第7話
その夜――
ある貴族の邸宅では、国王ご結婚を祝賀する舞踏会が開かれていた。
だが、それはあくまで隠れ蓑に過ぎない。
裏ではろうそくだけが照らす闇の中、国王ウィルフレッドに反感を持つ貴族たちが集まり、喧々諤々と意見を言い合っていた。
「何が四公六民じゃ。そんな理想で実際の領地経営ができるものか」
「まったくじゃ、このままでは我ら、干上がってしまうぞ」
「守らねば厳罰。サセックス辺境伯も放逐されたというぞ」
「何と薄情な。我らがウインザー王家に何百年仕えてきたと思っているのか」
「儂らあっての王ということを、あの方はわかっておらぬ」
「そういえば、なかなか盛大な式だったそうじゃな」
「うむ、家臣の窮乏をまったく意に介さず。自分だけ贅沢しおってからに」
「まったくまったく。我らを苦労を知らず、いい気なものじゃな」
ほとんどは意見というよりは、現状への愚痴といったところだったが。
それだけ現王ウィルフレッドに反感を持つ者が多いという証左でもある。
「やはりあの方は王の器ではありません。早急に退位してもらわねば!」
意を決したように、場の貴族の一人が気勢を上げるも――
途端、
「うっ、それはその通りとは思うが……」
「私も同意見ではありますが……」
「その、具体的にどうするのです?」
「色々女を送り込んではおるが、手を出す気配はない」
「刺客も皆、返り討ちだ」
「バロワの姫と結婚し、あの王の政権基盤はますます確固としたものになり、政治的に引きずりおろすのも厳しい」
「かといって真正面から剣を持って立ち向かっても勝てん。兵の数では上回れようが……」
皆、一様に弱気な発言を繰り返す。
皆知っているのだ。
戦場におけるウィルフレッドの鬼神のごとき活躍を。
戦となれば、絶対にあの男に勝てないということを。
はっきり言ってあの王のやりようは無茶苦茶だ。
本来なら、多数派の反対に押し潰されるのが常だ。
にもかかわらず、あの男は二年もの間、自らの信念を強行に押し通し続けた。
それが許されたのは、ひとえにその理不尽なまでに圧倒的な武力があるのだ。
アマンダ王国と戦っている時はこれほど頼もしいものもいなかったが、今はまさに目の上のたんこぶと化していた。
「確かにあの方は戦だけはでたらめに強いですが、とは言え隙もあります。それも致命的な、ね。そこを突けば、案外脆いものですよ」
暗闇の中に、一際若い声が響く。
だが、この場にいる誰も、若造が大層な口を利くなとは言わない、思いもしない。
彼に向ける皆の視線には、怯えと敬意がある。
年こそ若くとも、彼がこの場を仕切っているのは一目瞭然だった。
「かの王は人の心の機微を知りません。この二年、あの王の性急な改革により、王国内の色々な場所で軋みは生まれております。何かの拍子で己ずと自壊していきましょう。そしてすでに手は打ってあります」