五章〜惹かれてはダメなのに
乱れた前髪に金色の瞳。色気がMAXすぎて
直視できないリーネは目をギュッと瞑る。
「君が欲しい」
「ひゃっ」
耳元で囁くように言われ、思わず変な声が出てしまう。
「…なんてね。」
クスりと笑われすぐに耳元から顔を離される。
「な、な、な、何してるのよー!!!!」
顔が真っ赤で今にも泣きそうである。
こ、このイケメン拉致野郎、絶対にわざとやってるじゃない!心配して損したわ!
「お元気そうなので、帰りますねっ!」
なんとなく悔しいのと恥ずかしさのあまり、
リーネはドアを勢いよく開け出ていった。
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ズンズンと長い廊下を歩いていると、
食事のワゴンを運んでいるローザと会った。
「リーネ様!オールド様には会いましたか?」
「ローザ、ちょうど今会ってきたところよ!私をからかうぐらいには元気そうだったわ。」
皮肉を込めつつも、ふと食事の乗ったワゴンが気になった。
「これは…?」
「ユアン様に言われてオールド様にお届けするところです。何しろ体調がかなり優れないとか。」
「いやいや、だから体調が悪いにしても、私をからかう余裕はあったわよ。」
鼻息荒く話してしまったが、
ローザは少し悲しそうな困った表情で
「実は部屋の前に置いておくように言われました。いつもは部屋の中までお運びするので、本当に具合が悪いのかと。」
なんですって…?
もしかしてわざと私を部屋から追い出すために
一芝居したとかそんなのありえる?
「いや、まさかよね」
なんだか嫌な予感がする。
自慢じゃないけれど、こういう時の自分の直感は当たる。
「ローザ!そのワゴン私が運ぶわ!」
「え!?リーナ様がですか」
「大丈夫よっ!奴に言い忘れてたことがあるから!じゃあ行ってくるわ!」
ローザの前でこの屋敷の主人のことを《奴》と言ってしまったと気がついたのは後のことだった。
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コンコンとノックをした後、
リーネはまたしても勢いよく扉を開ける。
「食事を持ってきたわよ!さっきはよくも…」
え!いないっ!?!?
ベッドにオールドの姿はなく、辺りを見回すと
先程リーネが追い詰められた壁に持たれかかるようにオールドは座っていた。
「ちょっ!ちょっと大丈夫なの!?」
オールドもまさか帰ってくるとは思わなかったのか、目を見開いてびっくりした様子である。
リーネが触ろうとした瞬間パシッと手で弾かれた。
一瞬しまったという顔をしたが、
「…大丈夫です。触らない方が良いです。お食事はあとで食べますので、戻っていただいて結構ですよ。」
笑顔ではあるものの絶対具合悪いじゃないの…。
ユアンに頼まれていたのに、
ちゃんと見ていなかったことに罪悪感を覚える。
「オールド様、気がつかなくてごめんなさい。
元気になるなら私の魔力を使っても良いわ。」
何とかしたい一心でオールドの手を握る。
「はぁ…貴女という人は。わざわざ遠ざけてあげたのに、後悔しても知りませんよ。」
やっぱり演技をしてたのねと思いながら
リーネは意を決してこくんと頷く。
「分かりました。少しだけ貴女の魔力をいただきます。」
オールドは少し苦しそうな表情でそういうと
彼女の手を握り返し、
額に優しくキスをして、耳、瞼にもキスをする。
このままじゃ心臓が持たないと顔を真っ赤にしながら、これは元気を分け与えてあげてるだけ!治療よ!治療なのと必死に言い聞かせながらギュッと目を瞑る。
とうとう唇に到達し、ちゅ、ちゅと音を立てる。
(あああ、さよなら私のセカンドキス…)
なかなかセカンドキスとはいう機会はないのだが、
彼女は心の中でそっと涙を流した。
あっ…
ファーストキスの時と同じように
彼の魔力と自分の魔力が行き来するような感じがする。
何だろうすごく気持ちいい…
思わず左手でオールドの服をきゅっと握る。
「ふぁっ」
息ができなくなってきて空気を吸うため口を大きく開ける。
そこにすかさずオールドの舌が絡みつく。
「んんん!!」
これ以上もう無理っ!
また倒れるんじゃないかと思った瞬間、
すっと唇が離れた。
「ごちそうさま。」
オールドに耳元で囁かれゾクゾクする。
「はぁ、はぁ、これで元気になりましたかっ?」
肩を小さく上下に振るわせ潤んだ瞳で見つめる。
「ええ、夜までは持ちそうです。」
「夜、夜まで…」
嘘でしょ、1週間ぐらいやらなくてもいいぐらいの頑張りはしたつもりだったのだが。
冗談ですよと笑いながら
オールドはそっとリーネのペンダントの方をみた。
ほう。と手を顎に当て考える仕草をする。
ほんのりと光る白色のペンダントには
自分の瞳と同じ金色が少し混じっていた。