十二、線香花火とブンドド娘(1)
次の日は、団地の町内会が主催する盆踊りの日だった。
盆踊りは毎年、夏休み最後の日曜日に開催される。本来のお盆はもう過ぎているから、「盆踊り」というのも名前だけのものだけど、そこにツッコむのは野暮というものだろう。
団地の真ん中にある集会所の前には大きな砂地の広場があって、何日か前からそこには、建設現場の足場のような、鉄パイプで組まれた櫓がたてられていた。
当日の今日になって、それが紅白幕をまとい、台上には大太鼓が据えられた。櫓の天辺から周囲に放射状に張り渡されたロープには、白熱電球を仕込んだ提灯がいくつも下がっている。
夕暮れの中で団地の住人が三々五々に集まってきて、だんだんとお祭りらしい雰囲気になっていた。
先に出た兄弟たちを追って広場に向かおうとアパートを出たところで、私は妹を連れた孝美とばったり出くわした。
「わあ、さっこちゃん新しい浴衣?」
仁美ちゃんは私の紺の浴衣に目がいったようだった。
私は首を横に振った。
「新しいっていうか古いっていうか……もともとはお母さんの着物なのよ。若い時のやつで丈が合わなくなっちゃったんだけど、生地と柄がいいから表地だけ解いて、私の浴衣に仕立て直してくれたの」
「すごーい!」
「ほんと、素敵ね。さすがは朔子ママ」
孝美も褒めてくれた。着付けに時間をかけた甲斐がある。
それにしても、私の母の裁縫の技術はシャレ抜きですごいことは認めざるを得ない。和裁も洋裁もこなすし、出来上がったものは既製品なみにしっかりしていた。
「けど、ちょっと薄手すぎて透けてないか心配なんだよね」
「ちりめん?」
「そう」
いちおう大事な部分は羽二重の裏地がついてるし、万が一透けてもいいように襦袢を下に着てきたけど、これで近所の男の子たちの前に出るのはなんかムズムズする。色は大人っぽくて好きなんだけど。
「紺色だし、夜だからわからないと思うよ」
「そうかな」
「たぶん」
たぶんなんだ。断言してほしかったな、そこは。
それはそうと。
「孝美のも相変わらずかわいいじゃん」
「そう? ありがと」
「あたしは?」
「仁美ちゃんも、もちろんかわいいよ」
「やった!」
孝美も仁美ちゃんも去年と同じく、色違いでおそろいの花柄の浴衣だ。仁美ちゃんはピンクで、孝美は朱。
生地は化繊だけど、孝美のは着馴れていい風合いが出ている。着こなしも去年より洗練されていて、私より胸が出っ張ってない分、和服がよく似合った。……それを言ったらたぶん彼女はムッとするだろうから言わないけど。
そして私は、そのまま孝美たちと連れだって広場に向かうことになった。
足元は三人とも素足にビーチサンダルで、一歩ごと、道路にゴムのすれる音が虫の音にまじって、閑かな夜空に響いた。
「そっか、将人くんはお兄さんたちと行っちゃったのね」
「うん。私が引き留めるのも変だからそのまま行かせちゃった。ごめんね」
「いいよ、あたしもどうせ仁美つれてたし」
提灯で明るく照らされた盆踊り会場に着くと、兄たちや将人が先に来ていて、町内会の人たちが差し入れてくれたアイスバーやラムネの瓶を手に、広場の隅っこの方でたむろっていた。
私たちに気づくと、崇一郎が大きく手を振って迎えてくれた。
将人はコーラ瓶を片手にちらりとこちらを一瞥して、何も言わずに篤志との会話に戻ろうとした。
「将人、なんか言うことないの?」
「いや、別に?」
これだからこいつはほんま。
「バカ。浴衣かわいいね、って孝美に言ってあげなさいよ」
「なんでわざわざ」
「いつも世話になってんだから、そのぐらい気ぃ利かせなさい」
野球バカの朴念仁にビーチサンダルで砂を蹴り掛けてやると、「ああ」とようやく納得して、
「お前ら、浴衣似合ってるな。かわいいかわいい」
と、取って付けたように褒めてきた。
褒め方よ! あと、私はいいんだよ別に!
それでも孝美は「ありがと」とにこやかに笑顔を返していた。私がやきもきしても仕方ないけど、この二人はこんな調子で今後進展するんだろうか。
ともあれ、盆踊り大会は時間通りに始まった。
盆踊りそのものは例年と変わり映えなく、特に目新しい曲や振り付けもなかったが、今年から町内会有志が八トラックのカラオケ設備を用意してくれていて、踊りの進行の合間に挟んで、カラオケのど自慢大会が開催された。
我が家からは崇一郎と篤志が出場して拍手をもらっていたが、断トツの優勝は仁美ちゃんがかわいく唄った、わらべの『もしも明日が。』だった。




