を満たしていた。


 そう、この島―――蒼空島(そうくうじま)を。


――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ