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クローバー畑の片隅で

作者: 江角 稚

クローバー畑の片隅で。




僕は君の幸せを願いたい。

この眼前に広がるクローバー畑に、幸せはどれ程あるのだろう。

ぎらぎらと照りつける太陽の下で、綺麗な青空にも目をやらず、僕はただしゃがみ込んで下ばかり見ていた。




僕は君に渡したくて、探し続けていた。

幸運の象徴、四つ葉のクローバーを。




「……駄目だ、見つからない」

とっぷりと日が暮れた中、僕はその場に寝転んだ。


空は、オレンジ色の余韻を残しつつも夕闇が迫ってきていた。

その藍色の視界が突然、黒に襲われる。




君が僕の顔を、覗き込んでいた。


「此処に居たのね。捜しちゃった」

そう言って、君は笑った。




「探しているのは僕の方だよ」

僕は悔しくて、言ってしまった。


「どうしても見つからないんだ」


「何が?」

君はあどけない笑顔で尋ねてくる。




「……四つ葉のクローバー」




君に渡したくて仕方のない、幸せの象徴を。

僕は君に渡したいのに、どうしても見つからないんだ。




「あのね、こう考えてみてよ。四つ葉みたいな特別な物だけが、幸せだと思う?」


その言葉の真意を掴み兼ねている僕に、君は続けた。


「私は、貴方から貰えるのなら、例え三つ葉でも嬉しいってことだよ」




君の言葉で、はっとした。


幸せは、当たり前のように有り触れている。

そして、当たり前ではないのだと。


例え三つ葉のような平凡な形でも、育ち、広がる奇跡があるのだと。




僕は苦笑いした。


いつまでも、四つ葉にこだわり続ける自分自身に。

そして、僕が君に渡したくて四つ葉を探していたことを、見抜かれていたことに。




そうこうしている内に、君は一本の三つ葉を手折った。


「それに」

手折った葉を、花占いのようにむしって見せる。


「三つ葉なら、必ず"好き"で終わるじゃない」




そりゃそうだ。

しかも"花占い"ではなく、"葉占い"だ。


でも、僕は何も言わなかった。

それが四つ葉には出来なくて、三つ葉に出来ることなのだと思いたかったから。




唐突に、君は言った。


「私はね。貴方が、好きなんだよ」


そう言って笑う君は、クローバーのような純真さを抱いていた。




「うん……僕も君のこと、好きだよ」


四つ葉の代わりに、君にあげよう。

僕の、この想いを。




当たり前なようで、当たり前ではない幸せが。

此処に、また一つ伸びていく。


クローバー畑の片隅で。




僕と君の幸せを願った。

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