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姫騎士は、異世界人の少女と血の約束を交わす  作者: null
プロローグ 十字架は、その胸を貫いた
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十字架は、その胸を貫いた

初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。

百合小説をいつも綴っております、nullと申します。


今回は、異世界転移+百合+剣、という大枠で作成しております。

今までも似たようなものを掲載してきましたが、あくまで百合が中心のものを書き進めたいと思っていますので、

そうしたジャンルがお好きな方はぜひ、ご一読頂けるととても嬉しいです!


また、異世界転移ものを再び綴るにあたって、以前掲載した『竜星の流れ人』を下地にしておりますが、

そちらをお読み頂かなくても全く問題ない程度の関わりしかありませんので、どなたでも安心してご覧ください!


クールに見えるだけの姫騎士アリアと、正体不明の少女深白の百合を楽しんで頂けると幸いです。

では、お楽しみください…。

 パラパラと何かが解けていく感覚が、床についた両膝に、組み合わせた指先に広がっていくのを感じていた。


 きっとそれは『信頼』だとか『希望』だとか『未来』だとか…とにかく、そんな名前だった気がする。


 いや、もはや名前などどうでもいいことだ。どうせ千切れた糸の欠片は、拾い集めたところで元に戻せないのだから。


 それでも、神に祈るようにして膝をついた少女は、閉じられた扉の向こうへと一心不乱に言葉を紡ぎ続けていた。


「お母様、ここを開けて下さい。お母様、お母様…――」


 呪詛か、祈りか。狂ったように繰り返される言葉に、誰も答えてはくれない。


 分かっていた。自分は見捨てられたのだと。町外れの教会、怪物が大口を開けたような薄暗い闇のなかに置いていかれたのだと。


 扉の向こうに、『準備ができたら、すぐに開けるから』と言った女の姿はないのだろう。


 少女は、「お母様、ここを開けて下さい…」と何度も繰り返しながら、頭のなかでは『仮にお母様がすぐそこにいたとしても、決して開けないに違いない』と諦観に力を奪われていた。


 彼女の予測は正しく、扉は開かれるどころか、パキパキと嫌な音と臭いを放ち始めた。


 その臭いに、少女はハッと立ち上がり後退し、距離を取った。


(――火だ…。お母様、まさか、教会に火を…!)


 まだ自分がここにいることぐらい分かっているだろうに。間違いない、彼女はもう、自分を切り捨てたのだ。


(そうして、自分の生死も曖昧にするつもりなんだ…。私や他の人の遺体が出れば、きっと、ひとときでもお母様も死んだと思われるだろうから…)


 十年以上行動を共にして、生きていくためのイロハを教わってきた『お母様』の考えることだ。嫌でも予測が立ってしまった。


 あの人の、最後の笑みが思い起こされる。


『準備ができたら、すぐに向かえに戻るから…。待っていてね』。


 本当に、普段と変わらなかった。


 普段と変わらない様子で、娘の私を見捨てたのだ。


 悲しいという感情も湧かなかった。湧いたのは、これで終わりかという諦め。


 そうして、少女が肩を落としてため息を吐いていると、教会の入り口の扉がドンッ、と音を立てて蹴り開けられた。


「警察だ!両手を頭の後ろに置いて、膝を床につけ!」


 怒鳴り声と共に突入してきたのは、この国の警察だった。母と街から戻る道中、尾行されていることに気づいて撒いてきたが、やはり、時すでに遅し。この隠れ場所を突き止められてしまった。


 逃亡の時間もなかった。個人が生き延びることを最優先に考えるなら、確かにスケープゴートを用意して、一緒に焼き払ってやるのが一番だろう。


 少女はくるり、と振り向くと、警察の命令も無視して両膝をつき、祈りの姿勢を取った。


「おい、手は頭の上だ!聞こえてるのか!」


 警官の怒号も、今の少女の耳にはまるで聞こえてはいない。


(――…ずっと、こうするって決めていた。行き着く先がなくなったときは、こうするって)


 ただ、祈り続ける。


 それは、魂の安寧のためではない。


 神様に、赦してほしかった。


 赦してもらって、天国に連れて行ってほしかった。


 だが…。


 バキッ、と天井付近で音が聞こえた。おそらく、母がつけた炎が建物の外周から屋根にまで伝わったのだろう。


 警官が何かを叫んでいる声に、少女は目を開けて上を見上げた。


 落下してくるのは、木でできた巨大な十字架のオブジェ。


(あぁ、そっか…)


 ズドン、とすさまじい衝撃が体を貫いて床一帯にまで広がった。


 悲鳴と怒号、それから、次から次へと崩れ落ちてくる建物の破片。


 少女は痛みと衝撃で朦朧としながら、胸に十字架が突き立った状態で薄く笑った。


(…神は、罪人の祈りなんて聞かない、かぁ…)


 神様は善人ではない。


 救われるべき者しか救わない。


 そして、私は『救われるべき者』ではない。


「どうせ、誰も善人じゃない、けど、ね…」


 蚊の鳴くような声で、少女は最期の言葉を吐き出そうとしていた。だが、もう息一つ外には出ない。


 自分の血で赤く染まり始めた十字架の根本に触れながら、少女は再び自嘲するみたいに笑った。


(せめて、今度は…逃げ続けなくていい世界に生まれ変わらせてほしい、かな…)


 虫の息になった自分へと落下してくる破片を捉えてから、少女はゆっくりとそのオニキスを閉じるのだった。

更新に関しましては、一先ず隔日で18時頃を考えております。

土日は連続で、正午と午後に更新しますので、よろしくお願いします。

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