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首切り地蔵と監視社会

作者: ジョーン

 仏様が言います。


「私はさとりを得たので、入滅(にゅうめつ)するよ、弥勒(みろく)が56億7千万年後にあらわれるころにまた会おう、地蔵、お前もさとりを得ただろう?一緒に行こう」


お地蔵様が言います。


「わたしは、あなたがいない間、世界の衆生(しゅじょう)利益(りやく)する。あなたとは一緒にいけません」


こうして、仏様がいなくなった現在は、無仏時代と呼ばれていますが

地蔵菩薩(じぞうぼさつ)様は六道すべての世界(天道,人間道,修羅道,畜生道,餓鬼道,地獄道)に現れて衆生をお救いくださるのです。


◇◇◇


「立派な方ですね」ガワシマ君ははじめて聞いたのだろうか、感心したように目をとじている。


ここは、裏S区の派出所である。サンズ先輩はガワシマ君にお地蔵様のありがたさを教えていた。


「そうだよ、昔はそこかしこにお地蔵様が立ってたもんだ。子供を見守るお地蔵様、事故が無いように見守るお地蔵様、悲惨な出来事が起きないように見守るお地蔵様は、ありがたいものなのだぞ、それなのに、今の世の中ときたらやれ『たたりを起こす首切り地蔵だ』だの『地蔵があるところは事故があったところだ』などと言って、逆に地蔵を恐怖の対象として見ているやつだっている。嘆かわしいことだぜ」


「本当ですねえ」


「俺たちのために修行を続けてくださるお地蔵様が、たたるわけないだろ?」


「そうなんですか?」


「そうだよ、仏様の教えというのは、たたるためのものじゃない、この世にたたりはあるかもしれないけどな、お地蔵様がたたってるわけじゃあないんだ。心霊スポットになりがちな『首切り地蔵』だってなぁ、例えば、冤罪(えんざい)で打ち首になる孝行息子の身代わりに首を切られてくれた、身代わりになったお地蔵様なんだぞ、それがちょっと通りがかりに来たやつを無差別にたたるわけないだろう」


「言われてみれば……」


「だからな、俺は見守ってくれるお地蔵様のありがたさを世の中にもう一度理解してほしいんだ、どこの交差点にも地蔵がいて、お地蔵様が見守ってくださる、お地蔵様に見られているので正しい運転をしよう、そういう風にみんなが考えたら、事故も起きないし犯罪も起きないんだよ」


と、ちょうど巡察に来ていた警察署長が、その話を立ち聞きしていた。


「えらい!サンズ君!いいアイデアだ!」


「しょ、署長……」


「交通事故がなぜなくならないか、なぜダメだと我々がずっと言い続けても、飲酒運転をやるやつがいなくならないのか、そろそろ対策に万策尽きてきたかと思っていた頃だったのだ。社会に対して道徳心をあれこれ言うのは、警察としてはやや行き過ぎた話な気もするが、犠牲者ゼロになることが何より大事だろう、サンズ、お前がリーダーとして、その対策を実行しろ!」


「ええ!?私がリーダー……」サンズは、喋るのは良いが面倒は困ると思っている。

「これで三年後に飲酒運転がゼロになったら、お前のボーナスは3倍にしてやる」

「さ……三倍……やります!やらせてください!」


◇◇◇


 サンズは、地場の警備会社と連携して、監視カメラ付きのお地蔵様を開発した。

文字通り見守り地蔵である。お堂にカメラを取り付けるのではない。

お地蔵様の半目の中にカメラを設置して、無線で署にデータを送信するのである。


風力や太陽光などの力で環境発電(エネルギーハーベト)を行い、自動的に録画し、圧縮された録画データは警察署に蓄積される。


蓄積された録画データは、有事の際は参照することができるので、データ保存のための容量さえ注意していれば、常駐管理者もいらないのだ。

定期的に各地蔵が故障していないかチェックを走らせる機能も持たせているので、壊れた時点ですぐに対策することができる。


データ通信費用は警察が負担するが、警察でなくてもそれを参照することができる。公共のデータプールを公開するのである。これによって、管理者不在でも民間人が異常に気が付くようになり、そこから通報を行うこともできるようになっている。


ガワシマ君の実家が電気屋だったので、ガワシマ君にも協力してもらったのだ。


「先輩、これで完成ですね!」

サンズはこれを「みまもり地蔵さま」として署長に報告した。

署長は、いくつもの交差点の最も見通しの良い場所にお地蔵様を設置した。


監視カメラ付き見守り地蔵様は、1体 38,000円。補助金も出るので自治体は5000円で設置できる。サンズの手には売り上げの1割が入ってくるようにしている。


「プライバシー権をかさに監視カメラを反対するやつらも、お地蔵様には手を出せまい」

サンズの野望はここからである。


◇◇◇


 サンズは、見守り地蔵様を警察の権力をかさに、売って売って売りまくった。

と、同時に、お地蔵様のありがたさを世間に浸透させる仕事も忘れなかった。


「お地蔵様は、子供を守ってくださる」

「お地蔵様が常に見守っているのを忘れないで、悪いことをしても、みんなご覧になってるのよ」


 はじめは、人形にカメラを入れるなど気味が悪い、などと言われていたが、「コンビニの入口にみまもり地蔵さまを設置することで、強盗をあきらめた」という動画がバズることで、大手コンビニチェーンも店に設置するようになった。

導入コストだけで、常に警察にデータが送られるというのは、コンビニにとっても費用対効果が良すぎるのである。


「ガハハハ!笑いがとまらない」

「先輩、大成功ですね」


コンビニに導入されると、他の企業にも導入されるようになり、日本中がお地蔵さまフィーバーに沸いたのだ。


 続いて、子供のいる家庭が自宅入口に設置したいと言うようになり、独居老人にあっては自宅の中に置きたいなどと言う要望が出た。

民家の入口に置くことはかまわないが、独居老人の家庭内まで公共のデータにはできない。これについては、システムを訪問介護会社に販売することで、一人が不安な自宅の監視も安価にできるようになった。


 署長がサンズを褒める。

「交通事故だけじゃない、飲酒運転もだいぶ減って来た。サンズ、お手柄だぞ」

「いやあ署長!やっぱりこの世に本当に悪い奴なんていないんですよ」


◇◇◇


 世間には、お地蔵様が溢れた。監視カメラ付きの「みまもり地蔵さま」に似せた普通のお地蔵様もたくさん作られた。

窃盗犯は、みまもり地蔵さまかどうかを判別するようになり、今度は、みまもり地蔵さまであれば破壊するという行為が行われるようになった。


「ひどい話ですね」

「ああ、それでも犯罪を犯さなければならないという人もいるのだろう」


今度は、窃盗犯がお地蔵様破壊を行う動画がバズった。そんな動画に対して人々は


「お地蔵さまに対してなんてひどいことをするんだ」

「お地蔵さまを破壊するなんて、義務教育を受けなかったんだ」

「人としてありえない、賠償金ではすまない」


という論調から


「お地蔵様を破壊するやつは死刑にすべき」


という過激なものに変化していった。


ある中学生が、面白半分にみまもり地蔵さまの首を切る動画をyoutubeにアップロードすると。

「こいつは地獄行き確定だ」

「地獄でもお地蔵様は助けてくれない」

「現世にいても地獄だろ」

「来世でゼロから修行させるべき」

「お地蔵様がたたらないなら俺がたたってやる」


という意見に大勢が同調していき、その中学生の情報が特定されて、SNS上にさらされた。


◇◇◇


「人を殺していないのに、ここまでされるんですかね?先輩」

「お地蔵のことを好きになってくれたんなら、みんなだっていつかわかってくれるだろ」


しかし大衆はわかってくれなかった。

お地蔵様を愛するようになったばかりに、お地蔵様を虐待することが、身を切られるようにつらく感じる人が増えすぎてしまったのである。


「地蔵の首を切った子供を殺せ!」

「地蔵の首を切った子供を殺せ!」

「地蔵の首を切った子供を殺せ!」

「地蔵の首を切った子供を殺せ!」

「地蔵の首を切った子供を殺せ!」


熱狂している人々の姿を、サンズは派出所のテレビ画面で見ていた。


「サンズ!えらいことしてくれたな!」署長が飛び込んでくる。

「まさかここまでのことになるとは……」

「この事態を収拾できるのはお前しかいないだろ、行ってこい!」

サンズは大衆の中で話をする羽目になる。

「どうして俺が……」


◇◇◇


 サンズは、中学生youtuberの学校に集まったデモ隊の前でマイクを持った。


「あーあー皆さん!」


サンズはそこから、今回のみまもり地蔵の火付け役は自分であるということをみんなに伝えた。お地蔵様はありがたいものだけど、生きている人間よりも大切ということはないはずだ。という当たり前のことを……言おうとしたのだが……。


「────ということでして、地蔵を1体売ったら1割もうけだから、俺個人の売り上げは〇〇億くらいになるんですよね」と、口をすべらせてしまう。


すべての元凶はこいつだったのか。

熱狂的にお地蔵様を愛した人たちの想いは、すべてサンズへの憎しみに変わる。

そして、演説を聞いていた署長も怒り心頭である。


「サンズのバカはどこだ!」「サンズを殺せ!」


◇◇◇


派出所の地下でサンズはガワシマ君と身をひそめていた。


「この世界の悪意をその身に受けて殺されそう。これって俺も聖人みたいじゃない?」


「ちがうとおもいます」とばっちりで隠れているガワシマ君は、あきれてものも言えない。


おしまい

本当は星新一風ヒトコワホラーにしたかったのですが要素を詰め込みすぎてこち亀になりました。

二次創作ではないと思うのですが、似てしまってすみませんでした。


今後ともよろしくお願いいたします。

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