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六、ウォーゲームとプラスチック物差し(3)

 今日作っているプラモの陣営に合わせて、私が連合国軍側、航ちゃんがドイツ軍側を受け持った。


 バルジ大作戦といえば、その名前で映画にもなった、第二次世界大戦末期、西部戦線の有名な戦闘だ。

 ノルマンディ上陸作戦以降、東西の戦線に挟まれる形になったナチスドイツが、窮余の策でベルギー南部のアルデンヌの森に持てる限りの戦力を結集させて大攻勢をかけたが、最終的には負けた。

 つまり連合軍が勝った(いくさ)のはずなのだけど……。


 CMのキャッチコピーの通り、歴史を変えてしまった。


 三回ほど対戦してみた結果、ルールがおぼつかないのと、航ちゃんの方は曲がりなりにもやったことがある、という経験の差で、私は一回も勝てなかった。

「また負けたあ。やっぱり、もうちょっとルールを覚えてからの方がいいかなあ」

 私がもろ手を挙げて降参のポーズを見せたのを見て、航ちゃんは「じゃあこれで終わりにしようか」とコマを仕舞い、盤を箱に片付けた。


「本当の歴史なら、連合軍が絶対有利なはずだよねえ」

 ゲームとはいえ、陸モノモデラ―の端くれであるにもかかわらず陸戦に負けたのは悔しい。

「そうだね。でもゲームだから、上手くやればどっちも勝ちのチャンスがあるようにできてるんだろうね」

 勝った航ちゃんは、ほくほくの笑顔で言った。

「サイコロ運もよかったし。戦車ユニットが強かったね」

「まあ、ドイツ軍の戦車が強かったのは本当なんだけど」

「そうなの?」

「うん。タイガーとかパンサーとか、遠くから一撃でシャーマンの装甲に穴をあけちゃうらしいよ」

「なんでそれで負けたの?」

「数が少なかったから」


 戦時中にドイツ軍が一番多く作った戦車は四号戦車で、全型合わせて八千輌ぐらいだった。

 この前私が作って、「模型のかとう」に飾ってもらったやつだ。

 パンサーが六千輌あまり、戦車じゃないけど戦車みたいに使われた三号突撃砲が、やっと一万輌を少し超える程度だ。ドイツ戦車の代表格のように言われるタイガーやキングタイガーは、両方足しても二千輌に満たない。

 対して連合軍の主力は、米軍のシャーマン系が五万輌弱ぐらい、ソ連のT-34系が六万輌弱ぐらいと、桁が違う。

 ドイツ軍の戦車は単体では攻撃力・防御力とも連合軍の戦車を上回っていたけど、数が多かったのと、修理や運用の簡単さが勝敗を分けたのだ。と、そのむかし図書館で読んだ本に書いてあった。


「でも、面白いゲームだったね」

 私は作りかけのM4A3(シャーマン)をまた箱から取り出しながら言った。

「戦車のプラモデルを作ったことがあれば、実車のイメージをしながらコマを進められるし、ブンドドしてる時と同じような感覚だったわ」

「シミュレーションゲームはルールのあるブンドド、ってわけか。なるほどなあ」

 航ちゃんも深く同意するようにうなずいて、ゼロ戦の製作を再開する。

「あの、自動的にコマの勝ち負けを公平に判定してくれる仕組みはいいよね。ブンドドだとその場の勢いで、言ったもの勝ちになっちゃうもの」


 航ちゃんと初めて出会った日に、ブンドドという言葉を覚えた。それ以来、製作会があると一度は二人してブンドドをやってみてはいるのだけど、いかんせん地上戦力(せんしゃ)は航空機に対して分が悪い。

 なので私が勝つためには、相当無理のあるシチュエーションを想像しないといけなかった。

 でもそれが通ってしまうのもまたブンドドだ。シミュレーションゲームなら、シャーマンの七十五ミリ砲は高空をくゼロ戦に毛ほどの損傷も与えられない判定になるだろう。


「いつかさ、今作ってるキットだけじゃなくて、前に作った作品も持ち寄って、それをコマにしてシミュレーション・ブンドドしてみたいな」

 私がひらめいたそのアイディアは、自分で言ってもワクワクしてくるものだった。

「おおー、いいねえ。でもどうせやるなら広い場所でやりたいよね」

「野球場とか借りちゃう?」

「いくらかかるかな」

 笑いあって、また作業に戻る。

 時刻は午後三時の少し前。もうすぐおやつの時間だ。

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