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十、ポケコンとルーズリーフ(3)

 プール前の坂道を上り、いつぞや夕焼けの中で孝美と仲直りした想い出のある崖沿いの道を走って、この夏何度もかよった(わたる)ちゃんの家に着いた。自転車をとめる場所ももう案内不要だ。

 お母さんに「お邪魔します」と挨拶して、二階の航ちゃんの部屋にあがらせてもらう。卓袱台とか道具の準備はすでにできていた。


「できたら、作るより先にブンドドのやり方の話がしたいんだけど、いいかな?」

 私はできるだけ意図を悟られないように、いつも通りを装ってそう言った。

「いいよ。後回しにしちゃうと、せっかく準備してきたのに中途半端になっちゃうかもだしね」

「そういうこと。私も新しいキット持ってきたから、早く作りたいのはやまやまなんだけどね」

 それは嘘でもあり本音でもあった。


 学校が違う以上、新学期が始まったら予定がなかなか合わなくなると予想できた。この夏の間にできる製作会の回数は限られている。その貴重な一回を、製作メインではなくブンドドで消費するのは、ひょっとすると勿体ない事なのかもしれない。

 だけど、今は航ちゃんの説得のために、この「ルールのあるブンドド」を勝負として成立させることが最優先だった。


「じゃあ、ルール説明するね」

 孝美はそう言いながら、自分のカバンの中から青い背のルーズリーフを取り出した。

「え、孝美ちゃんが説明するの?」

「そうよ。覚えるの大変だったんだから」

「私たち二人の勝負だからね。公平性のために審判(ジャッジ)を孝美に頼んだの」

「ふうん。ボクは朔子ちゃんがズルしたり八百長したりはしないと思ってるんだけど……」

「信用してくれるのは嬉しいけど、こういうのって形式が大事だと思うのよ」

「わかった」


 ルーズリーフに細々(こまごま)と書かれたルールは理博の手によるものだ。

 ポケコンにプログラムとして実装されている、勝敗判定の計算式なども、小学生に理解できる数式の形に直して記載されていた。

 孝美は昨日私にそのルーズリーフを渡されてからほとんど一日で覚えたルールを、理博の文章を読みながら、自分の理解を適宜補足しつつ私たちに説明した。

「へえ、なかなか本格的じゃない」

「ウォーゲーム・エレクトロニクスと違って、布陣とか移動とか同時攻撃とかはないから単純な仕組みではあるんだけど、いつものブンドドよりゲーム性が高い感じになればいいなって」

「うん。わかる! あと、スケールの大きさで強さが変わるところは、兵器同士じゃなくてプラモ同士が戦ってる感じがしていいね」

「でしょ?」


 そこで、私は右の手を開いて五本の指を伸ばし、渡ちゃんの前にてのひらを見せた。

「五回戦よ」

「なに?」

「私、今日のブンドドのためにね、昔作った作品を五つ持ってきたの。だから、五回戦でやろうと思うんだけど、どうかな?」

「いいね。団体戦ってわけか」

「そうそう。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将ってね」

「あ、『ダッシュ勝平』でやってたやつだ」

「私は『奇面組』で知ったけど」

 この前無事閉会したオリンピックでは柔道の団体戦が無かったけれど、学生同士の大会なんかでは五対五の対抗戦形式というのがあるらしい。理博のプログラムでは一対一の対戦しか判定できないから、その形式で五回戦やって勝ち星の数を競うやり方が盛り上がるのではないか、とそう考えたのだ。


「じゃあ、航ちゃんは自分の出場選手を選んでください」

「はい、審判どの!」

 孝美に言われて、航ちゃんは仰々しく敬礼すると、自分の作品が並んだ棚を物色しはじめた。ああでもないこうでもないと思案した挙句、五分ほどで彼女は自分側の出場作品を選抜できたようだ。

「ちなみに、どの作品を出すかは伏せといたほうがいいの?」

「そうだね。どうしよう、朔子ちゃん?」

 最初から全部オープンにしても良かったが、伏せておいた方が戦略性が増しそうだった。

「じゃあ一回戦ごとに、先手を取った方が自分の出す作品を先に教えて、それに対応して後手側が自分のを決めることにしようよ。システムが先手有利にできてるはずだから、出す作品は後出し有利でバランス取れるでしょ?」


 システムが先手有利だというのは、スケール差によっては先手の一発で後手側が反撃できないまま破壊されることもあり得る、という理由からだ。その補正として、後手を持った側が相手の出場作品を見て、それに応じて自分の作品を選択できるようにすればよいのではないか。

 意図を説明すると、航ちゃんも賛成した。

「シンプルでいいね。計算式を完全に理解したわけじゃないけど、航空機は陸上兵器に比べると有利な感じなんだよね?」

「最初に空対地の適正を選択すればそうなるようになってるね。空対空だとそうでもない」

「朔子ちゃんが戦車を出すってわかってれば、こっちは同じくらいのスケールの攻撃機とか爆撃機を出せば勝ちやすいってことでしょ?」

「そうそう」

「じゃあそれで行こう」

「じゃあそれで行きまーす」

 孝美が最終決定を下し、そのやり方で行くことに決まった。

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