one day of summer
―――A number of years or before―――
大空は蒼く澄み渡り、大海は碧く煌めき、森林は青く茂る。
あらゆる『アオ』が一番の色を放つ季節。
夏。
蝉時雨が響き渡る青の中、まだ小学生高学年くらいであろう数人の少年少女が、小高い丘を目指して土の斜面を駆け上がる。
一番最初にたどり着いたものが一等賞なのだ。皆、息を切らしながらそれでもスピードを落とさず、上がる、上がる、また上がる。
やがて、溢れる光が青の奥から少年少女らに降り注いだ。彼らはその光に躊躇うことなく突入し、青を、抜け出す。
そこに姿を現すのは、またもや蒼、そして碧。ついでに町並み。
この『ゴールの丘』は、彼らのお気に入りの場所であり、ここから見えるすべての『アオ』は、彼らにとって一番の宝物であった。
「チクショー! また負けた〜!」
二番目に到着した少年が、悔しそうに声を上げた。目つきが鋭く、襟足が長い髪型だ。
「さすがにしんどいわ〜。今すぐ痩せそう」
三番目の少年が、膝に手をつき、背中を丸めて息を整える。身長は一番高いのだが、太っている。
「いや、それはないな。アンタは絶対痩せない。アタシが保証する」
四番目の少女が、厳しい口調で言い放つ。ボーイッシュな印象で、髪型はショートカットだ。
「それ、根拠あんのか……?」
五番目の少年。緩い天然パーマで、そばかすがあるのが特徴だ。
「わあ……! いつ見ても綺麗だねっ! サクラの分、写真撮ってあげないと」
六番目の少女は、到着するなり、首に下げていた立派なカメラを顔まで持ち上げる。容姿も性格もナチュラルで、女の子らしい明るさが全面に出ている。
「お前ら……早すぎ……。俺は文化系なんだよ……!」
ようやく到着した最後の少年は、ぐったりとうなだれながら、ぶつぶつと文句を呟く。栗色のロングヘアで、将来性のある美少年だ。
「本当に綺麗だ。何も変わらないよな、ここは」
そして一番目の少年―――成海シオンは、眼前に広がる『アオ』を見渡し、十分に目に焼き付け終えると、皆の方を振り返った。
「俺たちも、変わらずにずっと一緒にいられるかな?」
その問いに対して、六人は顔を見合わせる。少し間を置いてから、一人を除いて声を揃えて言った。
「もちろん!!」
「多分だけどな」
一言付け足したのは最後の少年だ。
「そっか」
シオンは皆に向けて微笑んで、再び『アオ』に視線を戻す。その色は、さっきまで見ていた色よりも深く、輝いて見えて、どこか永遠を感じさせるほど広かった。
「よっし、野郎ども〜! 集合写真じゃ〜! シオンの元に集え集え〜い!」
「おお〜!!」
六番目の少女が、『アオ』に向かっているシオンに向けて、カメラを構える。
「敢えてみんなで背中向けて撮ろうぜ」
二番目の少年の提案。全員承諾する。
「んでもってジャンプだ!」
「俺は、それ断る」
三番目の少年の提案も呑む。例の一人を除いて。
並び終え、五人は飛ぶ準備をする。一人は手を腰に当てて格好付けている。
「よ〜し! それじゃあいきま〜す! はいっ、チーズっ!」
シャッターの心地いい音が大気を一瞬震わせる。しかしその一瞬は、確かに映像に永遠に閉じ込められた。
そして着地―――した、その時だった。
「――――――――――――」
聞こえた。聞こえて、しまった。
「おいっ、今の、聞こえたか!?」
最後の少年―――出雲シズル。
「聞こえたっ! ぼくもっ!」
六番目の少女―――近江ハル。
「聞こえたけど、これなんだ!?」
五番目の少年―――方波見マサヒコ。
「何かを尋ねてきたような感じだったけど……」
四番目の少女―――東間カエデ。
「イエスかノーかってことか?」
三番目の少年―――大楯レンジ。
「ならみんなでイエスって言おうぜ!」
二番目の少年―――大鳥ケンヤ。
「じゃあ、せーので言うぞ……。せーのっ」
そして一番目の少年―――成海シオン。
「イエス!!」
その言葉が、カウントダウンのゼロだった。
彼らの運命は、数年後に大きく揺れ動くことになる。
巨人に乗り、未知なる敵と対峙する、絶望の運命。
この「イエス」が、少年らに何をもたらすのかは、今の彼らには分かるはずがない。
それでも、『アオ』は知らん顔でずっと変わらずに、この島を満たしていた。
そう、この島―――蒼空島を。
――――――――――――