第13話 sideアリシア?
「えっ!? へ、陛下!?」
アリシアは思わず焦った声をあげる。
まさか一瞬で寝落ちしてしまうとは思わなかった。
よほど疲れていたのだろう。
「でもさすがに体に悪いわよね」
まだ夜は肌寒い季節だ。
椅子で寝たら風邪を引いてしまうし、なにより疲れも取れない。
何かの拍子に椅子から転げ落ちて怪我をする危険性もある。
「ううっ、でも起こすには忍びないしなぁ」
一度寝て起きてしまうと、眠れなくなったりすることもある。
お疲れモードのウィルフレッドには、万が一にもそういう状態になってほしくはなかった。
このまま明日の朝までぐっすりこんと眠ってもらうのが望ましいところである。
「よし!」
意を決して、アリシアはパタパタと寝台のほうへ行き、掛け布団をめくりあげてから戻ってくる。
そして寝ているウィルフレッドの脇にそおっと腕を挟み、
「起きないでくださいね……んんしょっと!」
肩を貸す要領で、ぐぐっと持ち上げようと試みる。
(わわっ、おっも!?)
予想外の重さにびっくりする。
脱力した人間の身体は体感では倍重いのである。
さらに言えば、元々ウィルフレッドの身体は筋肉質であり、見た目よりよっぽど重いのだ。
「~~っ! 頑張れあたし!」
アリシアとて庶民生活で水の入った重い樽などを運んでいた身である。
自らを鼓舞し、アリシアはなんとかウィルフレッドの身体を持ち上げ、一歩また一歩、ベッドへと向かう。
ひたすら重かったが、なんとか耐えつつベッドのそばまで来る。
「後は寝かせ……わわっ!?」
ウィルフレッドの身体を降ろそうとしたところで、その重さを腕だけでは支えきれず、自らの身体まで持っていかれる。
(くっ、でも陛下を起こすわけには! ぐうっ!)
咄嗟に自らの身体をクッションにして、ウィルフレッドの衝撃を減らす。
代わりにベッドとウィルフレッドに挟まれたアリシアは、胸が圧迫されけっこう息が詰まったが、
(いたたたた、陛下は……ふ~、眠ったままね)
その甲斐はあったようだった。
「んっしょ、んっしょ」
アリシアはゆっくりと横に回転して、ウィルフレッドと上下を入れ替え、布団に寝かせる。
さあ、後は彼に布団をかけてお役御免というところで、
「んん」
「ひあっ!?」
ギュッと抱き枕よろしく、ウィルフレッドに抱き締められる。
「へ、陛下?」
自らの胸に顔をうずめるウィルフレッドに声をかけるも、スースーとすこやかな寝息が聞こえてくる。
(やっぱり疲れてるのよね)
観念して、アリシアは布団を手で手繰り寄せてウィルフレッドにかぶせる。
起こすのも忍びないので、放してくれるまで気長に待つつもりだったのだが……
気が付けば彼女もそのまま眠りに落ちていた。
……。
…………。
(っ!? ど、どういう状況だ、これは!?)
ウィルフレッドは状況が掴めずにいた。
目が覚めるや、自分はアリシアの胸の中に顔をうずめている状況だった。
慌てて離れようとするも、頭を抱き締められている。
それでもこの状況はさすがにまずい。
アリシアの腕を掴み、緩めてなんとか顔を抜け出させる。
「ふうっ」
一息つき、状況を整理する。
昨夜、アリシアと話し終わったあたりから記憶がない。
どうやらそのまま寝落ちしてしまったらしい。
寝台で寝ているところからして、アリシアが気を利かせて運んでくれたといったところか。
とりあえず、二人とも服を着ているところからして、そういうことはなかったとみていいだろう。
「しかし……相当疲れていたらしいな、俺は……」
我が事ながら、唖然としてしまう。
他人に寝台まで運ばれ、その上抱き締められているのに目が覚めないなど、あってはならぬことである。
相手が自分に害意がある者だったなら、いったいどうなっていたか。
……そこまで考えて、
「うふふ~、もも~、もも~、おいしい~♪」
なんともかわいらしい寝言に苦笑いを禁じえなかった。
この邪気のなさに、自分は無意識に緊張を解いたのかもしれない。
久しぶりに熟睡できたからか、身体も軽い。
「つくづく不思議な娘だ」
そのにへら~っと幸せそうな寝顔を、ウィルフレッドは飽きもせずにずっと鑑賞し続けていた。




