沈黙のオフィス
昼下がりの会議室。
部下の報告に耳を傾けながら、私は無意識に机を指で叩いていた。
「またその言い訳か?」
声を荒げた瞬間、空気が凍る。部下の肩が小さく震え、沈黙がオフィスを支配した。
本当は、怒鳴るつもりなどなかった。
ただ「なんとか成果を出してほしい」「もっと成長してほしい」と焦っていただけなのだ。
けれど、その想いは伝わらない。形を変えて、刃のような言葉となり、相手の心を傷つける。
私は知っている。
自分の中にある苛立ちは、相手ではなく自分自身に向けられたものだ。
思うように成果を出せないチームは、私の指導力不足の証。
けれど、それを直視する勇気がなく、弱さを隠すために声を張り上げる。
「期待してるんだよ」
心の奥ではそう叫んでいるのに、口をついて出るのは叱責ばかり。
部下のうつむく背中を見つめながら、私は気づく。
――いつから自分は、恐れられることでしか存在を示せなくなったのだろう。
会議が終わり、ひとり残された部屋に響くのは、時計の針の音だけだった。
机に置いた手のひらが、思いのほか冷たく、震えている。