十一、朔子と航(2)
「それじゃあ、副将戦いくよ!」
孝美の宣言も堂に入った感じになってきた。もはや「ルールのあるブンドド」の司会進行をさせたら世界で右に出る者はいないだろう。左に出る者も誰もいないけど。
「先手の朔子ちゃんから、どうぞ!」
「最後になるかもしれないなら、やっぱりコレよ! 三十五分の一、M4A3シャーマン戦車!」
私は仕上げたばかりのM4を卓袱台に置いた。
航ちゃんとこの部屋で初めて製作会をした時から、ずっと彼女と一緒に作っていたものだ。
「あの戦車か。ふうん、奇遇だね」
航ちゃんは少し嬉しそうに微笑んだ。
「航ちゃんも副将さんをどうぞ!」
「ボクはこいつだ! 四十八分の一、零式艦上戦闘機五二丙型!」
「おお!」
航ちゃんが私のシャーマンと向かい合わせに、卓袱台の反対側に置いたのは、やはり二人の製作会で一緒に作っていたゼロ戦だった。
「ボクが朔子ちゃんの部屋で最初に作ったキットだよ」
「ああ、奇遇ってそういう事か。こっちは私が航ちゃんの部屋で最初に作ったキットだもんね」
「なかよしでいいなあ」
うらやましそうに孝美がぼやいた。
航ちゃんはそこで、戦いを終えて脇に寄せられた私のこれまでの作品を一瞥した。
「っていうかさ、朔子ちゃんひょっとして飛行機一つもないの?」
「大将戦まだだけど、先に言っておくと、お察しの通りよ!」
私は胸を張って見せた。航ちゃんはあきれ顔だ。
「えー! ボクと戦うなら一つくらい飛行機をもってくるかと思ったのになあ。ビッグワンガムのP-51は?」
「あれは……八十六分の一とかいう微妙なスケールだったから」
そのほかにも、ガンプラのマゼラトップとか、スリングパニア―付きのバイファムとか、いわゆる航空機模型には含まれないけど航空機として扱えそうな作品は無いでもなかったのだけど、いずれも小スケールなためこのゲームのルールでは弱く、また、気合を入れて作ったAFVに比べると出来もそんなに良くなかったので、思案の末除外してきた。
それが空対空戦に備えてきた航ちゃんの思惑を少しだけ外す形になったようだ。
奇しくも副将戦では、この夏の二人の想い出が詰まった二つの作品が、その作業をした卓袱台の上で対峙することとなった。
もちろんシャーマンは地対地適正、ゼロ戦は空対空適正だ。お互い得意な相手ではない。同時代の兵器ではあるけど、史実でも正面切ってサシで戦ったことなどないだろう。
「お互い作品出そろったということで、――副将戦開始!」
その後展開されたのは、ここまでの対戦の中では類を見ない泥仕合だった。
適正を持たない相手に対して、攻撃の成功率は著しく低下する。攻撃が失敗すれば攻撃側の耐久力が一づつ減っていく。攻守ともに〈コウゲキシッパイ〉〈ジブンニ1ノダメージ〉という表示が繰り返される。たまに当たることもあったが、適性がないため効果的なものにはならない。
「がんばれ、爆装してなくても上面装甲なら機銃でやれるはず!」
「こっちの機銃だってハーフインチだ! 防弾板も無いような戦闘機なんて撃ち落とせ!」
「五二型はあるよ、防弾板」
「あ、そうなんだ」
新たな知見を得た。
結局お互い決め手を欠いたまま消耗戦が続き、わずかに耐久力が低かったゼロ戦が先に墜ちた。
私の勝ちではあるものの、なんとも歯切れが悪い。
「うーん、こういう展開もあるのか」
「燃料切れで墜落したってところかな。なんかモヤっとするけど」
「やっぱり日本軍の敗因は物資補給かー」
変なとこだけ史実を再現してくれるなよ。
ともかくこれで勝敗は二対二。首の皮一枚で私は生き残り、いよいよ大将戦を迎えることになった。




