十一、朔子と航(1)
「それでは、朔子ちゃんの中堅さんをどうぞ」
私と航ちゃんの間で話がついたのを見計らって、孝美が言った。
航ちゃんに目論見がバレていたことが分かり、計画はすべて白紙に戻った――かに思われたが、何を思ってか航ちゃんは勝負の継続を望んだ。
私の申し出た、負けた方は勝った方の言うことを一つきく、という賭けも呑んでくれた。
この「ルールのあるブンドド」を楽しんでくれているようなのは嬉しいけど、どういうつもりなのだろう。
「さーくこちゃん!」
孝美に再度促されて、私はリュックの中をまた確認する。
残る作品は三つ。それは航ちゃんも一緒だ。
先鋒戦と次鋒戦はいずれも現代の西側兵器同士の戦いになったけど、ここにきて航ちゃん陣営からアニメモデルが出てきた。
私の陣営の残りの三作品のうち一つは、どう考えても地対地適正の戦車だ。中堅戦にあえて勝ち目のないこの作品を当てて、航空戦力に対抗できそうな他の作品で副将戦・大将戦を戦うという道筋もあったが、コンバットアーマーがあるとなると、航ちゃんの軍勢が航空機中心という予想が少し揺らいでくる。副将と大将が読めない。
ならば――
「決めたわ。――行け! 三十五分の一、ドイツ八十八ミリ砲!」
「え、対戦車砲じゃん。いいの?」
テキーラガンナーが空対地適正と判断された以上は、四本足で地上を歩いていようとも航空機扱いになる。私の選択した作品に航ちゃんが首を傾げたのは、この兵器が第二次大戦中に対戦車戦で大きな戦果をあげたことをうっすら知識として知っているからだろう。
しかし。
「対戦車砲? いいえ。プラモの名前は八十八ミリ砲だけど、本来の名称は八・八センチ対空砲! そもそも航空機を撃ち落とすために作られた兵器なのよ。だから地対空適正でもいける!」
「えー? それズルくない?」
「いーやズルくない!」
「孝美ちゃん審判!」
「ええと、わかんないから今度は朔子ちゃんの方で」
相手の適正に合わせて、地対地でも地対空でもいけるのは確かにちょっとセコいけど、もともとこの作品は、航ちゃんが意表をついて陸上兵器を多めに持ってきたりした場合に備えてのことだ。想定とは逆になったけど、ちゃんとした戦略の一環だった。
「先鋒次鋒で一対一だからね。ここで勝ち星とりたいもん」
「それはこっちも同じこと。くっそー、意表を突けたと思ったのになあ」
しかし八十八ミリ砲のイメージとして、防御力や耐久力を多く割り振るのは違う気がする。かといってそれらの能力値が低すぎると、先手番のダメージによっては一撃頓死してしまう。四十八分の一スケールのコンバットアーマーなら、スケール的にはさっきのハリアーと同じだ。能力値の割り振りは慎重に行かなければならない。
「では勝負!」
入力が終わった孝美がそう宣言し、三度目のYボタンを押すと、先手テキーラガンナーの攻撃が失敗したことがまず表示された。
「スカった!」
航ちゃんが青ざめる。
「ラッキー!」
私は膝を打った。
後手、私の八十八ミリ砲は、返す刀でテキーラガンナーの耐久値を半分ほど削った。
次の先手の攻撃を耐えれば……
しかし続いてポケコンに表示されたのは、
〈センテ クリティカルヒット〉
の一文だった。
そのあとに表示されたテキーラガンナーのダメージの数値はこれまでのものとは桁違いに大きな値で、普通のダメージなら二発くらいは耐えられるように割り振ったはずの八十八ミリ砲の耐久値は、一撃でゼロになった。
〈ハカイサレマシタ〉
「えええええ!」
「なに、このダメージ? プログラムおかしくなっちゃった?」
勝った方の航ちゃんも、ちょっと釈然としない表情だ。私は説明した。
「ええとね。どんな兵器でも、一発当たると致命的な部分てあるでしょ? 燃料タンクとかエンジンとか」
「うん」
「そういうのを再現したくて、ものすごく低い確率で「クリティカルヒット」っていうのが出るようにしてもらったの。パソコンのロールプレイングゲームなんかで出てくる用語なんだけど……」
「しらない」
「だよねえ」
一部のパソコンゲームマニアしか使わないような用語で、私だって理博の説明を聞かなければ知らなかった。
「とにかく、今の状況だとテキーラガンナーの主砲が八十八ミリ砲の防盾の隙間を抜けて砲手をミンチにした、って感じかなあ」
「奇跡が起きたってことだね。了解」
さて、困った。
純然たる対空兵器はもう無い。航ちゃんが副将戦で何を出してくるかによっては、大将戦を待たずに勝敗が決してしまう。
しかも副将戦は私が先手番なので、私の出す作品に合わせて航ちゃんが勝てそうなものを選んでくることになるのだ。
窮地に立たされた、私の運命は?




