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十二、線香花火とブンドド娘(2)

 盆踊りが無事お開きとなった後、孝美を含むこども会のリーダーたちが、花火大会の参加者は棟ごとに集まるように、と声をあげた。

「繰り返しまーす。これからども会の花火大会でーす! 行く人は各リーダーについていってくださーい!」


 花火大会は盆踊りの会場から少し歩いたところにある、団地の児童公園で開催される。

 盆踊りの方はすでに撤収が始まっていて、祭りの後の余韻が周囲に漂っていた。

 花火大会は小学生以下の子供たちと、その保護者だけが参加予定だったが、それ以外にも手伝ってくれるお兄さんお姉さんや大人の人が手をあげてくれて、予想以上に順調に準備は進行していた。


「将人、バケツ持ってって」

「水入れていくのか?」

「どうだっけ。孝美?」

「うちのお父さんが現場に車でポリタンク持っていってるから、からでいいはずだよ」

「わかった」

 私と孝美はバケツに入りきらない分の花火セットを重ねて抱えた。

 ちなみに仁美ちゃんは篤志に面倒をみさせている。弟はうちの棟では唯一の五年生だ。来年のこども会リーダーとして教育しておかねばならない。


「ねえ、(わたる)ちゃん来てくれるかな?」

 公園への移動中、孝美がそばに寄ってきて、少し声をひそめて言った。

 昨日、私と航がお互い呼び捨てにすることを決めたあと、今日の花火大会に航を誘ったのだ。団地の外の子でも、友達は誘っていいことになっている。実際盆踊りの時間から来て待っていた他の町内の子たちもいた。

「一応、お母さんの許可が出たら来るって言ってたけどね。遅い時間だし、どうだろ」

 来てくれるといいね、と二人で話しながら歩いた。


 公園に到着し、防火用水の準備を進めつつ参加者に花火セットを手渡しているところで、すっかり見慣れた銀色のシティ・ターボが公園の入り口に横づけに停車するのが見えた。

「あれ、信介さんの車じゃない?」と孝美。

「ほんとだ。来てくれたんだ」

 作業を将人に任せて、私と孝美は車のところに向かった。

「こんばんは!」

 予想通り、シティからは航が元気よく降りてきた。

「よう、久しぶり。朔子ちゃん、こないだはどーも」

 運転席に座ったまま、窓を開けて信介さんも挨拶してきた。相変わらず軽薄なアイビー崩れのいでたちで、調子のいい感じの口調だけど、誠実な大人のひとだということを、私はもう知ってしまっている。

「忙しいとこ悪いけどさ、ここ駐車場ってあるかい?」

「この児童公園の南側――あっち側にあります。空いてるとこなら今日はお客さんもまっていいことになってます」

 孝美が要領よく案内する。

「よかった。また迎えに来るの面倒だからね。――航、僕は車で寝て待ってるから、終わったら起こして」

「はーい」

 そして助手席に残っていた手提げと団扇うちわを窓越しに航に渡し、信介さんは駐車場へと去っていった。


「来てくれたんだね! ありがとう、航!」

「来たよー朔子!」

「航!」

「朔子!」

 私たちはふざけた調子でひしと抱き合って、周囲に響くほどの大声で笑った。お互い呼び捨てで名前を呼びたくて仕方ないのがわかって、可笑しくなったのだ。

「仲良しなのはいいけど、あたしもいるんだから、イチャつくのもほどほどにね」

 孝美が冗談とも本気ともつかない顔で釘を刺してくる。


「でもさすがだね。私たちの中で一番浴衣が似合ってるよ航」

「そう? 二人も素敵だけどな」

 航は涼やかな水色の浴衣をまとっていた。柄は白波で、抜群のスタイルの良さと小麦色に灼けた肌とのコントラストもあいまって、三人並んで公園内に戻ると、否応なく彼女はそこにいた他の子たちの目をいたようだった。将人なんて、ぼーっと口を開けてこっちを見ながら、間抜け面を晒している。

「へえ、結構集まってやるんだね」

「この団地(じゅう)の子供が来てるからね。不参加の人もいるのに、この人数」

「ボクも花火やっていいの?」

「もちろん!」

 花火セットは余裕をもって、十分な数を用意してある。


 航は私と一緒に団地の子たちにまじって、とっかえひっかえで手持ち花火やパラシュート花火、ねずみ花火などを堪能した。そのうち、いつの間にか禁断の横向きロケット花火に興じる男子たちにまじってはしゃぎ始めていた。

「えー、ロケット花火でのブンドドは危険なのでやめてくださーい」

 メガホンをもった孝美がリーダーらしく注意喚起する。本当に危ないからやめた方がいい。

 てかこれ孝美の中ではブンドド扱いなのか。ブンドドを何だと思ってるんだ。チャンバラみたいな感じで把握してるのか? まあ、昨日ブンドドブンドド言いすぎて語義があいまいになってしまってるのかもしれないけど。


「航んとこはもう盆踊りやった?」

 私は手持ち花火を二本もちで楽しみつつ、ロケット花火を注意されてしょんぼり戻ってきたあと、隣でじっとへび花火に見入っている航に声を掛けた。

「うん。先週やったね。朔子が関西に行ってる時」

「ほんとにお盆にやるんだ」

「そうみたい。でもこういう花火大会は無かったなあ」

 同じ市内でも行事の内容には地域差があるようだ。


 それから、残っている宿題の分量の話とか、二学期にやる予定の学校行事の話などをしているうちに、やがて花火大会も終わる予定の時間が近づいてきた。

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