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十、ポケコンとルーズリーフ(5)

「今度はボクの勝ちだ!」

「まだまだ! 一対一だし!」

 この勝負、勝たなければならない。

 しかし、今ので分かったけど空対地適正の相手に対して地対地適正の作品は、スケール差があってもかなり不利になるようだ。先鋒戦で切り札のゲパルトを使ってしまったのは早計だったかもしれない。

 作品のイメージを無視して普通の戦車に地対空特性を申告することも仕様上可能だけど、理博が言っていた通り、それではブンドドとして面白くない。


「それじゃ、中堅戦いくねー」

 孝美がたび宣言して、航ちゃんから中堅戦の出場作品が提出される。

「ここでちょっとアニメモデルで勝負といこうか。ボクの作品はこれ! 四十八分の一テキーラガンナー!」

「おお、ダグラム! コンバットアーマーだ!」

 植民地惑星の革命戦争を描いた『太陽の牙ダグラム』は、去年まで放映されていたリアルロボットアニメだ。そこに登場するメカのことを「コンバットアーマー」と呼び、ガンダムのモビルスーツのようにたくさんの種類のコンバットアーマーが登場する。

 ガンプラの成功をみて、タカラが四十八分の一スケールでプラモデルシリーズを展開していて、テキーラガンナーもその一つだった。


 戦車の下に四つの脚がついたようなフォルムで、主砲の他、両脇に張り出たデッキに兵士が乗って周囲を攻撃できるようになっている。

 私はあまり詳しくないが、以前に聞いた話だと、航ちゃんは一時期ダグラムの模型シリーズにハマっていたらしい。出てくる可能性は考慮しておくべきだった。


「まあ、さすがに飛行機ばっかりだと単調で飽きるかなと思って」

「ええと、それは地対地適正でいいの?」

「上から攻撃できるんだから空対地だと思うけど」

「ズルい! 歩いてるんだから地上兵器でしょ」

「えー、ズルくないよ。だって戦車を撃つ時の攻撃ヘリと同じくらいの高さじゃない?」

「さすがにヘリはもっと高いよ」

 まさかこんなところで想定外の判断を求められるとは思わなかった。


「孝美、審判ジャッジ!」

「え、ええ?」

 一応、パラメータや適性の割り振りで揉めたら孝美が公平に判断するということになっている。

「え? わかんないんだけど……じゃあ航ちゃんの方で」

「マジか」

 と私。

「やった!」

 航ちゃんは両手をあげて万歳する。


 孝美が何を考えたのかはわかる。ここで私有利のジャッジを下したら、あとあと私と孝美がグルだったと思われるに違いないのだ。

 もちろん孝美にも、今日の私の作戦や意図については言い含めてあるのだけれど、少なくともこのブンドドゲーム自体に関してはフェアな勝負をしたいと思っている。ダグラムの設定とか場面を知らない孝美は、他に理由が無ければ、この場面では航ちゃんの言い分を聞くほかない。


 そこまで察して、私はやむなく承知した。

「しょうがないわね。ルールだもんね」

「そうそう。ルールのあるブンドド、いいね!」

 航ちゃんは上機嫌だ。

「ねえ、航ちゃん」

 丁度いい局面かもしれない。私はここで仕掛けることにした。

「適正は譲るけど、一つ賭けをしない?」

「賭け? というと?」

「この勝負、大将戦までやって、結果負けた方が、勝った方の言うことを一つきく、とか」


 私は内心で、少し緊張しつつ、その提案をした。自然に提案できたと思うけど、裏の意図――航ちゃんに私の願いを聞いてもらうため、ということがバレたらおしまいだ。

 二人の間にしばしの沈黙が流れた。

「ど、どうかな?」

 航ちゃんはそこでにやりと笑った。

「ここで来たか、って感じだね」

「え?」

「朔子ちゃんがいつそれを言い出すのか、待ってたんだ」

 どういう事? 航ちゃんの返事が予想外で、少し混乱する。まさか――

「ひょっとして、バレてた?」

「うん」

 最初から、こちらの意図が読まれていたというのか?

 私は動揺を隠すことが出来なかった。


「――日曜日の電話の時にね、何も気にしてないって朔子ちゃん言ったけどさ、その後お母さんから朔子ちゃんと何の話をしたのか聞いたんだよね。信介さんにも会ったって言ってたし、絶対なにか今日仕掛けてくるんだろうなって思ってた」

 航ちゃんは平然とした表情のままそう言った。

 つまり、私の作戦はすべて看破されていたようだった。

「上手く乗せたと思ったのに、泳がされてたのか……」

「あはは、そういう事になるねー」

 ショックのあまり肩を落とす私に、航ちゃんはしてやったりの表情で胸を張った。


 はあ、と息を吐いた後、私は航ちゃんに訊ねた。

「どうしよう。ここでやめる?」

「何言ってんのさ」

 航ちゃんは少し怒り顔になって言った。

「せっかく盛り上がってきたところじゃん! 続けようよ、ルールのあるブンドド」

「……続けていいの?」

 意図が知られたら終わると思っていた私にとって、航ちゃんの言葉は意外だった。

 彼女は卓袱台に置かれたテキーラガンナーの脚部のポーズをいろいろ試しながら言った。


「予想以上に面白いからね。このまま中途半端に終わらすの勿体ないしさ。――それに、さっきの賭け、ボクは乗らないなんて一言も言ってないよ?」

「ええ?」

「負けた方が勝った方の言うことを聞く、でいいんだよね? 実はボクが勝ったらさ、朔子ちゃんにひとつやってもらいたいことがあるんだよね」

「え、何してほしいの?」

「それは勝ってからのお楽しみ。――乗るよ、賭け。いいでしょ?」

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