一寸先は
三題噺もどき―ごひゃくさんじゅうご。
視界の先には暗闇が広がる。
真っ暗な夜道を1人で歩いていた。
田舎だからか、整備が間に合っていないのか。
歩く先には街灯が一つも見当たらない。
電信柱ぐらいはありそうなのに、あまりにも暗くて見えやしない。
「……」
その上、というかなんというか。
人の気配も全くしないものだから、多少の警戒心が生まれつつある。
何に対しての警戒かという感じだが……だからまぁ、どちらかというと恐怖とか怯えに近い感覚なんだろう。
「……」
空には、そこに居るはずの月も星も居ない。
かなり分厚い雲に覆われてしまっているのだろう。雲の隙間か漏れる月の光とかも、全くない。暗闇が広がるだけの視界。
まさに一寸先は闇……ってかんじだな。
「……」
手には一応懐中電灯を持っているんだけど。
生憎、電池が切れてしまって、全く使い物にならない。
多少でも、光があるのとないのとでは、心の持ちようが全く違うのに。
「……」
それなりに、暗闇に視界は慣れたはずなのだけど。
それでもこう……うまく先が見渡せない。
歩いているこの道が、果たして正しいのかどうかも自信がなくなってきた。
あっているはずなのだけど。
「……」
言われた通りに進んできた道だもの。
間違っていては困る。
途中で分岐点があったけど、その先だって教えてくれた。
何度かある分岐点で、その都度、右だ、左だと。
全て答えを教えてくれた。
「……」
あぁでも。
「……」
この道は。
自分で選んだんだった。
「……」
それまでいたはずの、答えを教えてくれるモノがいなくなっていて。
途方に暮れたけど、そこで立ち止まっているわけにもいかなくて。
そこで止まっていると、何かに追われているような気分になって。
だから急いでこの道に入ってきて。
その少し後に、懐中電灯の明かりが消えたのだ。
「……」
それで、立ち止まってしまえばよかったんだけど。
止まってはいけないと言われている気分になって、やはり何かに追われている気分になって……追いつかれないようになんとか歩いてきた。
どれぐらい進んだかは、分からないけれど。
「……」
けれど。
そろそろ。
つかれてきた。
――――ぇ」
一寸先は闇。
もう少し気にして歩くべきだった。
警戒していたくせに、怯えていたくせに。
変なところ勢いで行こうとするからこういう事態を招く。
踏み出したはずの足は地面につくことなく。
空を切って、そのままの勢いで体も空中に投げ出した。
「―――は」
懐中電灯は投げ出されて。
くるくると回っている。
手足はいうことも聞かずにただ空を切っている。
これがアニメなら、さっそうと勇者とか魔法少女とか居そうなのに。
生憎これは、そんなものではないので。
「―――」
地球の重力にひかれるままに。
落ちていくだけ。
「―――」
下が、近づくのが分かる。
もう。
限界が。
Pipipipipi――――――――――!!!
うるさい。
「……」
その一言に尽きる。
耳元で鳴るアラームを切り、時間を見る。
起きようか起きまいか。
なんだか、いやなモノを見たせいで。
既に疲れているんだが。
「……」
寝直そう。
お題:魔法少女・懐中電灯・月