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二、自転車と卓袱台(5)

「ところで、そもそも『ガンプラ』って何なの?」

 孝美が根本的なところを訊いてきた。

「いい質問だねえ」

 と、今度は航ちゃんが先生役になって答える。

「簡単に説明すると、アニメの『機動戦士ガンダム』ってお話に出てくるメカのプラモデルのことだよ」

 説明されても、孝美はあまりピンときていないようだ。

「あー、ええと、いろんな種類のモビルスーツってメカが出てきて……」

 説明に詰まった航ちゃんに、私が助け舟を出した。


「ほら、四年の時に中野とか工藤とかが持ってきてた下敷き、覚えてない?」

「下敷き?」

「これのことかな?」

 航ちゃんは、自分の机の引き出しから「ガンプラ下敷き」の現物を取り出して見せた。

 B5版ノート用のサイズで、両面に、当時出ていた百種類のガンプラの箱絵(ボックスアート)の縮小版がずらりと並んで印刷されているものだ。

 何年か前、模型小売店の販促のために製造元のバンダイが出していたもので、基準は店によるけど、一定額以上ガンプラを買うともらえたらしい。

 私自身は持っていなかったが、クラスの男子たちに見せてもらったことがある。


「うわあ……これが全部ガンプラ?」

「そう! 今やプラモ界の一大ジャンルなんだよ」

「へえ……」

 まだ興味が薄そうな反応をしている孝美に、引き続き基本的なプラモデル作りのやり方を説明しながら、私も自分の準備を整えていく。

「まずは切り出しね。ランナー――その外枠になってるところから、必要なパーツを切り離すんだけど、それにはニッパーを使うの」

「ボクのニッパー使ってくれていいよ」

「航ちゃんはいらないの?」

「久しぶりに、これでやってみようかな」

 彼女は手に持ったものを見せる。それはおそらく孝美も日常的に見慣れたものだった。

「爪切り?」

「そう! でもただの爪切りじゃないよ。一度も爪を切ったことがない、プラモ専用。昔ニッパー持ってなかった頃に、切り出しに使ってたんだ」

「あ、私もそれやってたわ」

 小学生モデラ―なら誰もが通る道なのかもしれない。


 ニッパーの基本的な使い方を教えると、もともと勘のいい孝美はすぐに切り出しのコツを覚えた。

「パーツを切り出したら、ふちのあるトレーに入れて、こぼれないようにしておくといいよ。キットが入ってた箱の蓋を使うのが簡単だね」

「ちなみに、私は家庭科の裁縫セットの内箱を使ってる」

「あー! それで朔子ちゃんの裁縫セット、中身ぐちゃぐちゃなんだ」

 バレたか。

「えっと……戦車模型ってさ、似たような形のパーツがいくつもあって。それがまた左右で違ってたりするから、組み立てながら間違えないように分けて置いとく必要があるんだよ。仕切りの付いた深さのあるトレーは便利で」

「…………」

 言い訳してみたけど、なんか孝美だけじゃなく航ちゃんにもジト目で見られてる気がする。

「まったくぅ」

 孝美がため息をついた。


「切り出したパーツは、整形が必要だね」

 気を取り直して、航ちゃんは先生役に戻る。

「せいけい?」

「そう。整える方ね。プラモデルはパーツをそのまま組み立てるだけじゃ、綺麗な仕上がりにならないんだ。――例えばこの部品、横から見てみて」

 孝美は促されるままに、切り出した小さな部品の一つを指でつまんで、目の前に持ってきた。

 腕か脚かわからないけど、関節のボールジョイントの球がついた部品だ。


「パーツの表面に、細いスジが見えるでしょ?」

「うん」

「パーティングライン、って言って、金型にプラスチックを流し込んだ時、型の合わせ目に少しはみ出ちゃってできる線なんだ。それが残ったままだと、例えばこの部品の場合、肩のジョイントの球の部分が滑らかに動かなくなったりする。つまり、ポーズがつけにくくなる。困るよね?」

「困るね。どうするの?」

「こうやって消す」

 航ちゃんはその部品を孝美の手から取ると、デザインナイフの刃を立てて、手早くカンナを掛けるようにパーティングラインを削り取って見せた。


「で、大雑把に削った後、この紙ヤスリで番手を細かくしつつ表面を整えて、一丁上がり」

「ほえー」

 整形後のパーツを手渡されて、孝美は感心したようにそれに見入る。

 きれいにパーティングラインが消えていた。


「あ、そうか。切り取っただけだと、パーツ本来の形じゃないから、それに近づけるように削っていくってことね」

「いいね、理解が早いよ。モノによっては、パーツそのものが歪んでたり、パーティングラインの親玉みたいなバリってやつがあったり、金型を外すときの押し出しピンていう金属棒の円い跡がバッチリ表面に残ってたりするんだ。そういう厄介なのをいちいち確認しつつ、一つ一つ整形していく作業が必要。けどまあ、ガンプラだとあんまりそういうの無いから、とりあえずパーティングライン削るだけで大丈夫かな」

「はーい」

 孝美は素直に返事をして、航ちゃんのお手本をまねてパーツの整形をしていった。

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