表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

狙われた弓道部員

作者: 影森ひとえ

【狙われた弓道部員】



これは、今から15年前。

私が高校生だった頃、幽霊に命を狙われかけた実体験です。

少々長くなりますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。


---


1. やって来た大山さん


私は当時、強豪校の弓道部に所属しており、ほぼ毎日が練習漬け。休みなどほとんどなく、全国大会を目指す日々でした。


高校1年の11月。

練習中に右肩を痛め、しばらく安静を言い渡されました。レギュラーからも外され、気持ちはどん底。


そんな私を見かねてか、ある日、姉(当時高3)が自分の友人を家に連れて来ました。

その人の名前を聞いた瞬間、私は飛び上がるほど喜びました。


その方の仮名は「大山さん」。姉と同じ高校に通っている人です。

姉からよく話を聞いていた“霊感の強い人”で、霊視やお祓いもできるとのこと。

姉は私が会いたがっていたことを覚えていて、わざわざ呼んでくれたのです。


当時から霊感を信じる人は少なく、ましてや高校生の私が「ぜひ会いたい!」とまで言ったのが珍しかったのか、大山さんも興味を持ってくれたようでした。


気さくで、優しげな笑顔の似合う、どこか神秘的な雰囲気のある男性でした。

私は大興奮で質問攻めにしてしまいましたが、嫌な顔ひとつせず付き合ってくれました。


そして、どうしても聞きたかったことをぶつけました。

「僕、なにか憑いてたりしますか?」


---


2. 霊視の結果


その瞬間、大山さんの表情が徐々に真剣になります。

やがて、私の右肩をじっと見つめ、口を開きました。


「……右肩、ちょっと気になるな。憑いてるというより、憑いてた“跡”がある。最近、何かなかった?」


ゾクッとしました。

部活を休んでいることは伝えていましたが、右肩を痛めたとは言っていませんでした。なのに、それをピンポイントで言い当てられたのです。

もう鳥肌ものでした。


私は肩の怪我のことを話し、右肩がどう“見える”のか尋ねました。


すると大山さんは、「人にはそのひとを守護する“膜”のようなものがある。その右肩の膜が破れてるんだ」と教えてくれました。


正直、怖さよりも「そんな世界があるのか」とワクワクしてしまいました。


夕方になり、大山さんは帰るため玄関へ。

私も一緒に外まで見送りました。


そのとき、大山さんがふと、ある一点を指差しました。

「ねぇ、あれって誰の自転車?」


私の通学用の自転車でした。


「早くなんとかしたほうがいいよ」と言われ、私は少し寒気がしました。


---


3. 後輪に憑くもの


「なんでですか?」と聞いた私に、大山さんはさらっとこう言いました。


「だって、後輪に女の人がしがみついてるもん」


……言葉を失いました。


というのも、自転車には思い当たる節があったのです。

大山さんが来る2ヶ月ほど前から、タイヤが2週間に一度の頻度でパンクしていたのです。しかも、毎回違う場所が。


3回目の修理のとき、自転車屋のおじさんが見せてくれたパンクの原因は、信じられないものでした。


「なんでこんなもんが刺さるんだ……」と、見せてきたのは小さな石の破片。

4〜5ミリほどの細長い破片が、タイヤにまっすぐ刺さっていたのです。


自転車の話を伝えると、大山さんは「それだね」と頷きました。


「このままだと、事故るよ」と言われましたが、どう対処すればいいか分かりません。


戸惑う私に、「まあ、任せといて」とだけ言って、大山さんは帰っていきました。


数日後。

姉が私の自転車に、ペットボトルに入れた水をざばっとかけていました。驚いて理由を尋ねると、「聖水をかけてる」とのこと。


大山さんが姉に聖水の作り方を教え、自転車にかけるよう指示してくれたそうです。


その日を境に、タイヤのパンクは一切なくなりました。

初対面の私のためにここまでしてくれた大山さんには、今でも感謝しています。


---


4. 通学路の正体


季節が変わり、肩も治り、日常が戻ってきました。


ただひとつ、毎日通る通学路の途中に、ずっと嫌いな場所がありました。

それは、急な坂道。


私の高校は隣町にあり、自転車で片道40分。

その上、山を一つ越える必要があり、夏場はまさに地獄の道のりでした。


坂の途中には橋があり、その下を鉄道の線路が貫いています。

近くに駅もありますが、かえって遠回りになるので自転車一択。


ある日の帰り道。

私は疲れきって、自転車を押しながら坂を登っていました。橋の近くまで来たとき、ふと欄干に目が向き、そこに名前が彫られているのに気づきました。


――「ちあかばし」


すべて平仮名でしたが、漢字がすぐに浮かびました。

「血赤橋」……まさか、とは思いつつも、不気味さが残りました。


夕食時、その話を家族にすると、父が「それ、“ちさか”のとこか?」と聞いてきました。


“ちさか”――地元では、その坂道をそう呼んでいました。

私は「“ち”って、血の“血”?」と冗談交じりに尋ねると、姉が真顔で「そうだよ」と答えました。


さらに姉は、地元の歴史好きな知人から聞いたという話をしてくれました。


私の通っていた高校がある地域は、江戸時代に商業で栄えた町。酒蔵や大阪の豪商である淀屋とも関係のある町家も現存しており、今では観光地の一部になっています。


しかし、当時の山道は治安も悪く、山賊が出没していたとのこと。

通行人を襲い、金品を奪い、命まで奪うこともあったとか。


その坂が「血で赤く染まった」ことから、「血坂ちさか」と呼ばれるようになったそうです。


あまりに残酷で、不気味な地名ですが……毎日そこを通っていた私には、ひどく納得できてしまいました。


---


5. 繋がる事象


その話を聞いている途中、私はハッとしました。


右肩の異変。

自転車の連続パンク。

タイヤにしがみついていたという女の霊。

そして、大山さんの「どこかで拾ったんだろうね」という言葉。


全部が、一本の線で繋がった気がしたのです。


――あの霊は、最初に私の右肩から入り込もうとした。けれど、なにかの加護か守護により阻まれた。


だから、直接ではなく、間接的に――例えば、毎日使う「自転車」に憑いて、事故を装って――命を奪おうとした。


……そう考えると、ゾッとしました。


あのとき、もし坂道を下っている最中にパンクしていたら。

もしかすると、私はもうこの世にいなかったかもしれません。


右肩と自転車、それぞれ別の霊だった可能性もあります。

けれど、どちらにせよ、私は確かに“狙われていた”。


大山さんと出会わなければ、今ここにいなかったかもしれません。


今でも帰省すると“ちさか”を通りますが、もう自転車では通る気はありません。


いろんな意味で“つかれる”ので――。


終わり


余談ですが、関東某所には罪人を処刑していたことからかつて「血流れ坂」と呼ばれていた坂があるらしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ