美味しいけど味がわからない
笑顔を見たくて。
「150円」
「1000円でいいのに。手作りなんだろう?
手作りってか、いや、とにかくはじめから」
「150円」
「わかったよ、今日の君のコーヒー代ね」
僕は後輩の女子にお金を渡す。
いつも通り、150円。
頑固な150円。
そして、コップに、コーヒーをそそぐ。
「うんっ、美味しい!」
「そう、ですか?」
「本当に美味しい! コクが深いって、こういうことを言うのか!」
美味しい、と、僕は言って笑顔を作る。
「これで150円、安すぎるって」
「いえ、150円でいいんです」
暗い顔で言われる。
なんだろう、元々、あんまり明るい子じゃないんだけど、毎回、このときは顔がもっと暗いような。気のせいだろうか。
それとも、気づかれているのか?
いやいや、
僕は首を横に振る。
そして、
「美味しかったよ! ありがとう!」
頭を小さく下げられる。
「味、わからないんだよなあ」
1人になり、呟く。
いつも、美味しいって言う。
本当は、味が全くわからない。
舌が、壊れているから。
『新入生に料理のコンテストで1位をとった子がいるらしい』
今年の4月、入学式の翌日くらいに、僕は聞いた。
それだけだったら、「へー、そうなんだ」で済ませていた。
てか、あの子に会うまでは、それで済ませていた。
髪は黒く、長く、いつも、うつむいていて。
本当に1位とったの? て言いたくなった。
けど。
僕は、その子の笑顔を見たくなった。
それで、運がよく、彼女の淹れたコーヒーを毎日飲ませてもらっている。
「舌が壊れてなかったら、心から美味しいって言えるのに」
作らなくても、自然に笑顔になるだろう。
そしたら、あの子も、笑顔に。
とりあえず、舌のことは、気づかれないように。
「インスタントなのに…」
先輩が行った後、私は呟く。
豆から挽いたコーヒーなんて、1回も作ったことがない。
なんであんなにも笑顔で「美味しい!」て言えるのだろう? インスタントなのに。
確かに、私は、一応、料理ができる。今は、あんまりしないけど。髪も長いし。
でも、コーヒーは、挽いたことがない。
「インスタントってばれませんように」
気づかれたら、きっと嫌われてしまう。
読んで頂き、ありがとうございました。
コーヒー美味い。




