08
「ぐぅ……」
暑いうえにお腹が空いて力が出ない。
ただ、このまま床に張り付いていたところで両親も姉妹もいないのだから勝手にご飯が出てきたりはしないのだ。
だから動くしかないのだが……やる気が出ないからどうしようもない形となっている。
七月の登校日も特に問題もなく終えて夏休みになったのにどうしてこんなにやる気が出ないのか。
この歳にもなって相手をしてくれないことに拗ねているわけでもないのに……。
「たっだいまー」
元々十二時頃には帰ると言っていたから違和感はない。
だが、外に出ていた姉に頼むのも違うから結局いい方向に変わったわけでもない。
「あら、なんか溶けているね?」
「ああ……暑くてやる気が出ないのだ」
「エアコンを使えばいいのに、お父さん達だって遠慮をせずに使うようにって毎回のように言ってきているでしょ?」
「私だけならもったいないから駄目だ、せめて蘭子か奏子がいてくれたらそれでもいいがな」
「もー意地を張っても体調が悪くなるだけだよ、それで病院のお世話になったらその方がお金がかかっちゃうんだからっ。点けるからね!」
暑さの方はこれで解決したのに依然としてやる気が出てこないままだ。
自覚できていないだけで実際は誰ともゆっくりできなくてショックを受けていたのだろうか。
たまに相手をしてくれればそれでいいというスタンスを継続は難しくなったのかもしれない。
「ふぅ~涼し~」
「ああ」
姉に彼女がいなければ真っすぐに甘えて癒されるなんてこともできたが……。
そもそも姉は付き合ってからにこにこしすぎだろう、それをこちらといるときにもしてくるからその度に複雑な気分になる。
「なのに雪はずっと暗い顔をしている、なにかがあるならちゃんとお姉さんにといなさい」
「自分でもわからないのだ」
ただ? 内では誰かのせいにしても言葉にしてしまうようなことはほとんどないようにしているからそれでもまだなんとかやれていた。
抑えているせいで無自覚にダメージを与えてきている姉でもまあ……一緒にいられないとそれはそれで寂しいからな。
「うわ、これは重症だ……」
「そうだ、今回ばかりは移るかもしれないから離れていた方がいいぞ」
「って、真面目な顔でふざけないでよ」
「これでも真面目なんだがな」
いい影響は与えられなくても悪い影響は簡単に与えられてしまうかもしれないから怖かった。
矛盾しているがまた前みたいに元気がなくなったら嫌だ、自分が原因なら尚更のことだ。
「あっ、お姉ちゃんを他の子に取られちゃったからじゃない?」
「そうかもな」
「あ、あれ……」
なにもかもが遅いがいまからならどんどん出していってもいいと思う。
「それよりご飯でも作って食べるか」
「あ、手伝うよ」
「いやいい、座っていてくれ」
広いわけではないうえに大層な物は作らないから過剰になる。
あとは適度な距離感でいてほしかった、一緒に作っていたら必要以上に距離が近くなってしまう。
相手を好きになってしまった乙女でもあるまいしとツッコミを入れられてしまう件ではあるがいまの私には大事なことだ。
「できたぞ、いまのは伊藤か?」
「うん、そうだよ、今度のお祭りに一緒にいきたいって言ってきたから受け入れておいた」
「そうか。食べるか」
「食べる!」
全く成長できていない自分に腹が立つ。
なんとかするためにさっさと食べ終えて食器を洗ってから家を飛び出した。
暑いは暑いが途中途中に日陰がある分、想像していたよりもマシだ。
日陰と水という最高の組み合わせの場所を見つけてそこに座る。
「急に出なければならなくなったときのために日傘とかおすすめですよ」
「すまない」
「いえ、図書館でお勉強をしていただけですからね、それにお昼になって集中力もなくなってきていたので呼んでもらえてありがたいです」
「だったら迎えにいっておくべきだったか」
「図書館の外で待たれていてもそれはそれで気になるのでいいんですよ」
今回は妹のときにも発動して色々と聞きたくなったがなんとか抑えた、このときのために買っておいた飲み物を渡しておく。
「それでどうしたんですか? またお姉ちゃん関連のことでなにかあったんですか?」
「四時間ぐらい顔を見られていなかったから見て安心したかっただけだ」
「嘘ですね」
嘘か。
「というか、もう帰ってきていたんですね、意外と長い時間は遊んできませんよね」
あ、姉がいる前提で話をしている、いやまあいるのだが……。
「ああ、集まっても三時間とかそこらだな」
「もっと長く一緒にいたいとか思わないんですかね? 私だったらずっとは無理でもそれぐらいのつもりでいたいですけど」
「今度お祭りに一緒にいくそうだ、伊藤から誘っていたから伊藤的には少し物足りないのかもしれないな」
そういえばこれで記録が途切れることになるのか。
当日になったら妹も先輩も無理になって一人で楽しむ勇気もなくて部屋にこもることになりそうだ。
救いはもう一回は夏らしい遊びができたということ、夏らしいことをなにもできていないよりは遥かにマシだろう。
あとは弱音を吐かずに最終日まで持っていければ十分だな。
「なるほど、攻め攻め伊藤先輩ということですね?」
「あ、ああ」
真面目な顔でふざけるぐらいなら姉みたいににやにやしてくれていた方がマシだとわかった日となった。
「見つけました、はい、えっと……十八時までには帰れると思います」
スマホをしまった妹がこちらをちゃんと見てきた。
「まったく……心配させないでください!」
「あ、ああ」
散歩のついでにまた川のところにいったら日陰でも微妙で水に触れること一番だった。
でも、中学時代と違って体育の時間ぐらいしか動かなくなっていたことが悪い方に影響したのか転んでしまって全身びしょ濡れになってしまい乾くまで待つしかなかった形になる。
ただ? 私としても構ってもらえなくて拗ねて逃げた形の方がまだ青春らしい感じがするから残念だと思う。
「でも、スマホを持っていたら今日転んだことで壊れていたかもしれないからな」
「携帯を守れたことはいいことですけど携帯していなかったら意味がありません」
「一応言っておくと拗ねていたわけではないのだ、ただ日が暮れるまで待っていただけでな」
「だから仕方がないと?」
「心配をしてくれたことはありがたいがもう帰ろうとしていたところだったからな」
濡れネズミのまま帰りたくなかったというだけの話でしかない。
「そうですか、それなら帰ったらどうですか」
「奏子はどうするのだ?」
「そんなことどうでもいいですよね」
流石に放っておいて自分だけ帰ることはできないから腕を掴もうとしたら手で払われてはっきりと拒絶された。
「嫌いです」
「そ、そこまでのことか?」
「もう知りません」
それで走り去っていくと。
断られたからといってこれ以上残っていても仕方がないから家に向かって歩き始めた。
別に妹以外の家族からは特になにも言われなかった。
それもそうだろう、十八時、夕方まで外でゆっくりしてきただけでしかないのだから。
「はぁ」
お金も小銭をそのままポケットに入れて持っていっておいてよかった。
そうでもなければお札が犠牲になっていたかもしれない、そうなると妹に嫌われたことよりもショックを受けただろうから避けられたことは褒めたい。
「どうしました?」
「奏子さんがなにも言わずに家に来たんだけどなにか理由を知らない?」
家に着いたときにはちゃんといたのにまた出ていたのか。
まあ、妹がいつも一緒にいるのは家族ばかりだから頼るなら先輩しかないか。
「菊石先輩に自然と会えなくなって寂しかったんだと思います、問題がないなら泊めてあげてください」
「私としては一緒にいられてありがたいから特になにかがあったわけではないみたいでよかったわ」
「あ……」
嘘をつくべきではないか。
「嘘ならここでちゃんと言ってちょうだい」
「実はこういうことがありまして」
とはいえ、お財布や携帯を持たずに家を出ていた、転んで濡れたから乾くまで待っていたというだけの話だ。
乾いたのにすぐに帰らなかったところは私が悪いがたかだかあの程度のことで嫌いになってしまうのはアレだと思う。
でも、それで家族以外の人に興味を持つならいいことだから後悔はしていなかった。
「馬鹿ね、心配をして探し回ってやっと見つけたときにそのような態度でいられたら私だって逃げたくなるわよ」
「まあ、こちらのことはいいんですよ、奏子のことをお願いします」
反応がないから切るに切れない……。
「そうね、あなたが来てくれたら受け入れようかしら」
「それでは意味がないでしょう、それこそ探し回ってやっと見つけた休める場所を取り上げるつもりですか?」
「ふふ、あなたがそれを言うなんておかしいわね」
「だ、だから私がおかしいかどうかなんてどうでもいいんですよ、今日のところは本当にお願いします」
これなら私がこの家を出てやった方がよかったか。
この季節なら外にいても風邪を引くこともないし考えて行動してやるべきだった。
妹が来るまでのことなら本当に後悔はしていないがこのことに関しては引っかかっている。
「わかったわ、それなら今度なにか言うことを聞いてね」
「はい、それはちゃんと守りますから」
ふぅ、だがまだわかるところにいってくれていてよかったと思う。
家出紛いのことをされたら確実にこちらが責められるから駄目だ。
なにもかもをぶつけて妹以外の人からも嫌われてしまうと大変になるから避けたかった。
「雪ー入るよー」
「奏子から話を聞いただろう」
「ぜーんぜん? あの子、特になにも言わないまま出ていっちゃったからね、今更やってきた反抗期なのかもね」
とかなんとか考えつつも姉にも一切嘘をつかずにそのまま話をしていた。
嫌われることよりも本当のこととは全く違うように伝えることが気になってできなかった。
「んー確かに雪もよくなかったと思うけど奏子もアレだね」
「ま、待て、無理をして私に合わせようとしなくていいのだぞ」
同じことを考えたのにそうだよなっ? と乗っかれないことが微妙だ……。
それと冷静に対応をできることは素晴らしいことだがもう前の姉とは違うのだと現実を突き付けられているようで寂しい。
やはりどうにもならなくなる前になにもかもをぶつけておくべきだったのだろうか。
「ううん、無理やり合わせているわけじゃなくて本音だよ、だって心配だったかもしれないけど嫌いとまで言わなくてもよくない?」
「まあ……」
「それでいまはどこにいるの?」
「あ、菊石先輩の家にいるそうだ、今日はこのまま泊まるみたいだな」
念のために確認をしただけでどうせ先輩なら泊めていたことだろう、だから先程のあれも無駄でしかないのだ。
「ちょっといって言ってくる」
「待て待て、一人は危ないだろう」
「それなら雪も付いてきて」
「え」
結局そんな流れになって腕を掴まれていたのもあって待っておくことができなかった。
しかもこういうときに限って早く着いてしまい、そのうえで先輩もすぐに出てくるという最悪なやつだ。
救いは先輩と一緒に妹が出てこなかったことだが……。
「奏子さんならもう寝ているわ、起こしてまで言わなければならないことなら上がってそうしてちょうだい」
「雪、どうする?」
こ、ここで聞くんじゃない!
先輩も先輩で「ふふ、結局来てしまったのね」などと言ってからかってきているのならまだやりようはあったが黙ってこちらを見ているだけだった。
「あ、でも、話し相手がほしかったのよね、だから雪さんでも蘭子さんでもどちらでもいいけど残ってくれないかしら?」
「んーあれ? あ、気が付いたら唯ちゃんから連絡がきていたよ、私は雪と違ってちゃんと携帯しているからすぐに気が付けるんだよね。ということで悪いけど雪が残ってあげてくれないかな」
やられた、そういうことか。
「はぁ……最初からそういう作戦か」
「あら、気が付いてしまったみたい? ふふふ、朱美ちゃんと一緒に考えた作戦は上手くいったみたいだね~」
強制的に連れ出した人間がその対象を放置してここから去るのはどうなのか。
凄く気になるから私は似た行動はしないようにしよう。
「残ってくれる?」
「まあ、一人で帰るのは寂しいですからね」
「嬉しいわ」
どうせ先輩は姉に相談をしただけだろうから警戒する必要もない。
姉はこちらの話を聞いたうえで行動をすることが多い人ではあるが暴走することも多いからもうあんなのは慣れっこだ。
というか、あれが嘘でも本当でも一緒に外に出たことで伊藤に会いやすくなったのなら役に立てたと言えるのではないだろうか?
だからそう気分も悪くなかった。
少なくとも実際は起きていた雪と対面することになるまでは本当にそうだった。




