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二、自転車と卓袱台(6)

 その後も(わたる)ちゃんと孝美の初心者講習は続いた。

「接着する前に、仮組みしてパーツの合いを確認しよう」

「はい」

「接着剤はオマケのチューブ入りじゃなくて、こっちの瓶に入ってるのを使ってね」

「はい!」

「合わせ目にできる溝や段差は紙ヤスリでならしていこう」

「はーい!」


 航ちゃんが分かりやすく説明して実演し、孝美がそれを見て真似する感じで製作は進み、ようやく孝美のアッガイは脚部が組み上がった。

 ここまでおよそ二時間ちょい。

「ふう……」

「こんな感じで、説明書通りに手足を組み立てて、最後は胴体のパーツで挟むと組みあがり。塗装まではいけなさそうだけど、とりあえず、そこまでがんばろー」

「うん! けど」

 孝美は組説インストとにらめっこしつつ、不安を口にした。

「この爪のところ、難しそう……」

「そうだね。確かに初心者には難しそうだから、そこはボクが作ってあげよっか」

「いいの? ありがとう」


 うーん。

 なんか航ちゃん、孝美の製作指南にかかりっきりで、私とはあんまり話せてないなぁ。しょうがないけど。

 いやしょうがなくはないか。

 昨日みたいに、航ちゃんとずっと模型趣味の濃い話がしたい、と思っていたのに、全然そんなタイミングがない。

 航ちゃん自身の作品も、あまり手が進んでない気がする。エルエスのジェット機シリーズはそんなに時間がかかるキットじゃないけど、でも……


 自分が孝美を連れてきたせいで予定通り進まないのは、ちょっと申し訳なかった。

「ねえ孝美、あんまり航ちゃんに迷惑かけない方がいいんじゃない?」

 私はちょっとキツめの口調でとがめた。

「あ……うん。やっぱりそうだよね」

 孝美はしゅんとしたが、航ちゃんはけらけら笑って、

「いやー、ボクは全然気にしてないよ」

 と孝美の肩をぽんぽん叩いた。

「初心者モデラ―には優しくしよう、ってボクのプラモの師匠も言ってたしね!」

 しかし航ちゃんが気にしてなくても、私の方がどうしても気になってしまっていた。

 それが顔に出ていたのか、航ちゃんは私にも笑顔を向けて、穏やかな声で言った。


「ほら、孝美ちゃんてさ、おうちにツール無いんでしょ? ここで完成させて、作る喜びを知ってもらおうよ」

 確かに、ここで同級生の女子モデラ―が一人誕生したら嬉しいんだけど――孝美の場合そういう感じでもないような気がする。


「ねえ孝美、ここまで作ってみてどう? 面白い?」

「ううん……」

 孝美は少し思案した。

「正直、まだ、よくわかんないや」

 やっぱりなぁ。

「朔子ちゃんや航ちゃんとおしゃべりしながら作るのは、すっごく楽しいんだけど、プラモデル作り自体はそんなに。二人とも優しく教えてくれるから、手は進むんだけど、自分が何やってるのか自分でわかんない感じ、かなあ」

「そんなとこだと思った」

 ふう、と私はため息をついた。


「結局さ、孝美はプラモに興味があるわけじゃなくて、私が行くから後ろについてきただけでしょ。金魚のフンみたいにさ」

「そんな言い方ないでしょ!」

 孝美は口をとがらせて、両手で床を打って私に迫った。

「わかってるよ。航ちゃんがあたしとばっかり話してるから、面白くなくって意地悪言うんでしょ」

 さすがに見抜かれている。図星だけに、私が返す言葉も強くなっていった。


「だったら何よ! 趣味が合うから集まってるのに、そうじゃない奴がざってきて面倒かけられたら、面白くないに決まってるでしょ!」

「そうやって、すーぐ自分の世界だけにこもろうとするから、友達出来ないんだよ!」

 その一言で、私は堪忍袋の緒が切れた。売り言葉に買い言葉なのはわかってるけど、ぶっつりと切れてしまった。


「航ちゃんとお友達になって今日いっぱい話せると思ったのに、孝美が邪魔してんじゃん! なんで来たの? 将人の練習見に行けばよかったじゃん!」

「邪魔って何よ! 心配して来てあげたのに!」

 孝美の方も私と同じくらいの勢いで言い返してくる。

「余計なお世話!」

「余計じゃないよ! いつも友達出来そうになっても最後は突き放して孤立してるじゃん。あたしがいなかったら、朔子ちゃんなんてクラスで仲間外れ(ハツケ)にされててもおかしくないんだからね!」

「あー、これこれ。ボクんで喧嘩しないでくれるかのう、お若いの」

 航ちゃんが冗談交じりに止めに入ってくれたけど、正直もうたくさんだ。


「余計だって言ってるでしょ――航ちゃんはいままでの子と違うの。それも分かんないくせに、恩着せがましく保護者面しないで!」

 怒気で声が低くなっていくのが自分でもわかった。

「邪魔。いますぐ、出てけ」

 私ににらまれた孝美は、口をへの字にしたまま蒼白になり、次の三秒で、目元に涙がたまっていくのが見えた。

「朔子ちゃんのバカ――!」

 孝美はすっと立ち上がって、大声でそう怒鳴ると、きびすを返して航ちゃんの部屋のドアを出て行ってしまった。

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