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非日常

 文化部の日常と非日常

 作・一一


 あらすじ


 高校二年生になった主人公である扉は、平穏に過ごしていた。ある日、部活に入らなくてはならなくなった彼は、部員がいない文化部へと入部する。だがそこには二年の照葉、一年の已結、海住が彼と同じく新入部員として入部していた。さらにそのあとに転校生である真白も入部し、徐々に親睦を深めていく。


 しばらく経ったある日、突然部室に異世界人を名乗るカロシッソという記憶を失った幼女が現れる。戸惑いつつも彼女を受け入れ、とりあえず扉の家で預かることにした一同。彼女の記憶を取り戻すために様々なことを試みるが、彼女の記憶は一向に戻らなかった。そんなある日、カロシッソちゃんを学校に連れて行くと、学校が異世界人のテロリスト達によって占拠された。文化部の活躍の甲斐もあり、彼らを制圧し、カロシッソの魔法で元の世界に還すことに成功する。


 テロリストを元の世界へ還した時と同じ魔法を使ってカロシッソも元の世界に帰ろうとするが、魔力の補充のため一ヶ月はここの世界に留まらなくてはならかった。一ヶ月後を待つ一同に、学校内外で起きている暴力事件の真相を突き止めてほしいという依頼が舞い込む。それを受け調査に乗り出すが、容疑者は絞り込めても決定打が見つからなかった。


 真相に気づいた扉が犯人に会いに行くと、逆上した犯人によって絶体絶命の危機に陥るが、カロシッソの魔法により難を逃れる。


 難は逃れたものの、カロシッソは魔力を使い果たしてしまい、元の世界に帰ることが不可能になってしまった。


 扉とその家族はカロシッソを家族として受け入れ、また新たな日常を始めるのだった。





 プロローグ


 雲ひとつない晴天、ピーカン晴れとはこういう天気のことを指すのだろう。歩いているだけで気持ちがいい、足取りも心なしか軽やかになる。


 心地の良い追い風が吹き、散りかけの桜がひらひらと舞い上がる。そんな何気のないことも、俺の門出を祝福してくれているように感じられた。


 この桜並木の桜は台風なんかで折れてしまっては危ないということで徐々に伐採が進んでおり、今は元々の半数ほどに数を減らしている。全ての桜、というかソメイヨシノはもとより一本だったらしい、したがって寿命も似たり寄ったりだと聞く。俺が高校を卒業する頃にはもう一本も残っていないのかも知れない。危険なのはわかるけれど、やはり寂しく感じられてしまう。どうにかならないものだろうか。


 自分のことで手一杯な俺が道端の木の心配をするとは、心なしか心にも余裕があるのかも知れない。なんにせよ、あの中学校から離れられたというのが一番大きいのだろう。


 今日、4月5日、俺は晴れて高校生となる。学園生活が始まるのだ。ここは私立双葉学園なので、文字通りの学園生活だ。


 まるで昨日までとは別世界のような、これからは全てがうまくいくような、そんな気がした。



 波乱を孕んでいるであろう我が学園生活は、瞬く間に過ぎ去っていった。

 入学式からちょうど一年が過ぎた。クラス一の美少女と仲良くなることもなければ、能力ちからに目覚めることなんて全くない。特別な出来事がゼロの日常を穏やかに過ごしていた。


 俺はいまだに孤高の存在だった。ちなみに英語で言うとsigma、要するに文字通りのwhat the sigmaと言うわけである。本当にどうでもいいけれど、ワッタシグマって宇多田ヒカルの歌みたいだな。


 この一年は何もなく無難に過ごしていた。特別充実しているわけでもなければ何かこれといった悩みや困りもない。過不足ないと言える生活を送っていた。まあ、過不足ないといえば聞こえはいいけれど、何もない高校一年生と言うのもの寂しいような、それはもはや不足がある様な気がしないでもない。


 でも、これより悪くならなければいい。現状維持は最善ではなくても次善くらいではあるんじゃないだろうか



 第一章


 そんなくだらないことをモットーにしている俺でも、普通に生活していれば、否が応でも変わらなくてはならないタイミングが存在する


 それが今日だった。ちょうど少し前に一年生から二年生になるという変化があったばかりなのに、またぞろ変わらなくてはいけないことに出会ったのだ。


 そう、今年からうちの学校には、生徒はなんらかの部活に所属しなくてはならないという、自称進学校みたいな校則、いや拘束が追加されたのだ。


 ここで下手な部活に入っては自分の時間が減ってしまったり、他者との関係を持つことを強いられたりしてしまう。他人と関わり合いになってもろくなことがない。部活には入らないと決めていたのだが、入らないと言う選択肢がない以上、適当なものを見繕って入るしかない。


 一回入ると一ヶ月はやめられないから結構真面目に選ばなくてはならない。運動部は拘束時間が長いし辛そうなのでダメ、すると文化系の中から選ぶことになる。


 パラパラと部活紹介の冊子に目を通す。生徒千五百人の中高一貫のマンモス校なだけあって(俺は高校から編入なんだけれど)部活の数は多い。


 そこら辺の生徒ばかたちは大抵は何かしらの部活動には所属しているらしく、自由時間とばかりにキャッキャウフウフと無駄話に花を咲かせている。群れるのは弱者の証ということを知らないのだろうか、それとも弱者ゆえに群れているのだろうか。船を漕いでいる担任へ精一杯の眼力を込めて睨んだが、特に意味はなかった。まあ、帰宅部と言うかなりのマイノリティのために時間をとってくれていることを感謝するべきか。


 冊子を見ていると、ある部活が目に留まった。


『文化部』活動教室は405。変な名前だが、問題はそこではない。特筆すべきは部員がゼロであることだ。もし部員が俺一人になったらこの部は俺の天下となり、部室は俺の城となる。部室は俺の城になる。別に何もしなくても咎められることはないだろうし、何なら部室で落ち着いて読書に勤しんだりもできる。


 ここにしよう。入部届に筆を走らせ、睡眠をとった。寝る子は育つ!



 今日から新年度の部活動が始まるらしい。俺も早速部室で読書でもしてみようかと思い、部室へ足を運ぶ。

 戸を開けると一人の美少女がうたた寝をしている姿が目に入った。


 それを少しの間ボケっと見ていると、その子は物音に気づいたのか「うーん」と小さく唸りながらゆっくり目を開けた。

 目が覚めてしまったようだ。


「うーん、あっ」


 その子は俺に寝顔を見られて恥ずかしかったのか頬を染めた。なんというか、可愛い。


 ちがうちがう、問題はこの子の顔ではない、文化部は俺を除けば部員がいないはずだ。なのでここは俺が行こうとしていた部屋ではなかったということになる。


 そうと分かれば早急にこの部屋を立ち去ろう、立つ鳥跡を濁さず。会話が広がらないよう先手を打つ!


「あー、すいません。教室間違えたみたいで。」

「そんなことないと思うよ。」


 そんなことない?


「あ、いやいや、えーと、あっそうそう文化部。でしょ。」


 なんかやたらあわてているが、文化部の人のようだ。部員いたのかよ、先に言って欲しかった


 しかし、よくよく考えてみたら何も不思議では無い。理由は単純明快、この子も俺と同じで新入部員だったのだ。他に新入部員がいる可能性をみすみす見落とすとは、完全に俺のミスだ。


 確かこの美少女は玉置たまおき、なるものだったような気がする。


 部屋の半分近くを占めている長机の一番奥の席に玉置さんは座っていた。そして俺は無難に反対側の真ん中くらいの席についた。


 三組の人で、俺とはクラスが違う。自慢じゃないが俺のネットワークは極めて狭いのでクラス外のやつの名前は全くと言っていいほど知らない。だが、見ての通りの美少女なので学校中に名前がまあまあ轟いている。どれくらい有名かというと、俺が知るくらいだ。


 ただこんないかにもリア充って感じの女が、なぜこんな部活に?しかも今更入るのだろうか。


 ここまで言われたらちょっと帰れない。適当に返事をして席についた。

 玉置さんの方を見るとスマホをいじっている。


 ちらっと目が合うとにこっと微笑んできた。いや、笑うと可愛さに拍車がかかるのは結構なんだがどうにも落ち着かない。


 なぜか虚栄心が勝って鞄の底にあった小説を引き出して、ぱらぱらと読み始めた。

 、、、早く帰りたい。だが、来てすぐ帰るというのもばつが悪い。三十分いや二十分もしたら帰るか。


 五分程こんな時間を過ごしていると、


「七海、こんなところで何をするんですの?」

「それはこれから決めるんでしょ。」


 廊下から女子生徒の声が聞こえた。

 部活、、、なんかすごい嫌な予感がする。こうやってわざわざ描写する時は大体当たる。


 案の定というべきか、扉が開かれた。


「、、、、、、」


 後輩その1、ツインテ。その2茶髪でお団子ヘアーな子。


 二人もここに人がいるということは俺同様想定外だったのか、沈黙が流れる。こういう時は決して目を合わせてはいけない。話しかけられるか、気まずくなる可能性が高い。


 現実を受け入れたのか、二人は黙って手頃な席へ座った。


 しばらく無言の状態が続く。


 部員が四人でそのうち三人が女子とは、よく考えればハーレムだなこれ。多分このあと、不思議なゲームに参加しちゃったみんなを、俺が颯爽と頭脳で解決して、『一生ついていきます!』ってなる流れだ。間違いないね。


 とまあそんな取り止めのないことを考えていると、沈黙に耐えかねたのか、玉置さんが口を開いた。


「ねぇ、みんな、せっかく同じ部活に入ったんだし自己紹介でも、どうかな?」


 俺と後の二人は何も返さず玉置さんの方を見た。それをなぜか肯定と捉えたのか続きを喋り出した。


「私は、玉敷たましき玉敷照葉たましきてるはよろしくね。」


 玉敷さんはそう続けるとにこっと微笑んだ。玉置じゃなくて玉敷だった。


 空気を読んだのか、少しの沈黙の後二人組のうちの一人、後輩その2が続いた。


「、、、あー、じゃあ次は私が。私は海住かいじゅう 七海ななみです。よろしくお願いします。」


 緊張しているのだろうか、ちと辿々しい。まあ、これくらいの方が可愛げがあって後輩としては良いだろう。その後を後輩その1が続く。


「では次はわたくしが、私は已結いむすびですわ。七海とは幼馴染で同じクラスですの。私はあなたたちと馴れ合うつもりはありませんの。けれど、一応宜しくお願いします。」


 こうはその1はそういった。正直俺も最初は耳を疑ったが、聞き間違いそうな単語が思い当たらなかった。普通初回の自己紹介でこんなこと言うか?


 お嬢様口調なのにとんでも無く失礼なやつだ。


 玉敷さんは苦笑い、海住とやらは何言ってんのもーみたいな反応だった。


 俺も早く済ませてしまおう。空気は最悪だが、和ませる気の利いた冗談も見つかる訳もなく、


「最後は俺だな。俺は三軒茶屋さんげんじゃや とびらだ。ヨロシク。」


 普通すぎる自己紹介をした。別にこいつらとよろしくやろうと言うつもりはないけれど、俺には宣戦布告する度胸は無い。


 そのあとは特に会話は無かった。ただただ気まずいだけの時間が続いた。


 そもそも俺は部活なんてなくなればいいのにと思っている。部活に入っているか否かで、なぜ差別されなければならないのだろうか?一度考えてみて欲しい。もちろんインターハイなり甲子園なり花園なりを目指して精一杯頑張っているやつは偉い、それに関しては俺も異存はない。でもそれは部活をしていることに対してではなく、何かに打ち込んでいることへの敬意だ。


 でもそんなのはほんの一部に過ぎない。ほとんどの者は、その場だけの知り合い(彼らはそれを友人と呼ぶ)と、だべり、騙し騙し練習をするだけである。なぜそれが評価されているのだろうか?別に部活という体裁があらずとも、家で一人読書しても、ゲームしてもいいではないか。


 ところで部費とかいうシステムが謎中の謎である。なんで同じ学費払ってるのに運動部のゴミクズリア充どもの備品とかに使われるの?やってる奴らからその都度徴収しろよ。あとなんでボランティア部も部費もらってんの?よくわからんけどそれボランティアじゃあなくない?その部費を使ってなんかするんじゃなく全額寄付しやがれ!


 俺が心の中でお気持ち表明している間に、下級生二人組は蝶々喃々と何やら話している。もちろん他の部員に会話は無く、時間だけが過ぎ去っていた。



 そこから一夜が明けた。少し悩んだが俺は部活に行くことにした。毎日俺が居座っていれば他のやつらは一ヶ月位経てばやめるだろうと思ったからだ。


 家ではやれ部活やれだのなんだの言われるので自由に過ごせるこの部室は手放したくないし、こんな半端な時期に他の部活に行けるならぼっちをやっていない。


 意外にも部室は賑わっていた。玉敷さんに後輩二人も甲斐甲斐しくやってきていた。


「扉くん。こんにちは!」

 玉敷さんは俺の姿を見るとどこか嬉しそうな表情で話しかけてきた。後輩共はふたりの世界に入っているから、寂しかったのかな?かな?ただ、


「扉くんて」

 ぼそっと呟く。ほぼ初対面で下の名前+くんはちょっと破壊力が、まぁ全然問題ないんですけどね!そもそも、今までの人生で『扉くん』などと呼ばれたことがあっただろうか、いや無い!


 俺のつぶやきが聞こえたのか玉敷さんは顔を真っ赤にし謝った。


「あ、いや、あの、馴れ馴れしかったよね。ごめん」


 いやあ可愛いんだよなこの子、何しても許されるだろ。俺もこんな顔に生まれたかったわ。


「あーいや、全然大丈夫だけど、、、玉敷さん」

「うん。あっ、呼び捨てでいいよ、なんか同級生の子にさん付けはおかしいし。」


 結構ハードル高いよそれ?


 後輩二人を見るとオセロをしている。二人でボドゲとは、最強の拒絶タイプか。


「三軒茶屋くん、私たちも何かしようよ。ここ、ボードゲームやる部だったみたいだし。色々あるよ。」


 女の子にナニかシよっか、と言われて断る俺ではない。もちろんOK。

 出てきたのは将棋、囲碁、チェス、麻雀やトランプなんかの王道なものから人生ゲーム、人狼、UNOに花札、果てはよく分からんTRPGまで様々だった。


「へー、結構あるんだね。まあこれでいいかな」


 玉敷が手に取ったのは将棋だった。これからの時代は将棋をやるJKの時代になるのか。オンライン将棋二千時間プレイヤーの実力を見せてやろう。ちなみに三段


 彼女と束の間の将棋タイムを楽しんだ。玉敷は振り角、とでも形容べきだろうか、振り飛車の角版という奇想天外な打ち方をした。


 そんなこんなで時は過ぎ去って行き、部活は解散になった。



 そのまま二週間ほど、本当に何事も無い時間を過ごして行った。


 朝の教室はいつもざわめいている。が俺は特にすることもないので一人本を読んでいる。


「おはよう、諸君。今日は少し用があるからな、面倒なことは無しだ。」


 こいついつも適当な理由つけて朝礼無くしてんな、まぁ別に良いけれど。美人だし。ちなみに独身らしい。美人で独身、これが一番マズい。


「今日は諸君に新しい仲間が来た。」


 先生は扉の外へ入れ、と目配せした。

 転校生か、定番だけど不思議な時期である。二週間くらいは早められなかったのだろうか。

 ガラッと扉が開く音がした。そちらに目を向けると金髪ロングな美少女がいた。そうか、転校生は何も国内だけからくるわけじゃない、帰国子女もいるのか。うちの学校も随分グローバルになったもんだ。


「hal、、、じゃない、こんにちは!イギリスから転校してきまシタ。藍崎あいさき・ティオランド・真白ましろデス。変な時期に転校しまシタが、全然サイキックスとかじゃないデスよ。よろしくお願いしマス。」


 他の人はサイキックがどうとかいうくだりが分からなかったのか、一瞬キョンじゃなくてキョトンとした感じになっていたが、別に気にしていないようだった。


 転校生ブームもどこ吹く風、今日も今日とて俺は部活に向かっていた。


 部活の戸を開くと玉敷が迎えてくれる。


「三軒茶屋くん。こんにちは。」


 最初の時以来苗字呼びに戻ってしまった。惜しいことをしたもんだ。


 くー、やっぱ人生 この時のために生きてるようなもんよね。


 玉敷に挨拶を返し、他の二人を見る。

 今日も二人でなんかやってるようだ。それにしてもよく毎日甲斐甲斐しく来るものだ。皆勤賞ではないのだろうか。だが、規定の一ヶ月に到達したら別のところに行くだろう、多分。


 しばらくそんな時間を過ごしていると、不意に扉が開いた。


「こんにちは!このクラブにジョインしたいんデスけど、、」

 やたら発音がいいクラブとジョイン、そして少しカタコトな日本語が聞こえた。


 そう、そこには件の転校生、藍崎・ティオランド・真白がいたのだ。


「真白ちゃん!」

 真っ先に反応したのは玉敷だった。


「照葉!照葉もこのクラブに入ってるんデスか?」


「そうだよ。」


 この二人は知り合いだったようだ。転校したてでクラスも違うのに、、、リア充同士には何か特殊なコミュニティが存在するのだろうか


「もちろん!新入部員大歓迎だよ!」

 玉敷が答える。しかし、多分新入部員大歓迎なのは玉敷だけであるし、なんなら下級生二人は侵入部員くらいに思ってると思う。


「thank you 照葉!」

「あーそうそう、この男の子は三軒茶屋くん。そこの二人は一年生の海住さんに已結さんだよ。」


 そう一人ずつ部員を順番に紹介して行く。


「三軒茶屋さん、海住さんに已結さんデスか。皆さんよろしくお願いしマス。」

「ああ、うん。よろしく。藍崎さん。」


 よろしくお願いしたいわけではないけどネ!


「ハイ、呼び捨てで構いまセンよ。それも名前で。こっちには「さん」とかつける文化がなくて、ちょっと慣れないデスし。名前の方が、ワタシのアイデンティティを感じますし。」

「そう、じゃあ俺も扉でいいよ。」

「はい!よろしくお願いしマス。」





「あ、あの、、よろしくお願いします!」

「まぁ同じ部活ですからね、一応はよろしくお願い致しますわ。」

 珍しく下級生二人も参加してきた。


 二人の言葉、いや已結の言葉を聞くと真白は目をぎらつかせる。


「oh、已結ちゃんであってマスよね。名前はなんて言うんデスか?」

「え?、あー、穂希ほまれ、です。」


 なんか随分引いてるみたいだけれど、て言うか穂希って言うんだ。ここまで知らんかった。


 真白の攻撃はまだ終わらない。ずっと俺のターン!


「そうデスか、趣味はなんデスか?」

「読書とか映画なんかを少々、嗜む程度ですが。」

「oh!ワタシも映画大好きデスよ!どんなのが好きなんデスか?」

「え、、ええと、、。」

「ちょっと、先輩!近いですよ。」


 海住が間に入った。


「ああすいません。ちょっと興奮してしまいまシタ。」

「な、なんで穂希ちゃんに興奮するんですか!」


 なんでちょっと怒ってんの?確かに初対面であれをやられたら困る。さすが帰国。距離感が違うのだろうか。


「まぁまぁ落ち着いて。」


 玉敷がたしなめる。


「ていうか真白、なんでこんな部活に入ったんだ?」


 入学して早々「文化部」なんてよく分からん名前の部員も少ない部活に入るのは不思議だ。まぁすでに二人いるんだけれど。


 友達も多そうだし、そいつらがいるバド部やらバトン部やらに行くのが定石だろう。


「ワタシ、ジャパンのカルチャーが好きなんデスよ。まだ全然詳しくないんデスけれど、もっとたくさん知りたくてこの部活に入りました!文化ってcultureってことデスよね?」

「あー、そうなんだけれどね、、、」


 玉敷が苦笑しながら答える。


「ぶっちゃけ今は一年生と二年生で別れてボードゲームをするだけというか、あんまり活動らしい活動はしてないの。」

「そうなんですか。それならこれからじゃんじゃん活動していきまショウよ!」


 真白はなるほど、と少し考えて後輩二人の方を見た。


「そこの二人も一緒にやりまショウよ!」

「まぁ、私は別に構いませんわ。」

「えええ!穂希ちゃん、それ本当?」

「ええ、まぁ。仮にも同じ部活の先輩ですし、関わり合いも大事ですわよ。」


 已結、恐ろしいほどの手のひらドリルだ。今まで口すら聞こうとしなかったのに。

 何が彼女を変えたんだろうか?


「まぁ、私はそれでもいいんだけれど。今までいやだって言ってたのは穂希ちゃんじゃ、、、まあいっか。」

「それで、どんなことをするんですの?」


 真白がさっきから何かをずっとぶつぶつ言ってる真白の方を向いて聞いた。


「ですわ、ですの、ですわ、ですのですわ、ですのですわ、ですの」


 こいつは何を言ってるんだ?教育教育死刑死刑?


「おい真白、聞かれてるぞ。」

「え、あーすいません。そうデスね、何をすれば良いんでショウか?」


 と真白は何故かこっちを向いた。俺に聞いてるの?アニメ文化を広めたいんだったらみんなでEVAでも見たら、としか言えないど。


「そう言われてもなぁ」

 さっきの考えを口にするわけにもいかず、俺が返答に悩んでいると、隣から声がした。


「真白ちゃんは日本のどんな文化を学びたいの?」

「もちろん、すべての文化デス!」


 即答した。全てて。もっと具体的に欲しい。


「と言うか、なんでお前はそんなに日本の文化を学びたいとか思ってるんだ?」

「そうデスね、、初めは小さい頃にお父さんが見ていたアニメがトリガーデスね。『涼宮ハルヒの憂鬱』だったんですけれど、分かりマスか?」


「ああ、もちろんだ。」

「当たり前ですわ。」

 と、まるで常識とばかりに言う二人。(俺と已結)

 ?と言った感じの表情なのが海住。



「それがとっても面白くて、こんなものが存在していたのかとびっくりしまシタ。それで、色々調べたり、見ていく内にどんどんハマって、そんなワンダフルな文化を生み出したジャパンの文化全てを学びたいんデス!そして、最後は自分で小説を書きたいデス。」

「ふむふむ、立派な夢だな。」


 まぁ俺も小説書いたことあるけれど、ぶっちゃけなくても黒歴史。僕の分まで頑張ってほしい。


 幼い頃から読書が好きだったものの中には、自分で小説を書いてみ流経験がある者も決して少なくないだろう。だが、それを公言するの者は相当少ない


「いいですわね。」


 已結も肯定的だ。この反応はもしかして経験済みなのか?でも本当に、小説とか好きな人の半分くらいは自分でも創作にチャレンジしたことがあると思う。


「真白ちゃんの小説私にも読ませてよ!」


 大丈夫か?友達に自分の書いたやつ読ませんのとか立派な拷問だぞ。これは多分書いたことないな。


「of course!ただ、今はまだジャパニーズも勉強途中なのでこれからデスが。」

「では、完成したら私にも読ませてくださいまし。」

「はい!」



 しばらく談笑していると、下校時間を告げるチャイムが鳴った。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか。続きはまた明日で。」

「そうだな。」

「みなさん、どうやって帰るんデスか?ワタシは電車ですけれど」


 真白が尋ねた。


「私も電車だよ。二駅だけだけれどね。」

「俺も。」

「私たちは歩きですわ。」

「家が隣なので。」


 二人で言葉をリレーする後輩二人組。


 今日だけで後輩二人もかなり部活に馴染むことができたようだ。


「じゃあね」


 玉敷が二人に別れを告げる。


「それじゃあ」

「ご機嫌遊ばせ。」



 帰りの交通手段が同じなので、自然と『一緒に帰る』ということになった。

 玉敷と真白が喋っているのを俺は黙って聞いていた。


 二駅目に到着すると玉敷が降り、俺と真白の二人、という状況になった。


「扉、ちょっと良いデスか?」

「ああ、うん。」

「已結ちゃんって最初からあんな喋り方なんデスか?」


 確かにお嬢様口調だな。一人称も『わたくし』だし、それが気になったのかな?


「ああ、そうだな。珍しい話し方だよな。」

「実在したんデスね!お嬢様口調!もうびっくりしまシタ。それで最初は少々失礼な態度をとってしまいまシタ。」

「そうだな。海住なぜか怒ってたし。」

「なぜかって、それはワタシが已結ちゃんとの距離が近過ぎてしまったからだと思いマス。」

「なんで真白が已結に近づきすぎると海住が怒るんだ?」

「気づいてないんですか?あれは『てぇてぇ』と言うものデスよ。イギリスにもいまシタけれど、ジャパンで見れると感動も大きいデスね!」


 真白は目を輝かせていった。こいつは日本の仲良い女子同士は全員百合だとでも思っとんのか?


「いや別にそんなことないだろ。」

「いや、絶対そうデスって。」


 間も無く駅に着くことを知らせるアナウンスが聞こえた。


「あ!ではワタシはココで降りるので。」

「おう、じゃあな。」

「では、また明日。」


 そう言って彼女は電車から降りて行った。



 二章


「扉!部活行きまショウ!」

「ん?ああ。」


 そう答えて席を立った時、嫌な視線を感じた。その方を見ると何人かの生徒がこちらを見て何やら話していた。まさか!俺を狙う刺客なのか!?


 部室に向かうまでの間も何人かに見られたような気がしたが、気のせいかな?


「こんにちは!照葉。」

「ちわ。」


 元気よく挨拶する真白に続く。


「こんにちは、三軒茶屋くんと真白ちゃん。」


 にこやかに挨拶を返す玉敷に続き、


「ご機嫌よう。」

「こんにちは。」


 なぜか二人もだいぶ打ち解けたようだった。やっぱり新しい刺激が必要なのか?スケープゴートってやつかしら。それだと真白敵になるけれど。


 それから一ヶ月が過ぎた。少し前までは玉敷と二人でやっていたのが今では五人になっていた。照葉と二人ってのも悪く無かったが、ずっと気まずかった後輩二人との仲が改善されたのはいいことだ。部室の居心地がだいぶ良くなった。だが、これでさらに他の部員が辞める気配がなくなった。


「うーん、これでいいデスかね?」

「おほほ、真白先輩、ロンですわ!」

「これはすごいですよ、白、ドラドラドラでトイトイですから、満貫です。」


 今日は真白が急に麻雀をやろうとか言い出したのでみんなでやっている。『咲-Saki-』でも見たんだろうね、オタクが麻雀やろうとかいう時は大体咲の影響。というか咲って声優豪華すぎん?あと胸。


 我が文化部のメンバーは五人なので後輩二人組は二人一組になっているんだがマジで強すぎる。毎回アガってる。イカサマかと疑うレベル、一回賭郎呼ぼうかな。


「うーん、やっぱ二人だと強いね。」


 なんか二人ってだけが原因じゃ無いと思うんだけどなぁ。麻雀は運のゲームに見えるが、その実ほとんど盤面は握力がものを言うゲームだ。だから俺が勝つ方法は一つ、天和来い!と祈ることだ。


 それから少し時間が流れ


「うーん、微妙ですわね。」


 今まで絶好調だった二人組も今までのツケが回ってきたのか、調子が悪そうだ。そういう演技かもしれないけれど。


 かくいう俺は絶好調。アガれそうだ、それも大三元で。あと発がくればアガれる小三元状態。発来い、初恋、失恋!と祈りながらツモる。


「!」


 実は俺には一つだけ特技がある。それは盲牌ができること(白だけ)。俺の能力の対象外だが、役満テンパイで研ぎ澄まされた俺の指先が言っている。これは発だと。

 心の中で雄叫びを上げながらツモを宣言しようとした時、ことは起きた。


「何これ?」


 玉敷が間が抜けた声を上げた。麻雀卓(俺が真白に言われて持ってきた俺の)の中心に浮かび上がっているではないか、魔法陣が。


 その魔法陣が光だした。魔王でも召喚されるのだろうか?やっぱりやーめたで切り抜けられるかな、、、


「ワオ、すごいデスね。どういう仕組みデスか?」


 持ち主である俺に聞いてきているようだった。いくら俺でもこんな光出すなんて言う変なオプション付きの麻雀卓を買った覚えは無い。


「いや、知らんが、、、」


 魔法陣の光の輝きは最高潮に達し、そちらを直視できないほどにまでなった。

 思わず目を瞑る。光が収まったのを瞼の奥から感じて目を開けると、俺の麻雀卓の上には幼女がいた。


「うーん、ん?」

「キューティーなガールデスね。」


 いや、魔法陣から出てきた幼女にもっと言うことあんだろ。確かに可愛いけれど。


「あうう、ここは?」


 突然の幼女の失言に言葉を失う一同(真白以外)、少しの間を開けて玉敷が口を開いた。


「ここは、日本の東京なんだけれど。えーと、君はどこからきたの?名前は」


 こういう時に頼もしいな、玉敷。


「えーと、カロシッソです。ナガルゼからきました、ここってもしかして地球、ですか?」

「え?うん、まぁそう、だけど。」


 なんだ、まるで地球じゃないどこかからきたような口ぶりだ。


 真白が耳打ちしてきた。別にいいんだけれどなんか近い。照れちゃう//


「扉、これってもしかして。」

「ああ、そうだな。」

「そうですわね。」


 真白に俺となぜか加わってきた已結が答える。地球、魔法陣、幼女、幼女は関係ないがこれだけのピースが集まった。俺らが導く結論は一つ!


「「「異世界人!」」」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「ここ、本当に地球なんですか?」

「それは間違いないですわ。」

「なんで、地球って名前は知ってるんデスか?」

「えーと、たまにあっちの世界でも異世界から来る人がいて、その人達は地球ってところからきてて、、、なので」

「ちょっと二人とも、困ってるよ。」


 急に興味津々になった真白と已結にカロシッソちゃんは質問攻めに合っていて大変そうだ。とめてる海住も大変そうだが。玉敷は役目を終えたとばかりに少し微笑んで見守っている。


 いつの間にか完全下校時刻が迫ってきていた。それに気づいた玉敷がみんなに声をかけた。


「そろそろ帰らないと。カロシッソちゃんはどうしようか。」

「そうデスね、お持ち帰り〜したい所デスが、今日は少し厳しいデス」


 真白がとても残念そうに言う。他の部員たちも全員無理らしい。と言うことで流れで俺にお鉢が回る。


「あー、いや今日は親が海外にしか居ないポケモン取りに行くとかで居ないんだよな。」


 流石に高校男子と幼女が二人きりで一つ屋根の下はまずいだろ。妹がいることは黙っとこう。お兄ちゃんだけど愛さえあれば妹が増えても関係ないよねっとか言われたら困るし。


「ポケモン、、、でもそれなら、三軒茶屋くんでいいね!」

「いやいや照葉。男子高校生とこんな可愛いガールが二人きりはまずいデスよ。」

「大丈夫だよ。三軒茶屋くん妹さんいるし。」

「そうなんデスか!?」


 言ってたっけ?過去の俺め、恨むぞ。


「わかったよ。俺が連れて帰る。」

「ありがとうございます。」


 自分の行き先を案じていたようだったカロシッソちゃんは安心したのか、少し控えめな笑顔でそう言った。


「じゃ、また明日な。」

「三軒茶屋先輩、変なことしちゃダメですわよ。」

「しねぇよ。妹もいるって言っただろ。」

「それって妹がいなかったらするってことデスか?」

「生憎、俺は幼女趣味は持ち合わせていないんでな(嘘)。」


 なぜか少しニヤニヤしながら言ってくる真白にそう返し、みんなと別れた。


 ーーーーーーーーーーー


「ありがとうございます。」

「別に気にしなくてもいいよ。大したことじゃないよ。飯だって二人分も三人分も変わらないし。部屋もまあある。」


 作るのは妹だけれどね。まんがとかでそういうセリフよく聞くから変わらんだろ、多分。


「本当にありがとうございます。いつかこの恩は必ず返します。」


 それにしても小さいのによくできた子だ。さて、どんな恩返しを要求しようか。


「カロシッソちゃんも大変だな。こっちにきたことに何か心当たりとかはあったりするの?無理に話さなくてもいいけれど。」

「分かりません。ごめんなさい。」


 わからないことだらけだな。当然か。


「何か帰るアテはあるの?」

「いえ、それも、ごめんなさい。」

「そうか、気にしなくてもいい。しばらく家にいれば良いし、なんならうちの妹になるか?」

「妹、、、いや!そんな訳には。三軒茶屋さんは妹と仲がよろしいんですか?」

「仲がいいかって聞かれてもな、まぁいい方なんじゃないか?」

「そういえば、三軒茶屋ってのはやめてくれ。妹も同じだしな。扉でいい。」

「分かりました、扉さん。」


 そんなことを話していると、家に着いた。


「ただいま。」

「お、お邪魔します。」


 とことこ走ってくる音が聞こえる。


「お兄ちゃん!おかえり、遅かったね。ご飯冷めちゃうよ。」


 にぱーと満面の笑みで俺に駆け寄ってきた。もちろん俺の横のカロシッソちゃんにも気づく。


「お、お兄ちゃん。まさか誘拐しちゃったの?こんな幼女を拐かすなんてえ、えんがちょ!無量空処!」

「ばか、誘拐なんてしてないっつの。それにえんがちょついでにそんな大技放つな。この子は友達の妹でな、カロシッソちゃんって言うんだが、訳あって預からなきゃいけなくなったんだ。仲良くしてあげてくれ。」


 っていうか連絡してたよねこいつが俺の妹、詩替しすたである。詩に替れるとかいて詩替。読めん。


「ほんとかよ、もし適当なこと言ってるだけでほんとに誘拐だったらガチで縁切ることになるからなあ、、、まあいいや、カロシッソちゃんよろしくね!」


 詩替はカロシッソちゃんをしばらく見つめると、何やらぶつぶつと呟いてからカロシッソちゃんに声をかけた。


「は、はい。お世話になります。」

「そんな堅苦しくなくていいって。カロシッソちゃん。私は詩替でいいよ。カレーできてるから。」



「へー、これがかれーですか。そういえば異世界食でこんなのを見たことあるような。」

「カレー知らないの?そっか、そういえばカロシッソちゃんだもんね。海外出身なの?」

「まぁ、そのようなものです。」

「そっか。日本語上手だね。」

「ま、とりあえず食べようぜ。」


 カレーは割と世界中で食べられてると思う。我が妹が無知な馬鹿野郎で助かった。


 これ以上はボロが出るかもしれない。俺の空腹もピークに達していたこともあるけれど。

 夕食を食べ終えしばらくみんなで談笑していると、帰りの時間が遅かったせいかいい時間になっていた。


「もう九時じゃん。カロシッソちゃん、一緒にお風呂入ろうよ。お兄ちゃん、一番風呂は詩替が貰うね。」

「カロシッソちゃん、大丈夫?無理しなくていいんだけれど。」

「大丈夫です!異世界のお風呂は気持ちいいと聞きます。楽しみです。」

「そんなに期待しない方がいいと思うが、うちの風呂は普通だと思う。」


 友達の家とか行ったことないから知らないけれど。


 ーーーーーーーーーー




 次の日は休日だった。これからカロシッソちゃんをどうするか考えるために俺たち文化部は朝も早よから学校の近くの喫茶店に集まっていた。もちろんカロシッソちゃんも一緒に。


「さて、これからどうするんだ?俺の家には後一週間ぐらいは泊めてられるが、それ以上もできなくはないが。」

「そうだね。一応聞くけれどカロシッソちゃん、元の世界に帰りたいんだよね?」

「はい、ここでの生活も新鮮で楽しいですが、いつまでもお世話になるわけにもいきませんし。」


 カロシッソちゃんが申し訳なさそうに言う。


「そういえば、帰る方法とかって何かあるんデスか?」

「私が知る限りでは、というか実は私、記憶が無いんです。」


「「「「え。」」」」


 このタイミングで?あっさり言うね。


「そうなのか、でもカレーとかお風呂とかの記憶はあったよね?」

「なんというか、一般的な社会の記憶はあると思うんですけれど、家族とか、住んでいた場所とかについては何も思い出せなくて。何かこっちの世界に来てから大きな違和感を感じるんです。でも、それも何かはわからなくて。ナガルゼと言うのもここで言う地球みたいな感じです。」


 記憶喪失ってそんなもんなんかな?しかし困った。記憶がなくては帰る方法も何も分かるまい。


「記憶が無いなら、まず記憶を取り戻すことからですわね。何か覚えている事とか手がかりになりそうなことはないんですの?」

「、、、ごめんなさい、何も、」

「ま、焦る必要はないよ。俺の親にも話せば家にもしばらくいられるだろうしさ。」

「うーん、異世界。なんだろうね。」


 それにしても、記憶を取り戻す手掛かり、定番なのはやっぱり家族なんかの深い関係にあった誰かと話すことだが、ここは異世界だしそれも無理。本当にどうするべきだろうか。


 なかなか意見が出ずに皆が困っていたところに海住が意見を出した。


「近くを散歩してみたりしてはどうでしょうか、何がカロシッソちゃんの記憶を取り戻すきっかけになるかわかりませんし。」

「確かにそうだね、そうしよっか。」



 海住の意見が採用され、カロシッソちゃんの記憶を取り戻すがてらに散歩に出かけることにした。

 真白の提案で遊園地に遊びに行くことになった。行きたいだけだよね?


「は、速いですね。あれに人が乗ってるんですか?一回転なんかしちゃってますし。」

「そうデスよ。ローラーコースターって言うんデスよ。」

「え、そうなの?ジェットコースターじゃ、、、」

「三軒茶屋先輩、英語ではそう言うんですわよ。」

「そうなんだ。全然知らなかった。」


 ごめんね。バカで。でも英語って一番大切な科目だよね。文系理系に関わらず必要だし、社会に出て一番役に立つであろう科目だし。それに引き換え古典、お前はなんだ?


 真白はジェットコースターのスピードにビビってるカロシッソちゃんにお構いなく、彼女の手を引きジェットコースターへ連れて行く。


「じゃ、あれに乗りまショウ。ほら、みんなも!」

「結構並んでるけど、まぁしょうがねーな」


 ラノベ主人みたいなことを呟きながら真白の後ろについて行く。これ、なんかすごいセーシュンぽいな。性春ではなく、青春ね。



「うえぇ、思ったより早かったな。」

「そうですわね、もう二度と乗りたくありませんわ。」

「穂希ちゃん、大丈夫?先輩も。」

「ええ、少し休めば大丈夫ですわ。」


 俺と已結は完全にノックアウトしてしまった。他の奴らは至って平気そうなのが謎だ。神経の作りが違うんだろうな。姫乃先輩くらいゲロ吐きそう。ところでチェンソーマンのラスボス数学の悪魔説を推したい。


「あんなに怖がってたのに、意外とカロシッソちゃんは大丈夫なんだね。」

「まぁ、はい。なんででしょうね。なんかこれより速いのを体験したことがあるような。」


 もしかしたら記憶と繋がりがあるのかもしれない。海住が言うように意外とこういうのがきっかけになったりするのかもな。


 元気が有り余ってる真白とジェットコースターで少しテンションが上がったカロシッソちゃんに続き、少し気持ち悪いまま連れられた先はコーヒーカップだった。


「真白、お前は俺を殺したいのか?」

「そんな訳ないじゃないデスか。セレクトしたのはワタシじゃなくてカロシッソちゃんデス。」

「そっか、なら仕方ないな。ま、なんか楽しんでくれてるみたいで良かったな。珍しくはしゃいでるみたいだし。」

「そうデスね。でもこれくらいがノーマルデスよ。だってカロシッソちゃん小学生くらいデスし、今までがむしろしっかりし過ぎてたぐらいデス。」


 確かに、真白に言われて初めて気づいた。確かに俺がカロシッソちゃんくらいの頃なんて


「気づかなかったんデスか?一夜を共に過ごしたのに。」

「そういうと卑猥だな。カロシッソちゃんは妹と寝たよ。」

「妹と、寝た。。。」

「言葉の綾だ。日本語難しいなり」

「ジョークデスよ、分かってマス。これもこっちにくる前の彼女に関係してるのかも知れまセンね。」


 話していると、他の人と話していた。玉敷がやってきた。


「二人とも、もうお昼にしよっか。もうお店もお腹も空いてきてるだろうし。」


 時計を見るともう一時半だったのでお昼ということになった。そこら辺にあった飲食店に入った。


「じゃ、俺席とっとくわ。俺のは適当に選んどいてくれ、金は払う。」


 こういうのは言ったもんがちである。ジェットコースターとコーヒーカップのダメージがまだ残ってる。整いました、今の俺とかけまして、昨夜の俺と解く、その心はどちらも青菜に塩(あ、オナニーしよ)でした。しね。というわけで一刻も早く座りたい。


「あ、じゃあ私も残るよ。三軒茶屋くん一人になっちゃうとアレだし。」

「そうデスか。じゃあ二人の分もとってきマスね。」


 俺と玉敷以外がご飯を取りに行った。意外と玉敷と二人で話すことはないから、なんか少し気まずい。レジが混んで無いといいなと思いつつ話題を探す。


「そういえば、部活の最初の頃はこんな感じだったよね。今は真白ちゃんが入ってきて、穂希ちゃんや七海ちゃんとも仲良くなって賑やかになったけれど、あの頃も楽しかったよ。」

「そうだなあ。ま、人数が増えただけでやってることはたいして変わらないような気もするけれどな。」

「そう言われればそうだね。、、、カロシッソちゃん大丈夫かな。」


 少し遠くの注文コーナーにいるカロシッソちゃんの方を見ながら玉敷は言う。


「まあな、異世界から来た人なんて聞いたことないから記憶を取り戻して一歩ずつやってくしかないよな。」

「うん、それもそうだけれどカロシッソちゃん、なんだか無理してるんじゃないかなーって思って。」

「無理してる、、、か。」

「私があれくらいの時はなんも考えてなかったと思うな。いきなり異世界なんかきて、不安そうなとこ見せなくてほんとすごいと思うよ。」


 玉敷も気づいてたのか、これって気づいてないの俺だけみたいな感じか?男だしな、と言う言い訳が浮かんだが、ジェンダーレス、ダイバーシティ、トランスフォーマーの時代にそぐわないしな。鈍感系主人公ということでいいか。


「そういえば、三軒茶屋くんの妹さんってどんな人なの?今まで詳しく聞けてなかったし。」

「そうだな、妹がどんな人か聞かれても難しいが、俺にはあんま似てないかな。友達は多いし、性格も素直で優しいな。ちょっと頭が悪いのが玉に瑕だが、俺と真逆って感じだよ。」


 言ってて不思議に思えてきたんだが、こいつほんとに俺の妹か?種違いなんじゃないの?俺の妹がこんなにコミュ力が高いわけがない。


 俺の話を聞いていた玉敷は、なぜか少し柔らかく微笑んで言った。


「ふふ、仲良いんだね。」

「別にそんなことも無い、普通だよ。」

「いや、でも今の話聞いてると、三軒茶屋くんに似てるんじゃ無いかと思ったよ。」

「そうか?自慢じゃあないが今の俺は友達と呼べそうなやつは一人もいないぞ。」


 か、勘違いしないでよね!へ、編入だからだかんね。俺が入った時にはクラスが完成していたの!俺のコミュ力が低いからじゃ無いからね。


「私は?」

「ん?何が?」

「いや、私は友達じゃないのかなーって思って。私はそのつもりだったんだけれど、自意識過剰だったかな。」


 沈黙が流れる。こんな時どう返していいのかわからず、何も思いつかなかった。


 人は慣れる生き物だと言う、それはきっと人は忘れる生き物でもあると言うことだろうだろう。思えばしばらく人と関わっていなかった。その間に人との関わり方を忘れてしまったのだろうか。人にどう思われているかも、誰かのことを評価することもやめた。


『友達』とはなんなんだろうか?それがわからなくなったから、他人と関わることをやめたのだった、過去のことを少し思い出した。


 俺がそんな感傷に浸っていると、照葉が口を開いた。


「三軒茶屋くんは私のこと嫌いかな?」

「へ?あー、いや、」

「あー、いやいや、、、その変な意味じゃ無くてね。友達としてっていうか、友達じゃないかも知れないのだけれど。、、、ごめん、紛らわしかったよね。」


 照葉は顔を赤くして訂正する。そういう意味ね。分かってたんだけれどね。


「それは、嫌いじゃない、けど。」


 なんか凄い恥ずいんですけれど、ナニコレ、ラブコメ?ラブコメだいたい四文字で略すよね。


「じゃ、じゃあ私と友達になろうよ。私は三軒茶屋くんのこと友達だと思ってるし、三軒茶屋くんがいいんだったら、その、、、友達に、、、」

「いや、俺も友達とかが嫌なわけじゃないんだ、むしろ欲しいと思ってる。別に玉敷のことも嫌いなわけでもないし。」


 さっきまで恥ずかしかったのかいつも以上に顔が赤くなっていた玉敷が、


「じゃ、決まりだね。私たち友達、だから。」


 と言っていつものように微笑んだ。

 ってかなんだこれ。友達作るって大変だな。いっぱい友達がいる奴、まじ尊敬するわ。


「、、、なんか改まっていうと恥ずかしいね。でもさ、よくよく考えたら友達の定義って難しいよね。」

「そうだな。そんなことをよくよく考え続けているとぼっちになる。大体友達多いやつはそんなこと考えてない。」

「確かに。じゃあさ、私たちせっかくその、友達?になったわけじゃん。」

「そうだな。」

「だから、苗字じゃちょっとよそよそしいと思うの。だから、これからは名前で呼ぶってのはどうかな?」


 それは俺としてはむしろ嬉しい。名前呼びって距離が近い感じがしていいよね。真白には呼ばれてるんだけれど、あれはなんか違う気がする、あれはあれでいいんだけれども、、、


 名前というのは自分のマイノリティの象徴であって、なんだかんだ言って基本的には死ぬまで寄り添っていくわけで、名前が自他に与える影響は計り知れないわけで、俺の名前がキスショットアセロラオリオンハートアンダーブレードとかだったら俺の人間性も結構変わってきただろうと思われるわけで、西尾維新、いや西尾維神ってネーミングセンス神すぎねえかとか思うわけで、


 とにかく何が言いたいのかというと、名前呼びは素晴らしい。そう言いたいのです!


「いいんじゃないか?」

「じゃ、これから改めてよろしくね。扉くん。」

「ああ、よろしく。照葉。」


 ちょっと照れるな、、、だが、友達というのも悪くなかろう。でも結局、友達とはなんなんだろうか、その疑問はいまだ俺の中に揺蕩っていた。この疑問を抱いたまま誰かと『友達』を明言化する矛盾感を払拭できないでいた。


 少しすると真白たちが帰ってきた。


「ハイ!二人にはこれデス!」


 自信満々に手渡されたのはテリヤキバーガーだった。帰国子女の割に無難すぎだろ。

 ちなみに真白もそれで、物珍しそうに目を丸くしながら食べていた。彼女曰く日本の料理といえばと海外の人に問えば、かなり上位にテリヤキが出るらしい。ほんとかよ。


 その後もメリーゴーランドとかやたらメンヘルなやつばっかり乗っていた。なんにせよカロシッソちゃんは楽しんでいてくれたようだった。記憶につながりそうなことは何も起きなかったが、カロシッソちゃんの息抜きになったなら、それもいいだろう。


「私は次のアトラクションに乗ったら帰りますわ。門限とかもありますので。」

「あっ私もそろそろ帰らなくちゃ。」

「じゃあ次で終わりにしよっか、カロシッソちゃんどれに乗りたい?」


 已結と海住に合わせて、俺たちも次で最後ということになった。


「じゃあ、ちょっと怖いですけれど、あれに乗ってみたいです。」


 カロシッソちゃんが指を指したのは観覧車だった。

 この遊園地はジェットコースターもいいが、なんと言っても目玉は巨大観覧車だ。基本的に園内のどこにいても目に入るから、やはり気になっていたらしい。


「た、高いですね。」


 海住が思わず声を漏らしてしまうくらいには高い。


 観覧車まで歩く、今までのアトラクションとは打って変わって全く並んでいない。観覧車のいいとこだよな。ジェットコースターとか一瞬で終わんのに何で何時間も待たなきゃいけないんだよ。


 流石に六人では乗れないので已結と海住以外は適当に決めた。俺とカロシッソちゃんと真白、已結と海住といったチーム分けになった。観覧車一周するだけだが。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 二つ目の運命の岐路へ辿り着いた。

 ここは苦労した。今ではほとんど心配もないけど。


 準備はすでに整えてある。ここで敵に面が割れると厄介だ、あらかじめ用意をしてあった仮面を付け、深呼吸をした。


「来い。」


 バリン!観覧車のガラスが割れた。何もなかったところから男が飛び込んでくる。


『敵』の登場だ。これも何回も経験してる。初動は貴重なダメージ自稼ぎのチャンスだ。出会い頭に相手が飛び込んできたエネルギーを利用し、顔に一発ストレートを決める。


「ぐふっ!いてぇ、何しやがる。」


 男は少しのけぞり、口の中から軽く出血していたが、構わずにすぐこちらに向かってくる。

 でも、攻撃の手は全て分かっている。


 男の拳を避けつつ少しずつ反撃していく。

 相手もこちらのこちらの反撃が意外だったのか少し距離を取った。


「お前、何者だ?」

「一度は言われてみたいセリフだね。ふわふわのぬいぐるみだよ。」

「チッ、答える気はなしか。体はあまり鍛えられているように見えねぇな。だが、格闘経験は恐ろしく長いように感じる。」

「まぁ、君みたいなやつとの戦いは初めてじゃないからね。全ては経験だよ。」


 男は倒れている私の周りを見渡すとまた口を開いた。


「お前みたいなやつは俺のターゲットでは無い。素直に俺のターゲットを差し出せ。そうすればお前からも手を引いてやる。」

「そういう取引に乗ったヒーローを私は観たことがないな。ま、私にはヒーローというよりヒロインの方がふさわしいけれど。」

「ほざけ、そんなバイオレンスなヒロインはいない。」

「準備完了だね。」

「なんだ?小細工kッ!」


 前から仕掛けておいた仕掛けが発動した。私が独自に開発した超小型ピッチングマシンから放たれた鉄球が男の股間を直撃した。


「ぐへっ」

「君は銀魂を見たことがないのかな?ヒロインはバイオレンスなものだよ。」


 そして、また用意してあった催眠ガスで男を眠らせた。座席をこじ開け、少しの空間に男を入れた。これでそのうち発見されるだろう。これが最善、、、かは分からないがこの方法で詰んだことはないから特に問題はないのだろう。


 残りの二人を起こして観覧車から降りた。


 ーーーーーーーーーーーーーー


「今日は楽しかったです。みなさんありがとうございます。」

「カロシッソちゃんが楽しんでくれたんだったら、私たちも満足だよ。」

「そうですわね。私も楽しめましたし。」


 みんななんだかんだ言って結構はしゃいでたからな。俺も含めなんだけれど。

 カロシッソちゃんもリラックスできているようで何よりだ。


「でも、これからはどうしましょうか?今のままでもカロシッソちゃんの記憶が戻るとは思えませんし。」

「そうデスね、明日は学校にきてみてはどうショウか?」

「いや、流石に転校生とかは無理だろ。」

「いや、放課後部室に来てもらいまショウよ。うちの学校セキュリティーガバいですし。」


 セキュリティガバいって、、、確かに入り口が結構たくさんあるから、警備員も正門にしかいないし見られなければ大丈夫だろうけれど。


「バレたらどうすんだ?」

「シスターって言えばいいデスよ。注意くらいで済みマス。」

「まぁ、そうですわね。そうしましょう。」

「そうだね。明日はそれで行こっか。カロシッソちゃん問題あるかな?」

「いや、大丈夫です。こっちの世界の学校にも興味ありますし。」


 いや、その話だと被害を被るのは俺なんだが、、、まあいいや。


 と言うことで今後の計画をふわっと決め、みんなと別れ俺は今日もカロシッソちゃんと帰路に着いた。



「もうしばらくうちで暮らすことになりそうだな。詩替とは大丈夫か?」

「はい、詩替さんはとってもいい方ですよ。兄妹仲もとってもよろしいじゃないですか。」

「そうか?」

「そうですよ。なんか、そういうの羨ましいです。」


 何やら遠い目をしてカロシッソちゃんは言った。


「もしかして、姉妹とかのこと、、、」

「あ、いえそういう訳では。すみません。でも、なぜだかとても羨ましく感じたんです。もしかしたら私は姉妹とかとは仲が良くなかったのかもしれませんね。」

「そっか。まぁ気長に思い出せばいいよ。」


 三章

 さて、さらに翌日。今日は授業が午前中で終わると言うのに、部活があるらしい。面倒だが、休むと立場がなくなりそうなので行く。そういえば、こういう日程で誰が決めているんだろうか?照葉あたりかな?


 授業を聞き、教室の隅で一人寂しく弁当を食った。カロシッソちゃんの昼食も詩替が朝から作った弁当だ。今頃食べているだろう。


 俺は常人離れした胆力を持っているため、ぼっちなのを気にせず教室でご飯が食える。嘘だよ。めちゃくちゃ肩身狭いよ?東京の家賃五万のアパートくらい狭い。だが、ビッグになってビックな家に住み芸能人を抱きまくることを夢見て上京した若者がいつの間にか手狭なアパートに慣れてしまうように、人間は慣れる生き物である。俺も慣れた。


 ちなみに一番辛いのは、ご飯を食べている時間ではなく、その後である。ご飯を食べている時はかろうじて『そこにいる理由』があるが、そのあとは辛い。何もやることがないし、なんでこいつここにいるんだ?とか思われていそうでつらい。そもそも誰も俺のことなんて認識すらしていないんだろうけれど。


 暇なので教室を見回す。へえ、ラクロス部が3年連続全国大会進出とな、どうでもいいわボケナス!ってかマイナースポーツの部の部員って何がきっかけでその部に入ったんだろうね。


「扉、部活行きまショウ。」


 真白が話しかけてくる。いつもこの時なんか視線を感じる。視線というより死線かも。俺の死体に吉川線が無いことを祈るばかりだ。


「扉さん!」


 部室に入ると、いつものように他のメンツはすでに来ていてそこにカロシッソちゃんもいた。


「カロシッソちゃん、先生たちには見つからなかったか?」

「はい。なんとか誰にも見られずに入ってこれましたよ。」


 なんか泥棒みたいな言い草だな。白昼堂々と侵入できるなんて警備体制が杜撰すぎる。多分皇族の方とかが入ってこない限り変わらないだろう。


「みんなが集まったことだし、活動を始めよっか。今日はこれだよ。」


 毎回申し訳程度に文章中に登場してくるゲームだが、今日は人生ゲームだった。


「見たことないゲームデスね。」

「私も知らないゲームです。」

「すごろくみたいなものだと思ったらいいですわ。ますに千円払うとかもらうとか書いてあるので指示に従って、最後にお金を多く持っていた人の勝ちですわ。」

「すごろく、ですか。」


 すごろく分かんないよな。異世界人だもの。そういえば異世界で将棋やチェスのような立場を占めるボドゲとか、ハリポッターみたいな地位にいる小説とかをカロシッソちゃんに教えてもらってパクれば、大儲けできるのではないだろうか?異世界人も似たような見た目をしているし、彼らに受けるならこちらの世界でもある程度は受けるだろう。


 だがひとまず今はすごろくだ。事細かに説明してもいいが、割と単純明快なルールをしているから、説明しなくてもフィーリングでわかるだろう。人生要素も、金を増やせばいいだけだし。あれ、急に真理?


「とりあえず始めようぜ。たいして複雑なルールじゃないから、心配しなくていいよ。」


 結局二人ともルールは簡単に覚えられていた。

 二人ともまあまあな強さだったが、やっぱり已結が一番強かった。俺は張り切って家を買ったのに燃えた、なんで?


「スマホ鳴ってるぞ。」

「私だ。ちょっと待ってて。パパ?今日もいつもと同じ時間、ああ、うん、そう」

「それでは、少し続けてますわよ。」


 已結が照葉に確認を取ると、照葉は手でOKのサインを作って答えた。


「、、、もしもーし、あれ?」

「どうしたんデスか?」

「なんかちょっと急に電波が、、、まあいっか!」


 電話が切れたようで、照葉がスマホをしまうとすぐ、キーンという耳をつんざくような高い音が聞こえた。

 どうやら放送のハウリング音のようだった。しかし、いつもこんな時間に放送は無い。下校時刻にしても早すぎるし、、。

 そう不思議に思っていると恐ろしく安っぽい、陳腐なセリフが聞こえた。


「突然だが、我々はこの学校を占拠した。電波は遮断してある。死にたくなければ体育館へ集まれ。」


「「「「「は?」」」」」


「なんですか?どっかから声が。」

「これは放送って言ってあそこから声が聞こえてるんだ。ま、イタズラだと思うから気にしなくていい。」


 スピーカーの方を指差す。それにしても安っぽいセリフだな。


「ほんとにイタズラかな?だったらもう訂正の放送があると思うけど。電波が切れたのも気になるし。ほら、なんか圏外になってるし。」


 照葉がスマホを見せてくる。確かに東京のど真ん中にも関わらず圏外表示になってるが、通信障害か何かだろう。それかここは圏外村か。


「じゃ、とりあえず体育館に行ってみたらいいんじゃないんですか?」

「でも、ほんとだったら捕まっちゃうよ。」

「じゃ、カロシッソちゃんの学校探検がてらみに言ってみるか。いい場所を知ってる。」



 この学校は四階建ての構造になっている。体育館は室内にあり、二階の天井をくり抜いた吹き抜けのような形となっている。体育館は学校の端にあるのだが、実はそのさらに奥に学校の電気系統なんかの装置(多分)がある空間が存在する。普通ならそこに入ることは不可能なのだが、俺はそこへ通じる穴を前に見つけていた。


 能力が開花して組織なんかを立ち上げた時のためのアジトにしようと考えていたのだが、こんな時に役に立つとは。今は誰も知らない俺だけの休み時間にパソコンで遊ぶ場所になっている。穴はうまく見えないように塞いでおいてあるので多分誰も知らない。


「、、、少々埃っぽいですわね。」

「そうだね。穂希ちゃん大丈夫?」


 けほけほ、と小さく咳をしながら已結が言う。


「仕方ないだろ、流石に俺も自分が使う場所しか掃除してねぇよ。」


 そんな俺達のことは気にもせず照葉は震え、真白は目を輝かせている。


「すごい!まるで秘密基地みたいデスね。」

「だろ?ダウインチコードを彷彿とさせるだろ?」

「いえ、そこまででは」

「ちょと二人とも、静かに!」


 しばらく階段を降りたり歩いたりしていると目的地に到着した。


「よし、着いた。ここから中が見えるぞ。」


 ここはちょうど三階に位置する所にある穴で、ここから少し光が漏れていて、いつもここで過ごしている。ここら辺は掃除を欠かしていないので清潔だ。


 先ほども述べた通り、吹き抜けになっているので、床から四メートルくらいのところにこの穴があることになる。が、よっぽど注意してみない限り気づかないし、気付いたとしても穴あんなーくらいでアクションを起こすことはないだろう。

 たまにこの穴からリア充を見てはソウルジェムを溜めている。


「確かにここなら手も届きませんし、少しぐらい音を立てても気づかれませんね。」


 はーっと海住は感心した表情をしている。


「早く見て部室に帰りましょう。人生ゲームも途中ですし。」


 そうみんなで覗き込んだ穴から見えたもの信じられないほど衝撃的だった。


 そう、、テロリストは実際にいたのだ体育館を七人ほどのマスクを被って銃を持った集団が囲んでいた。

 生徒達は一か所に集められ、手足を縛られている。そして体育館の扉からは、何人かの生徒が同様に手足を縛られ、連れて来られていた。


「、、、これ、どういうこと?」


 カロシッソちゃんの声に応える者はいない。全員が声を失っていた。

 そう、訪れたのだ。『学校にテロリストが侵入してくる』というシチュエーションが。


 何回妄想をしたことだろうか?量の指では数え切れないほどの今日にいざ立たされ、興奮してる!


「大変なことになりましたね。」

「ど、どうするの?」


 カロシッソちゃんはもう瞳がうるうるしている。そりゃあ、リア充は見たことはあってもリア銃は記憶が失う前にも見たことはいないだろうからな。言うほど俺も冷静ではないが。


「そんなことは決まっている。」

「ええ、そうですわね。」

「もちろんデス!」


「「「相手を叩きのめすだけ!」」」


 海住とカロシッソちゃんはポカーンとした顔をして口を開いた。


「本気で言ってるんですか?先輩達に、穂希ちゃん。」

「そうですよ。襲われてしまうかも知れませんし、銃も持ってましたよ。」


 弱気だな、確かに銃は剣よりも強しって言うけれど、剣も持ってないから関係ない件。


「分からないぞ、このまま何もしなかったら学校が爆破なんてこともあるかも知れない。」

「、、、確かに、そうかも。」


 ちょろい。もうひと押しだ。


「えぇ!ちょ、玉敷先輩本気ですか?怖いですよあんなの。」

「そ、そうですよ。」


 海住はまだ踏ん切りがつかないようだ。どう声をかけようか考えていると已結が口を開いた。


「大丈夫ですわ。七海に怪我なんか私がさせませんのよ。」

「穂希ちゃん、、、わかりました。皆さんがそこまで言うのでしたら。」


 こっちのもいたぞ。ちょろいん、こっちはちょろ百合でいいか。


「ほら、やっぱりてぇてぇデスよ!」


 真白が小声で言う。すごい嬉しそうだ。同じことを考えてしまったので否定できん。



 すると、不意にガシャンと言う金属音が響いた。


「こんな所あったのかよ。」


 男の声がした。奴らが見回りに来たのかも知れない。


「ど、どうしよう。見つかっちゃいますよ。」


 カロシッソちゃんが俺の服の袖にギュッとしがみついた。


「大丈夫だよ。」


 前哨戦と行こうではないか。そしてそのまま全勝だぜ!


 彼らがやってくる前に、急ピッチで準備を整えた。


 階段を降りる音が聞こえた。


「終わったか?」

「バッチリですわ!」

「ノープロブレム!」

「は、はい」


 階段も残り少ない。階段を降り切って曲がったら、勝負が始まる。スマホを握りしめる手に自然と力が入る。


 穴も塞ぎ、完全に真っ暗になった空間で目を凝らす。

 裾が見えた!


 カチッとボタンを押し、スマホのライトを点ける。


「っ!まぶしっ」


 怯んだのも一瞬、俺たちの姿を見つけた男がこちらへ走ってきた。

 俺の目の前まで迫って来た。あと数歩歩けば俺に手が届くだろう。


「計画通り。」


 俺がそう呟いたが早いが、男は俺の目の前で頭から転んだ。


「ぐへっ。こんのガキっ何しやがる。」


 男が体を起こし、再び俺にむかって進もうとした。これも計画通り、男の顔面に真白のライダーキックが炸裂した。男は軽く吹っ飛ぶ。


「今だ!」


 そう合図すると、隣に隠れていた已結が男の股間をゲシゲシ蹴りまくる。男の断末魔が響いた。



 男をそこら辺にあったコンセントで縛って、俺たちの前哨戦は一瞬で幕を閉じた。


「おほほほほ、やってやりましたわ。」

「お前、容赦なかったな。俺までなんかゾクっとしたよ。」

「これは多分インポになりまシタね。」

「あ、ああ。お前の膝蹴りもすごかったよ。」

「あれぐらいイージーデスよ!ところでインポって使い方合ってマスか?」

「、、、合ってるから二度と使うな。」


 あえてスルーしたのに。


「みんな凄かったね!」

「すごいです。」

「はい。穂希ちゃんはもちろんですが、私、藍崎先輩のこと見直しました!」

「いや、二人のトラップ凄かったデスよ!綺麗に転んでまシタし。」


 いずれにしても成功出来てよかった。俺はほっと胸を撫で下ろした。

 こうもあっさり成功しちゃうとそれはそれでつまらないけどね。


「で、これからどーすんだ。ここで大人しく見守ってるか?」

「いや、爆破とか言ってたのに今更?」

「でもなあ、こっからあいつら全員をどうにかする方法とか思いつかない。相手が何人いるかも分からないし。」


 うーん、とみんなで額を寄せ合ってしばらく考えていた。しばらくして照葉が口を開いた。


「でも、とりあえずは外に出るしかないと思いますわ。」


 確かに電波が無理なら自分で外に出なくてはなるまい。と言っても、テロリストたちが闊歩するこの学園の中から出られるのかどうかは分からないが。


「じゃあ、こういうのはどうかな。捕まっちゃったらアレだから二手に分かれるの。それで、別々の出口に向かう、どうかな?」

「いいんじゃないか?六人もまとまって動いたら気づかれやすいだろうし、二つの出口に分かれた方が可能性も上がるだろうし?」


 色々と話し合った結果、俺、真白チームと已結、海住、照葉と言うメンバーになった。

 カロシッソちゃんはお留守番だ。危険だろうし。






「さて、じゃあ、已結ちゃんと海住ちゃん。もう行こっか。」

「そうですわね。」

「は、はい」


 玉敷先輩に声をかけられ、私たちは立ち上がった。

 私たちの役目は外に出ることだ。外部との連絡が取れない以上自分が直接出るしかないだろう。


 普通に考えて正面玄関や多数の裏口には人が待機していると考えるのが自然だ。


「だ、誰もいないね。」

「そうですわね。でも、何があるかわかりませんのよ。」

「そうだね。」


 三人でおとを殺してうごく。クセになってんだ 音殺して動くの。

 向かう先は玄関4、二番目に人が少ない裏口だ。一番少ないところは逆に見張がいるような気がしたため、二番目のところを狙う。


「そ、そろそろ着くね。人、居るかなあ。」

「わかりませんわ。でも、一番警備が厳重なはずの体育館に七人しかいなかったことを考えると、うちの何個もある玄関全部にいるってのは考えにくいと思いますの。後から体育館に二人来てたことも考えると警備も手薄になっているのではと思いますわ。。」


 不安そうな七海に向かってそう言う。


「そうだね、でも警戒しておくに越したことはないから、二人とも気をつけてね。」


 倉庫から持ってきた金属バットを見つめる。少々野蛮だが、いざとなったらこれで脳天を一発だ。


 誰もいない校舎内はしんと静まり返っている。

 歩いていると、急に先頭を歩いていた玉敷先輩が手で私たちを制した。玉敷先輩が指差した先にはテロリストがいた。


「しーっ。そこにいる。ルートを変えよっか。そっちの角に曲がって。」

「分かりましたわ。」


 プランBというやつだ。今まできたルートを引き返し、できる限り静かに歩く。が、その時


「キャッ」


 今度は一番後ろにいた玉敷先輩が盛大にコケた。もちろん近くにいたテロリストに勘づかれてしまった。


「っまだいやがったのか、」


「たっ」


 声をあげそうになった七海を抑える。


「ダメですわ。相手からは私たちは見えていないはず。プランBその2、ですわ。逃げますの。」

「う、うん。」


 玉敷先輩の方を見て口の形だけで伝える。


「ご・ぶ・じ・で」


 伝わったかどうかはわからないが、玉敷先輩は頷きを返した。


「きゃー、助けてええ。」

「待てっ、このガキ!」


 だんだんと声が遠ざかる。私たちとは逆の方向へ逃げてくれているのだろう。思ったより頼りになる先輩だ。認識を改めなくては。


「はぁはぁ、ここまでくれば大丈夫かな?」

「そうですわね。」

「玉敷先輩、大丈夫かな?」

「どうでしょうか、とにかく私たちにできることは少しでも早く応援を呼ぶことですわ。」

「そうだね。」

「さ、そこを曲がったら出口ですわよ」


 バットを持つ手に少し力が入る。自信満々に大見えを切ったにも関わらず、情けないことに、手は震えている。


「七海、、」


 それに気づいたのか七海が手を握ってくる。


「ふふ、穂希ちゃんもドキドキしてるね。わかるかな?私もなんだ。」


 確かに握られた七海の掌からも鼓動が伝わってくる。当然のことだが、なぜか少し安心した。


「ねぇ、穂希ちゃんは今までずっと私と一緒にいてくれたよね。私いつも穂希ちゃんに助けてもらってばっかでさ、いつも怒られちゃったりしてるけれど、穂希ちゃんといられるだけで幸せなんだ。」


 少し間を空けてから彼女は言葉を継いだ。


「だからさ、私は穂希ちゃんのことが好きなんだ。次は私が助けるから。」

「それって、どういう」

「さ、行こう!先輩も待ってるよ。」


 七海は顔を赤くしながら、微笑んできた。私は理解が追いつかずに固まっていると、彼女は私の手を取って走り始めた。


 その玄関に人は、いた。


「やっぱ来たね。」


 他の人とは違って女の人のようだ、手に銃を持っているという点では変わらない、反射的に金属バットを握りしめる。


「とりあえずその物騒なものは捨ててもらおうか。私も君たちに危害を与えたいわけではない。」

「定型文ですわね。その前に自分の手に持っている物騒なものを置いてもらってから言うべきセリフではないんですの?」

「確かにそれもそうだね。でも、今の自分の立場を考えて発言してもらおうか。君はまだ大丈夫かも知れないかも知れないが、もう一人の子はキツそうだよ。」


 反対の手に握られた七海の手は震えていた。


「ご、ごめんね穂希ちゃん。さっき助けるって言ったのに。」


 七海はこちらの方を見て頼りなく笑った。七海の手を握りしめて答える。


「大丈夫ですわ。十分助けてもらいましたから。」


 私が七海にそういうと、その様子を見ていたテロリストの女が、


「ふふっいいね君たち。これが百合というものかな。」

「軽口を叩いてられるのも今だけですわよ。」

「ふーん、じゃ今から君たちがキスしてくれたら見逃す、って言ったらどうかな?」


 ずっと半笑いのままで女は笑っている。舐められたものだ。だが七海は間に受けたようで。


「な、キッs」

「ふふふ、冗談だよ。君たちなら本当にやりかねないからね。」


 私たちのことをじっくりと見た後、訝しんだような表情をして、女は口を開いた。


「あれ?君たち二人だけかい?もう一人いなかったかな。」

「照葉先輩なら捕まりましてよ。私たちだけ逃げてきたんでの。しかし、あなたが何故それを。」

「いいや、深い意味はない。そんな気がした。それだけだ。」


 さて、どうしたものか。相手は銃を持ってる、武道は一通りやっていた、特には空手をしばらくやっていたがやめてから久しい。


 金属バットで剣道は無理だろうし。なかなかどうして絶望的な状況らしい。


「君たちにとっては絶望的な状況じゃないか。」

「そのようですわね。」

「じゃあこういうのはどうかな。」


 女は銃を投げ捨てた。


「君たちをいじめてるだけじゃつまらないからね。かかってくるといい。」

「いいんですの?そういう三下のセリフは死亡フラグですのよっ!」


 バットを投げ捨て、私はワープなんて芸当はできないから走って距離を詰める。初めが肝心だ。


 が、相手も一筋縄で行くはずもなく簡単に突き出した拳を躱された。


「ふふ、やるね。小さいのに強いじゃないか。こんな進学校に強い子がいるとは。」

「ご都合主義の力を舐めてもらっては困りますわ。私は空手の推薦でもここに入れたんですのよ。」


 しかし不自然だ。あらゆる武術を混ぜて、まるでこちらの手を知っているかのようにことごとく攻撃を躱される。


 いくら相手がぶどうに長けていたとしても、明らかに無理なタイミングでも躱されてしまう。一体何者なのだろうか


「なるほど、この体術はカラテというんだね。」

「空手も知らないなんて素人もいいとこですわね。動きも素人のそれですし。もう息も上がってますのよ。」

「無茶を言わないで欲しいな。私は一週間しか時間がなかったんだ。そういえば、君の名前は何というんだい?」

「追い詰められているのに名前なんて、ずいぶんな度胸ですこと。そもそも、人に名を聞くときは自分んから名乗るのが礼儀ではなくって?」

「へえ、そんなものが。まあいい。私の名前は、ティクールだ。サピライト・ティクールだよ。」

「そうですか、もともと貴方の名前なんて興味もありませんが、いいでしょう。私は已結穂希ですわ。」

「ふーん、やっぱ響きが違うね。そっちの子は?」


 急にティクールとやらは、七海へ話しかけた。


「はひ?、海住七海です。」

「ふーん、可愛い名前だね。」

「さ、無駄口は終わりですわ。」


 私はまた攻撃を始めた。

 相手の疲労のためか、だんだんと私の攻撃が相手を捉え始めた。勝機が見えてきた、このままいけばジリ貧で勝てる。


「時間だね。」


 ティクールは何かを呟いた。

 その次の瞬間から彼女の運動能力が飛躍的に向上した。


 今まで防戦一方だったのが信じられない程の力強さが攻撃を喰らっているわけでもないのにひしひしと伝わってきた。


「きゅ、急になんですの?」

「ま、ドーピングみたいな物だよ。事前に打っておいたんだ。」

「またっく、科学に頼るとは品がありませんわね。」

「ふふふ、科学、ね。」


 とりあえずは作戦通りにルートを変更するしかない。

 ティクールの攻撃を交わしつつ全力で腹に向かって攻撃を入れた。


「おっと、」


 なかなかに自信の持てる一撃だったが、ティクールは少し体制を崩しつつも避けた。


「今のを避けますか。でも、好機ですわ!」


 相手が体勢を立て直す前に全力で走り出す。向かう先は相手が投げ捨てた銃だ。

 拾うと同時にティクールに向かって構える。


「さ、これで私たちの勝利ですわ。」

「ふふ、その銃を利用されちゃうとはね。でも残念、、、」


 軽口を叩く暇を与えない。引き金に力を込めて女の真上の電灯を撃ち抜いた。

 ガラスが割れ、相手の顔を掠めた。


「ふふふ、ふふふ、なぜそれが、いや、だからこそか、私と同じ未来を辿った。ふふっ」

「な、何がおかしいんでして?素直に降参してお縄についてくださいまし。」


 いまだに不気味に笑ったままのティクールは、顔の血をぬぐい、ゆっくりと背中に手を回すと、小型のハンドガンを構えた。


「惜しいね。備えあれば憂いなしだよ。今の私ならば、君の銃くらい避けられるだろう。勝利なんて夢のまた夢さ。」

「そうですわね。銃の腕であなたのような人に敵うとは思いませんわ。でも、これなら?」


 七海に目配せする。私の合図に気づいた七海は背中に隠しておいた銃を構えた。


「っ、これは少し驚きだね。私とは違う人とも接触していたのか。それも未来を辿った者が持っているとは。」

「流石に私を打った後、七海もすぐにとは行きませんわよね。私たちは結構離れていますし。」

「し、穂希ちゃんが打たれたら私もすぐに引き金を引く覚悟はできています。」


 ティクールは私と七海を交互に見、銃を私の方へ投げ捨て、そして少し笑って、


「降参だよ、お縄とやらにつけさせてくれ。」


 きちんと警戒して相手を捕らえた。



「穂希ちゃん、やったね!」

「そうですわね。」


 七海が駆け寄ってきた。ハイタッチでもするのかと思ったが、七海は止まらず結局抱きついてきた。


「な、七海?何をしてるんですの?」

「ごめん。嬉しくって。結局守れなかったけど。ちょっとは役に立てたかな?」

「そんなことありませんわ。あなたのおかげであいつに勝てたんですの。あなたに守ってもらったんですわ。」


 七海を私からも抱き返し、背中を叩いた。


「さ、行きますわよ。私たちの目的は脱出ですから。」

「そ、そうだね。」


 玄関から外に出る。


「何これ?」


 ーーーーーーーーーーーー



 校長室のドアを開ける。

 普段ならば我が校の校長が座るべきところにふんぞりかえって座っていたのはもちろん好調ではない。


「来客か、予告通りだな。」

「毎回思うが、それは誰からの予告なんだい?」

「本人から口止めされていてね。言うことができん、彼女は私の上司なんだよ。」


 毎回毎回同じ会話が過ぎる、もう本題へ行ってしまおうか。


「まあいい、君たちは何故こちらの世界に来た?」

「世界線同士の干渉は近いうちにもあったはずだ。」

「そもそも世界線同士の干渉は禁じられているはずだよ。それについてはどう説明するのかな?」

「そんなものは、我々にとっての問題ではない。そもそも貴様に説明する義理もないが、言い訳をするとしたら、『こちら』の世界にそんの様な法則はない、とでも言おうか。」


 校長の椅子に座ったまま、ふんぞりかえったまま喋る。偉そうなやつだ。

 確かに、『あちら』の世界はともかく、『こちら』の世界には世界線に関するルールがない、と言うか別の世界がそもそも観測されてない。


 でもバレなきゃ犯罪じゃないっていうのは暴論だろう。だいたい、世界線のルール云々以前に学校を占拠することが方に触れる。


「不思議なものだね。文明で言ったら『こちら』の世界の方がずっと進んでいるのに『こちら』の世界はずっと宇宙の壁に囚われたままなんてね。というか、その言い訳だと帰りはどうするんだ。まさか一方通行という訳もあるまい。」

「貸したものが帰ってくれば我々も還る。それだけだ。」

「残念ながら、そう言うわけにも行かないんだよね。元来君たちが権利を主張するのはおかしいし。」


 私がそういうと、男は息を吐き言った。


「そうか、なら殲滅戦と行こうか。」


 ずいぶん血の気が多いようだ。最初からずっと警戒されている。


 ガチャ、と敵は銃を構える。


「殲滅戦とはいささか大仰すぎないかい。こっちはか弱い女の子一人だよ?」

「ぬかせ、お前の警戒度はこの世界の誰よりも高い。」

「そんなものかな?」


 普通であれば銃相手に丸腰な私に勝ち目なんてものはない。距離も取られているし。


 でも、あちらの文明はせいぜい中世と言ったぐらいだ。彼等は銃を用いていることからこちらの世界へ度々干渉していると考えられる。ここで不思議に思われるのは彼等がこちらの文明である『銃』を用いていることだ。


「これは私が観測したことなんだけれどね、世界には『理』がある。『ルール』でも『法則』ではなく、『理』だ。別の世界線から文明を盗むことは、その『理』で禁じられている。」

「要領を得んな、だから何だと言うのだ?これがレプリカとでも言いたいのか?」

「違う、原理が違うんだよ。こちらでは火薬を使っているが、そちらでは、『魔法』だろ。」

「そこまで知るとは、少し意外だな。その『理』とやらも非常に興味深い、だがそれを問いただしている時間はない。お前を殺すことが私の唯一の仕事だからな」


 そう言うや否や、男は手に持っていた銃の引き金を引いた。その弾丸、いや魔弾というべきだろうか、私にめがけて一直線に飛んできた。だが同時に、正確には一拍早く、私は手に持っていたマッチを擦り床に放った。


「マギア・オブ・アフトミマス」


 その魔弾は私の目の前で弾けた。


「高等自衛魔法!なぜ?」

「マギア・オブ・シンギラシティ」


 男が光る鎖によって拘束される。


「拘束魔法までもっ!貴様、技術は盗めないと自分で言ったはず、、、まさかこちらの世界の人間、なのか?」

「ふふふ、面白いことを言うね。答えはノーだよ。まず質問する前に考えなくちゃ、常識にとらわれちゃあいけないよ。」


 そう私が言うと男は黙り込んだ。まあ、ゼロから辿り着けるなんて毛頭思っていない。


「じゃあこっちから質問、と言うよりクイズだね。その理をつくったのは誰でしょう?」

「そんなの神に決まってるだろう。」

「正解。神が作った『理』に反することができるのは神しかいないだろう。」

「貴様、自分を神とでも言うつもりか?」

「正確には違う、大雑把に言っても違う。でも、ただ、神である基準は全て満たしている。」

「話が見えん、ならば貴様は神ということになるが?」

「うーん、そう言われるとそうなんだけどね、ま、私と神共を分けるとするならば一つだけ。神は自分が神であることに誇り持ち、神であらんとする。それが神を神たらしめる。」


 少し喋りすぎているかもしれない、だがいつも話していることだ。


 そこまで聞いて男は訝しげな表情をした。


「はん、妄言よ。しかし、貴様が神だとしてお前はこっちの世界で魔法陣を利用せずに何故魔法が使えるのだ?それとも、神だから、とでもいうのか?」

「そんな理不尽なことはしないよ。そもそもこれを開発したのはただの人間だしね。床を見てみなよ。原理の一部くらいは理解できるはずさ。」


 男は床を見た。床には魔法陣の形をした焦げ跡が残っていた。


「ちょっとしたトリックだよ、君たちは頭が硬いね。何も大気中に魔法陣を刻まなくてはいけないなんて、そんな『理』は存在しないよ。私は、魔力を込めた火薬を、あらかじめ君が来るはずのここに仕掛けておいた、それだけだよ。」

「き、貴様!私がここに来ることを知っていた、とでもいうのか?」

「どうかな?」


 適当な言葉を返しながら相手が今まで持っていた銃を手に取る。


「この魔法式の反転で、、」


 親指に針を刺し、銃に刻まれた魔法式を見ながら手のひらに新たな魔法陣を書いて行く。


「アンチ・マギア」


 銃に刻まれた魔法陣が、発光した。


「さて、これで君たちはただのテロリストだ。武器もない、無力なね。」

「貴様、魔法式の無力化まで、、、別世界での魔術師用、そんな未発見の大魔法。なぜ貴様はそんな芸当ができる?」

「分かってしまえば簡単だよ。君たちの世界も常識に囚われていると言う面ではこっちと大差ないね。Think outside the boxってやつだよ。常識という箱、世界という箱の外にいつも答えはあるものさ。」


 実を言うとどちらも、初めて成功させたのは私ではない。がしかし今はまだこの世界にもあちらの世界にすら存在はしていない技術だ。


 さて、最後の仕上げと行こうか、男のポケットから魔道具を取り出す。


 それを校長室の真ん中に置き、私の血で校長室いっぱいの大きさの魔法陣を描いた。

 それを見て、男は何かに気づいたようだ。


「、、、物質に直接書き込むか、そこに魔力を通す。言われてみれば当然の原理だな。」

「そうだろう。というか、逆にこっちの方が先に思いつきそうなものだけれどね。さて、完成っと」

「、、、これは遅効性の魔法式の様だが、」


 私の書いた魔法陣を見て、男が言った。魔法陣を見てどんなものか判断するのはかなりの種類の魔法を知らないと難しい。この男は流石にこの計画の指揮を任されているだけあってなかなか優秀らしい。


「へぇ、結構知識があるんだね。これはね、ここに張られた結界を解くための魔法陣だよ。ほんとは適当な攻撃魔法で破壊しちゃえばいいんだけれど、そういうわけにも行かないんだよ。」

「貴様の目的は何だ?」

「そりゃあもちろん内緒だよ。女の子には秘密の一つもなくちゃね。」

「ふん、貴様、女の子という貫禄でもなかろうに。」

「今の発言はないかな、君はいわば俎上の魚、発言には注意した方がいい。ところで、見えるのか?」

「当たり前だ。私はその能力を買われてこの地位についた様なものだ。貴様はえらく不気味だな。」

「君とはもう少し話していたいんだが、私にはあまり時間がないんでね。そろそろお暇させてもらうよ。」


 少し魔法陣を書き足してドアを開ける。


「殺さないのか?」

「まあ殺してもいいんだけれど、ギリギリの倫理観でやっているからね。無駄な殺生はしないんだ。今君を殺しても特に利益がないしね。」

「ふん、後悔するぞ」

「それは楽しみだ。ハードルは多い方が乗り越えた時のカタルシスがを感じられるだろ。」


 男は不服そうに黙り込んだ。この人なら私の脅威になることはないだろう。


「そうそう、この魔法陣の軌道には君の魔力を使わせてもらうから、頑張ってね。失言の罰として、五割り増しにしておいたから。」


 そう言い放ち、校長室を立ち去った。


 ーーーーーーーー


「うーん、遠いデスね。8番出口は。」

「おい、勝手に異変を感じそうな名前にすんな。」


 思わず引き返しそうになっちゃたじゃん。怖いから引き返したい。


「それにしても誰もいまセンね。」

「そうだな、照葉の言うとおり大体が体育館に集まってんのかもな。」

「ってか、俺ら二人で大丈夫なんかな?」

「まあ、照葉がそれぞれのアビリティをコンシダーしたリザルトがこのチームデスからね。」


 なんかこいつただの横文字野郎みたいになってんな。スタバでmacいじってそう。


 と、話していると真白の方からメロディが聞こえてきた。なんか聞き慣れた、思わず体が踊り出してしまいそうなユカイな音楽だ。


「真白、スマホなってんぞ。」

「テルデスね。已結ちゃんから。」


 いつの間に連絡先交換したの?俺だけハブられてるじゃん、このマングースどもめ。


「でも電波はつながらないはずだけどな。罠かも。」

「確かに、敵からの通信はテンプレートデスが、どっちにせよ三人が捕まったりしていたら助けなくては行けない訳デスし」

「確かに、それもそうだな。一応俺にも聞かせてくれよ。」


 真白はポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、片方を俺に差し出した。なんか少女漫画でよく見そうな構図になった、どうせなら有線の方が良かったな。


「もしもし」

『良かった、七海、繋がりましたわよ。』

「あっ、無事だったんデスか。」

『いや、それが、真白先輩は捕まって、連れていかれましたわ。』


 そうか、真白は捕まったか、、、だがしかし、死んだわけでもあるまい。今のところ見ている限りでは意外と人質は丁寧に扱われている様だが、心配なものは心配だ。


「そうデスか、ところでなぜ電波が?」

『ああ、それでここからが本題なのですが、とりあえず外に出ること自体には成功いたしました。』


 さらっと成功してんじゃん。すごいねあの二人。


『ですが、学校を囲むような結界とでもいうべきでしょうか、が張られていたんですの。大体学校の横幅を直径にした円の様な感じです。なので、結界内での通信は可能なのかと思いましたが、当たりの様ですわね。』

「結界、、、」


 俺たちが言葉を失っていると、今度は海住が話し始めた。


『はい、もしかしたらカロシッソちゃんと同じ世界から来たのかもしれません。それなら魔法と言うのも、納得できます。いや、納得はできませんが』


 にしても結界、急にファンタジーじみて来たな。是非とも現物を確認してみたいところだ。


「穴とか掘ってみたらどうデスか?」

『いや、それはもう試しましたが、地面の深くにまで張られている様でした。』


 もう試したのかよ、ベルリンの壁みたいなノリで行けると思ったのだろうか。


「そうか、じゃあ脱出は不可能ということか?」

『三軒茶屋先輩も無事だったんですね。はい、恐らくは。』

「そうか、これからどうする?」

『とりあえずは合流するのが無難でしょうか。』

「そうだな、また例の体育館の裏でいいか?」

『はい、問題ありませんわ。』

「じゃ、またそこで。」

『了解ですわ。』


 真白が電話を切った、その時だった。

 すぐ近くから足音が聞こえた。それに気づき反応した時にはすでに遅く、俺たち十メートルほど先にに大柄な男が立っていた。


「はぁはぁ、ヒャハハハっ、見つけた。見つけたぞ!これで、これでこれれでこれで、」


 明らかに様子がおかしかった。足はふらつき、顔はこちらを見ていながらも、焦点は定まっていなかった。


「真白、こいつヤバそうだぞ。」

「クレイジーな感じデスね。」

「か、かかっかか。何話してんだあ?かんけーねーけどなあ、今からお前たちは死ぬんだから。憎むなよ?殺されない様に言われてるんだが、無理無理無理無理、おかしいんだよ。あいつは、あいつ、あいついあいつあいつあいつ」


 そう言って、男は何やらぶつぶつ言いながら、手に持っていた銃をこちらに突きつけてきた。


「くくく、かかかっかかかか!」


 そう言って、引き金を引いた。その瞬間、流石に俺も死を覚悟した。覚悟したからと言って何ができるというわけでもないが、覚悟は絶望を吹き飛ばすんじゃなかったのかよ。


 しかし、男の銃はカシュッという間の抜けた音を発するだけで、何も発射されなかった。


 男が事態を把握できずに混乱していると、


「お前はこれで死ねええ!」


 という叫び声と共に、ゴチンという鈍い音がして、男が倒れた。

 後ろには、俺の担任の小鳥遊先生がいた。


「はぁ、間に合った、のか?おかしいな、タイミング的には完全にアウトだったはずなのに。」

「「小鳥遊先生〜」」

「おお、二人とも、怪我は無いか?」

「ええ、何とか二人とも無事です。」

「それは良かった、君たちの無事が何よりだからな。」


 俺たちがそう報告すると、小鳥遊先生は安堵の表情を見せた。そして、倒れている男の方に近づくと、男が持っていた銃を手に取った。それをしばらく舐めるように見ていると、


「完全に気絶している様だな。うむ、君たち、ちょっと耳でも塞いでおいてくれ。」


 俺たちが指示に従うと、急に廊下の壁に向かって引き金を引いた。反射的に身構えたが、銃声は聞こえてこなかった。


「やはり、これは偽物の様だな、よくできたレプリカだ。」

「え、ほんとデスか?」

「ああ、手に取って自分で確認してみたまえ。」


 ほい、っと真白の方へその銃を投げた。


「うえ、あ、ちょっ。」


 急なことに驚いた様だったが、パシッとキャッチした。


「あ、なるほど。これは、」


 何に納得したんだ?と、俺だけが顔にクエスチョンマークを浮かべていると真白が、その銃を手渡してきた。

 渡されても比較とかできないからわからんだろ、とか思っていたが、持ってみると意外に納得できる。


「軽い、ですね。」

「そう、私も銃に関する知識はないが、修学旅行の同伴でな、グアムに行ったことがあるんだが、自由行動の時間に射撃体験に行ったモノ好きどもがいてな、そこで体験したことがあるんだ。その時、持ったものは三キロはあったからな。」


 修学旅行で射撃体験って、どういうセンスだよ。というのはさておき、真白から手渡されたレプリカは、一キロもない、プラスチックの様なもので作られていた。


「こんなガンから撃てるとは流石に考えにくいデスね。」

「ま、そういうことだ。」


 そうなってくると、当然一つの疑問が浮かんでくる。


「他のものもこいつのと同じなんですかね?」

「分からんな、他にも三人くらい倒して来たから確認すればいい。」


「他にも三人、、、さらっと凄いこと言うこの人。」


 真白に、ボソッと耳打ちする。


「そうデスね。教室では寝てるイメージしかありまセンが。」

「どんな教師だよ、寝てるイメージしかない武闘派教師って、ラノベにいそうだな。」

「まあ、これラノベですしね。」

「馬鹿、メタ発言は時代遅れなんだよ。」

「君たち、何を話しているんだ?早く行くぞ。」


 少し前を歩いていた小鳥遊先生からせかされ、少し駆け足で、小鳥遊先生が倒した、とかいう人のところまで来た。

 縛られ、眠らせれている男の銃を確認したが、先の男と全く同じもので、恐らく、全て偽物だろうと言う結論に至った。



「なんだ、あの男どものものは偽物だったのか、今まで警戒して損したな。」

「そうデスね。そもそもジャパンでガンなんて、そうそう手に入りませんしね。」

「確かに、それもそうだな。」


 と言うところでまたまた真白の携帯がなった。


「あ、已結ちゃんからですね。」


 真白が携帯のメッセージを開くと、真白の顔から血の気が失せた。


「こ、これ見てくだサイ。」


 真白が携帯の画面を見せてきた。もうすでにある程度察しはついていが。とにかく、已結から一言だけのメッセージが送られて来ていた。


『捕まりま』


「ど、どうしまショウ?なんて返したらいいデスかね???」

「落ち着け落ち着け、過呼吸しろ過呼吸。」

「はあ、まず君が落ち着きたまえ、今連絡したら奴らに気づかれてしまうだろ。どうせ体育館に連れられて行くだけだ、他の人を助けるのだから同じことだ。」


 小鳥遊先生はこめかみに手を当て、やれやれと言う風に言った。いや、お前こそ保護責任があるんだから少しぐらい慌てろよ。


 だいたい、こんな容易に侵入を許しちゃうのをどうにかしてくれ。


「今度から、対テロリスト用の訓練も必要だな。」

「嫌に冷静ですね。」

「そうか?焦っても仕方がないしな。」


 何はともあれ、いくらか冷静さを取り戻した俺たちは、今後の作戦を立てることにした。


「さてと、これからどうするのかが問題だな。」

「そうデスね。」

「でも相手の銃が偽物だとしたら、普通に数の暴力でいいんじゃないですかね?」

「数の暴力というと?」


 本当に簡単な話である、こちらが動員できる人は占拠された時点で学校に残っていた全校生徒だ、そしてその全校生徒は俺たちを除いた全てが体育館に集まっていると思われる。


「体育館にいる生徒たにどうにかして銃が偽物であることを伝えて、みんなで一斉に奴らに歯向かえばいいんですよ、どばーっと全校生徒で行ったら流石に大丈夫でしょ。」

「恐ろしくアブストラクトデスね。」

「でも意外といいかもな、最初の放送からもう二時間ぐらいたってるし、そろそろ、というかもう体育館の生徒の集中力も切れて来てるだろうしな。」

「じゃあ、それでいきまショウ。でも体育館の人達とはどうやってコミュニケーションを取るんデスか?」


 それくらいは考えてある。と言っても誰でも思いつく様なことだが。


「普通に放送室だな。というか他に思いつかん。」

「そうだな、まあそうだよな。一応職員室にも放送器具はあったりするんだが、使ったことがないから使い方もわからんし、普通に放送室でいいだろ。」


 何年いるのか知らないけれど、職員なのに学校の設備を一回も使わないこととかあるの?緊急用とかなのだろうか、だとしたら今はまさにそれを行使するべき状況下にあると思うんだけれど、まあいいか。


「でも、あそこには奴らがいるんじゃないですか?結構リスクありますよ。」

「何を言ってるんだ?銃が無力であるとわかった今、私があんな奴らに負けるわけがなかろう、こいつがあればリーチの面でも勝っているからな。」


 刺股をくるくる回しながら先生は言う。危ないからやめてください、風が来てます。


「この人、どんなチートキャラなんでショウか?」

「分からん、ハワイで習ったんじゃね?」


 なんか回し方がファイアーダンスっぽいし。


 そんなこんなでこの後も特にいい案も出ず、結局放送室に行って体育館の人たちへ伝えたらあとはもう頑張ってもらうという何とも他力本願な作戦を実行することになった。


「放送室に人はいるんデスかね?」

「さあ?どうだろうな。」

「居ないんじゃないか?見張りがどんどん減ってるからな。体育館に集まってるいるんだろう。結構歩き回っていたが、お前たちを襲ったやつ以外はしばらく見かけなかったぞ。まあだが、お前らの後輩が捕まったということは、まだ全く居ないとも言い切れないな。」


 まあ確かに。そもそもこんなところで話してたって机上の空論。俺たちにできるのはいざという時に対応できるように覚悟を決めておくことぐらいなものだ。


「さて、着きましたね。」


 声をひそめて会話する。


「私が見てくるから君たちはここで待っていたまえ、私がやられたら抵抗せずにちゃんと捕まれよ。さっきみたいにやばいやつだったら話は別だが。」

「りょ、了解です。」

「では、いってくる。」


 ガチャ


 先生がドアノブに手を伸ばすと、結構大きめな音が鳴った。全然警戒とかしないんだ。


「やべっ」


 普通に失敗だったみたいだわ。


「お、お前!まだ捕まってないやつがいたのかよ。」

「はぁ、仕方ないな。」


『バキッ』


 音だけの情報だが、普通に中に人はいたようだ。一瞬で制圧されたみたいだけれど。俺たちが先生のワイルドさに感服していると放送室のドアから先生が顔を出した。


「よし、君たちももう入っていいぞ。」



「へぇー、放送室ってこんな感じになってるんすね。初めて入りました。」

「そうか、まあ実際放送委員や生徒会長でもなけりゃ入る機会はほとんどないかもな。心配しなくても、私は使ったことがあるから大丈夫だ。こういう機械ってワクワクするよな!いつも自分から志願してやってるんだ。その点職員室のやつはボタンが半分くらいしかないからな。やっぱり放送は放送室に限るな。」

「、、、さいですか。」


 とかなんとか言いながら小鳥遊先生は至極楽しそうに放送右室の器具をいじり始めた。まあこういう器具を使うのが楽しいのはわかるけれど。


「放送範囲は全校で、音量は最大でいいよな。三軒茶屋、外で聞いててくれ。」


 俺が外に出てから数拍置いて、放送が開始された。シーというノイズが聞こえるとすぐに、キイインという耳をつんざく様な機械音が聞こえてくる、ハウリングの音だ。音量最大は普通に失敗だったな。そして次に聞こえてきたのは先生の声だった。



 ーーーーーーー


 私たちが捕まってからもうしばらく経った。


「これ、いつまで捕まってなきゃいけないんだろうね?」

「さあ、見当もつきませんわ。彼らにもお金とか目的があってこんなことをしてるんでしょうが、その目的が私たちに示されていませんし。最悪最後に口封じとしてこの学校ごと爆破なんてこともわずかですが考えられますわ。」

「そうなったら、どうしよっか?」

「どうすることも出来ませんわ。貴方のことすら守れないなんて、自分の無力さがいやになりますわ。」


 彼女はまだそんなことを言っている。ついさっきだって何も出来ない私を守ってくれたのは彼女だというのに。無力がいやになるなんて、私が言いたい。せめて、彼女に迷惑をかけないくらい、しっかりしていたいと思う。それでも、彼女は私を助けてくれるのだと思うけれど。


 すると、にわかにキーンと言う、どこか既聴感のある金属音が聞こえてきた。そして、


『全校生徒へ告ぐ。テロリストたちの銃は偽物である。君たちがそうやって情けないことにも捕まっているのはなぜだ?死にたくないからだろう。その死とは銃を持って裏付けられている。しかし銃は偽物だ。君たちは自由だ。みんなで向かって行けば何も怖いものはない。本来ならば銃であってもだ、たかだか十丁やそこらの銃でこの学校にいる千人近い高校生を抑え込めるわけがなかろう。そしてその銃も偽物だ。さあ、諸君。今こそ立ち上がり、彼らを叩きのめせ!』


 みんな唖然としていた。それはテロリストの人も同じだった。一番最初に内容を理解したのは、きっと私たち二人だったと思う。なぜなら、この中でおそらく唯一彼らの発砲を目撃していたからだ。あの銃は、偽物ではない。


 それがわかったところで、私には何もすることができなかった。


 すぐに、体育館内はざわつき始めた。ちらほらと、立ち上がる人も増えてきた。


 すると体育館にいたテロリストの中で一番偉そうだった人が、下っ端ぽい人から受け取ったメガホンを使ってこう言った


『静粛にしたまえ。我々の目的は君たちを傷つけることではない。それは我々の理へ反することでもある。ここへは人探しにきただけだ。しかし、我々の邪魔をするのでは話は別だ。理を犯してここまできたのだからな。』


 そして、男は銃口を天井へ向け、引き金を引いた。


 しかし、そこから何も発せられることはなかった。


 しばしの沈黙が流れた。みんな思っていることは同じだった。


『は?』


 少しすると、またざわめき始めた。いつの間にか、体育館にいた生徒たちはいつの間にか総立ちになり、誰からともなく近くにいたテロリスト共に襲いかかった。


 そこからは早かった。一度に二十人くらいに襲い掛かられたらテロリストたちもたまったものでは無く、あっという間に制圧されてしまった。すぐに、全員の拘束も解かれた。



 私のすぐ横にいた穂希ちゃんも流石に予想外だったようで、


「なんだ、意外とあっけないものでしたわね。」

「そ、そうだね。本当に銃が偽物だったなんて。」

「何というか、ここまで来ると、拍子抜けを通り越して、」


 穂希ちゃんが話していた途中、突如として今度は正真正銘本物の銃声が聞こえた。


「ティクール!」


 ティクールが、手に銃を持って、天井に向けて乱射していた。


『くくくくく、はーはっははは。君たち、残念だったねえ。もう少しだった。もう少しで、私たちの方が手遅れになるところだったよ。』


『はは、已結ちゃん、海住ちゃんまた会えて嬉しいよ。』


 ティクールがメガホン越しにそういうと、キャットウォークから飛び降り、私たちに近づいてきた。彼女と私たち直線上にいた人は逃げるように離れていった。


「やはり、貴方の銃は本物だったわけですか。」

『たまたまだ。私が使っていた銃は他の者のそれとは別タイプだからな。なぜか通常魔弾砲ガン・マギアのみ無効化されている。』


 しっかりロープまで確認していなかった。失敗だ。それにしてもなんだ?ガン・マギアって。


『くくく、もう理なんてどうだっていい。カロシッソのこともそうだ。君たちを殺してこそ。私の真の目的は達せられる。そもそ彼女のことだって、この世界から消えてしまえばいい。あとで殺せば、それでいい。』

「カロシッソって。彼女が目的ですの?」

『所詮君には関係のないことだ。私の最後の魔力を使い、君達を殺すだけさ。彼女のことはそのあとよ。』

「なら、尚更通すわけにはいきませんの。彼女が何者かも、何にも知りませんが、貴方達のような人の手に渡っていいことが起きるはずもありませんし。」


 そう言うと、ティクールはスピーカーを投げ捨て、また高らかにに笑った。


「くくく、勘違いしてもらっては困る。今回の私と君たちの対決は闘いではない。私から君たちへの一方的な殺しさ。なぜまた戦えると、私に勝てると思っているんだ?」

「、、、確かにそうですわね。私は少々自惚れていたようですの。じゃあ、貴方に最後に私からのお願いを聞いてもらっても宜しいかしら?」

「もちろんさ。君の研ぎ澄まされた武道には、私も敬意を払っているからね。お願いの一つくらい。」

「では、どうせ死ぬなら殺すのは私だけにしてくださいまし。」

「し、穂希ちゃん?」


「くくく、ダメだよ。ダメさ。君たちを殺すことが私の目的なんだから。じゃあ、こういうのはどうだ。君たちがキスしたら、」


 ティクールが私の行動に言葉を失った。そう、私は穂希ちゃんの唇に自分のそれを重ねた。


「な、七海!?」

「こ、これでどうですか?」


 少しの間目を丸くして固まっていたティクールだったが、我に帰ると、今日一番の声で笑った。


「ふふ、くくくっ、はーはっはははは。やっぱり面白いね君たちは、約束を違えるのは趣味ではないが、やっぱり一緒に死ぬべきだ。これが私にできる最大限の譲歩だよ。」


 彼女は私たちに向けて銃を構えた。銃口から魔法陣としか形容できない模様が空気中に浮かび上がった。直径2メートルはあろうかという大きな物だった。


 そういえばカロシッソちゃんが私たちの前に現れたときも似たような物を見た。


「なぜ思い至らなかったのでしょう、異世界と言ったら魔法がつきものなのに。私の失敗ですわ。」

「死んじゃうのかな、私たち。」

「残念ながら、私が至らなかったばかりに。」

「そんなことないよ。私のせいだよ。でも、死ぬ前にちょっとはいい思い出できたかな。」


「じゃあね。二人とも。マギア・オブ・ドロフォニア」


 魔法陣が光り始めた。


「穂希ちゃん。」

「七海。」


 私が死を覚悟し、目を瞑った。

 そのとき


「はあああ!えい!」


 という声が聞こえた後、ティクールが軽く吹っ飛んだ。そして見えたのは玉敷で先輩だった。


「先輩!」

「私に続けー!!!そいつを抑えろ!!!!!」


 先輩は私たちの方を見てからニコッと微笑むと、周りにいた生徒たちに向かって叫んだ。


「お、おう!女子にやらせたままでいけるかー!行くぞー」

「続けー!」


 先輩の呼びかけを聞き、先ほどまで怯えていた男子生徒たちがティクールの取り押さえに向かった。流石のティクールといえど多勢に無勢。先輩の蹴りが直撃した脳もまだ揺れているようであっという間に取り押さえられてしまった。


「先輩!ありがとうございます。本当いいのちの恩人です!」

「本当ですの、まさかあんなに綺麗に蹴りを入れられるとは、カポエラですか?どこで習ったんですの?」

「え?ああ、昔ちょっとね。でも本当に二人が無事でよかった。あの人二人に魔法使うまで全く隙を見せなかったんだよね、遅くなってごめん。怖かったよね」


 何を謝ることがあろうか。ここで遅いですよーなんて言ったら世紀の恩知らずと前前前世の最初とともに名を残していただろう。


 何はともあれ、本当に助かってよかった。


 すると、誰かが駆け寄ってきた。カロシッソちゃんだ。


「已結さん、海住さん、大丈夫ですか?」

「ええ、玉敷先輩のおかげで大丈夫ですの。カロシッソちゃんも無事そうで何よりですわ。」

「ありがとうございます。いやはや、玉敷さんのアレには感服しましたよ。流石です。」


 ひと式互いの無事を喜び合ったところで、カロシッソちゃんがやらなくてはならないことがあると言った。


「やらなくちゃいけないことって何?」

「はい、ティクールを元の世界へ返します。」

「え?カロシッソちゃん。記憶戻ったの?」

「はい、完全にとはとても言えませんが、魔法の使い方に関してはほぼ完璧に思い出しました。」


 玉敷先輩が先陣を切り、人混みの中心のティクールと向かい合う。


「マギア・オブ・シンギュラリティ」


 カロシッソちゃんがそう唱えると、ティクールが光る鎖のようなもので拘束された。ティクールは、もう諦めてしまったのか抵抗することは全くなかった。


「みなさん、もう大丈夫ですから、離れてください。」

『え?離れた大丈夫なん?』

『それな、てか何この鎖』


 当然ながら、みんなカロシッソちゃんのいうことを聞かない。それを見かねて玉敷先輩が口を開いた。


「はーい、みんな離れてー」

『え?あのねーちゃんが言うんなら離れるか』

『そうだね。あの人が言うんなら』


 流石のリーダーシップで、皆徐々に離れていった。それを確認すると、カロシッソちゃんは仰向けのティクールの上に顔を覗かせた。


「貴様、名はなんと言う。」

「お姫様のお目覚めか、少々分が悪いな。」

「名は何だと言っておる。」

「おめえに名乗るなはねぇ。」

「そうか、、、では去ね!」


 カロシッソちゃんはそう言うと、天井に向かって手をかざした。


 その手の先に、本日二度目の魔法陣が現れた。今回で見たのは三回目だったが、今までとは比較にならない大きさだ。体育館の全てを包み込んだ。


 やがてその魔法陣はテロリスト一人一人を包み込んだ。


 ティクールは自分にまとわりついた魔法陣をじっくり眺めた。


「なるほど、これが王族の特権魔法か、万全の状態でも解除は無理そうだね。」

「当たり前じゃ。余の魔法をお前に解除できるわけがなかろう。もう無駄口はよい、目障りじゃ。」


 そう言うとカロシッソちゃんは手を握りしめた。すると魔法陣に包まれていたテロリストたちは影も形もなくなっていた。


「ふう、」

「か、カロシッソちゃんすごいね。」

「いや、そんなことはありませんよ。海住さん達が危険な目に遭うまで思い出せなかったんですし。」


 カロシッソちゃんは少し悲しそうな顔をした。


「それより、この騒ぎを収束させます」

「何とかできるんですの?」

「ええ、私達の得意分野です。」


 そう言うとカロシッソちゃんはまた天井に向かって手を伸ばし、呪文を唱えた。


「マギア・オブ・イリシィ。」


 またまた彼女の手から現れた魔法陣は、今度は学校全体を包み込んだ。


 その魔法陣は全ての生徒を包み込んだ。正確には、私と穂希ちゃんと玉敷先輩は別だったを除く。


「じゃ、来てください。」


 カロシッソちゃんは私と穂希ちゃんの手を引いた。


 ーーーーーーーーーーーーーー



 俺と真白と小鳥遊先生以外の人が、なぜかテロリストに関する記憶を失っている様だった。

 とりあえず訳も分からないので、文化部の部室へ戻ると、他のメンバーも全員揃っていた。


「おっ、なんだ、みんなここにいたのか。」

「皆さん、無事だったんデスね。三人とも、心配しまシタよ。」

「はい、お陰様で、」


 すると照葉が俺の後ろの人に気づいた。


「あれ、小鳥遊先生、どうしてここに?」

「ああ、さっき襲われているところを助けてもらったんだ。と言うかその様子だと、お前達も記憶があるのか?」

「うん、何でか知らないけど私たち以外はテロリストの事件のことを忘れているみたいなの。」

「やっぱりか、俺たちも何人かとあってみたが全員記憶を失ってるんだよなあ、お前らに記憶があって良かったよ。でもな、なんでみんな記憶を失っているんだ?」


 俺がそういうと、カロシッソちゃんと已結と海住は、苦笑いをして事情を話した。


「えーと、カロシッソちゃんって魔法と使えたの?」


 まあ、よく考えりゃ魔法陣から出てきたんだから魔法が使えない方がおかしいと言えるだろう一番先に思うとこだろこれ。


「カロシッソちゃん、マジック使えるんデスか?」

「ああ、はい、一応。」

「異世界人だからもしやとは思っていまシタが、まさか本当に、すごいデスね!」

「いや、別にそんな、、、」


 もちろん、この状況についていけないものが若干一名いる。


「いや、魔法って何だ?もう少し詳しく教えてくれないか?」


 そりゃあそうだろう。誤魔化すと言うわけにもいかないので、今までのことを全て説明した。今までのこと全てと言っても、麻雀してたら急に魔法陣が現れて出てきたよ、ってことだけだが。


「はあ、事態が飲み込めんな、とにかく、そこのカロシッソちゃん?は異世界人、なのか。そんなのラノベでしか聞いたことがないな。」

「そうですよね。信じなくてもいいですよ。僕らは見てますから、カロシッソちゃんが何もないとこから出てくるところを。」

「いやいや、私も信じるよ。魔法も見たと言う面では私もそうだからな。」


 まあ確かに、放送室で伸びていたテロリストが魔法陣に包まれて消えるところを先生も一緒に見た。

 そこまで聞いてカロシッソちゃんが口を開いた。


「そう、魔法のことで話したいことがあるんです。私、少しなんですが記憶が戻りました。」

「本当か?」

「はい、具体的には魔法の使い方を思い出しました。今までは魔法の使い方は愚か、魔法そのものの存在を忘れていました。」

「そうか、他の記憶の方は?」

「いえ、それ以外の記憶は、でも二つわかりました。」


 カロシッソちゃんは言葉をついだ。


「一つは私が王族だったということです。」


 うえ?


「二つ目は私のきお、」

「いや、ちょっと待てくれ」


 なに話を続けようとしてるんだ。


「王族、、、王かあまあそれはいいとして何でそれが分かったんだ?」

「はい、私がさっき使った魔法、あれは王族の特権魔法なんです。」

「特権魔法?」

「はい、王族の特権魔法は王族の血が入っていなと使えません、なので私は王族なのではないのかと。」

「なるほど、」


 王族の特権魔法とかあんのか、かっこいいな、血継限界みたいなものでしょ。


「だから、テロリストの人たちも王族である私を追ってここにきたのかも知れません。とりあえず彼らは元の世界に送還しました。我々以外の生徒の記憶も彼らに関するものは消去しました。記憶の処理は王族の得意分野なので。」


 なんか怖いな、隠蔽が得意な王族、、、。そんなもんか、しんげ、おっとこれ以上はやめておかなくてはいけないな。


「なるほど、で、二つ目は何だ?」

「はい、私の記憶喪失は、魔法が原因だということです。私が知ってる魔法にそういうものがあります。この魔法は、記憶をいくつかの塊に分けて封印します。それぞれの鍵となる言葉や行動などに触れた場合その塊の封印が解ける、といった魔法です。今回の事件でティクールの魔法を見たことによって魔法に関する記憶が記法されたのかと。」


 記憶、カタマリ、うーん。分かった様な分からないような、


「その魔法が分かったんなら、解除魔法とかはないんですの?」

「確かに、司馬達也みたいな感じでいけそうデスよね!」


 お兄様はチートキャラだから。普通のやつに真似はできねえよ。と思いつつ、特権魔法とやらを使えばできそうに思える。


「残念ながら、特権魔法は解除ができません。」

「そうか。じゃあ、カロシッソちゃんの世界の人に会えないと人とかの記憶は戻らないと考えるのが自然か?」

「何が鍵になっているかはわかりませんが、おそらくはそうかと。」

「あれ?でもカロシッソちゃん、ティクールと話してる時、なんか口調変わってなかった?てっきり記憶も戻ったのかと思ったんだけれど。」

「多分王族であることを思い出したのことが鍵になって、王族としての誇りみたいなものを思い出したのかと。流石に恩人である皆さんの前であの高飛車な口調はどうかと思いまして。」

「そっか。」


 わからないがカロシッソちゃんがいい子だと言うことは確かなようだ。

 ここまで大人しく聞いていた小鳥遊先生が、不思議そうな顔をして口を開いた。


「カロシッソちゃんと言ったかな、あのテロリスト共をはどこに行ったんだ?」

「えっ?私とあの人たちがが元々いた世界ですよ。」

「なら、君も同じ要領で帰ればいいじゃないか、君も元の世界に帰りたいんだろう?」

「私も言おうとしてましたが、それはできないんですの?」


 確かに、普通にそうだ。いや、俺も気づいてたよ!

 同じ魔法を使って自分も強制送還してしまえばいいだろう。


「はい、なので私もその方法で帰ろうと思うんですが、一つ問題がありまして。」

「問題、というと?」

「世界線を跨ぐ魔法は、特権魔法の中でも群を抜いて魔力を消費します。さっきの戦闘で私のためてあった魔力のほとんどを消費してしまいました。」

「なるほど、ならまた貯まるまで待つしかないな、どれくらいで貯まるんだ?」

「えーと、残りの魔力だと少しばかり足りないので次に同じ魔術を使える様になるまで一ヶ月ですね。ですからそれまでみなさん、特に扉さんの世話にならないと。」

「そんなことか、全然気にしないでくれ。」


 なるほど、一ヶ月とな、それだと親がどうしても帰ってきてしまう。なんて説明しようか今から考えておかなければなるまい。


 というか、少しばかりで一ヶ月?妙だな、、、


「少しばかりというと、ゼロから貯めるとどれくらいかかるんだ?」

「えーと、二十年くらいですね。」

「二十年!?えっカロシッソちゃんってアラフォーくらいなの?」

「まさか、こっちの世界は魔力が薄くて回復に時間がかかるんですよ。」


 なるほど、それがこっちの世界に魔法ない理由だったりするのかしら。俺でも簡単な魔法くらいなら使えるのかと一瞬思ったが望み薄そうだ。


「でもよかったね。帰れる目処が立って。てっきりもう帰れないんじゃないかと思ってたよ。」

「だいたいこういうのってアクセラレータデスもんね。」

「アクセラレータ?」


 うん、それは英語とか全然関係ないね。にしてもよかった、俺も1パーセントくらいはそんなことを考えていたし。



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