プロローグ(2)
分割後半部分です。
「よう。遅れなかったな」
ミンカヤの前に、いつもと変わらないラフで軽いノリのアルがいた。
その姿に、肩に入っていた力も抜ける。
まったく俺の気持ちも知らないで。
アルは金髪のイケメンで、俺が持っていない、身長と筋肉を持っている。
本当に、色々と少し分けて欲しいぐらい。
「それは、何時もの意趣返しか」
「さてね。まぁ、入ろうぜ」
「まったく、おまえは」
ミンカヤに入った俺達は、個室へと案内される。
アルはビールと枝豆、お好み焼きを頼み。
俺はウイスキーとチーズ盛り、いなり寿司を頼んだ。
「ウイスキーをボトルでとか、容赦ないな」
「奢ってくれるんだろう」
「奢るけどさ。もうちょっと容赦してくれよ」
口を尖らせ拗ねるアル。
「何言ってんだ。アルだって集るときは容赦ない癖に。前回、5000円の酒集られたの忘れてないからな」
「そんあこと有ったか。んー。確かに有ったわ。じゃあ、しゃーないか」
はぁ…とため息を付き諦めた様子。
いい気味。あの時の借りをキッチリ返せた気分だ。
「んで。電話のアレはなんだったんだよ」
最も聞きたかった電話での本題を、物が届く前に切り出す。
「あぁ、『BlankStoryOnline』って知ってるよな」
「あのCMを打ちまくってるゲームだろう。CMを見た事がある」
「そそ、そのゲームの公式VRライバーが足りないんよね」
「公式VRライバーが足りないってあり得るのか。だって公式だぞ」
そんな事ってあるのか。普通に考えたらあり得ないだろう。
公式のVRライバーって言ったら、謂わば、そのゲームの看板を少し担がしてもらえるのに等しい。
知名度だってかなり上がるし、なりたい奴なんて沢山いるだろうに。
「先方様の意向でね、知名度が一定以上ある奴が欲しいんだとさ」
「それでも、集まりそうだけどな」
「まぁね。戦闘職はすぐに集まったよ。ただ、生産職が集まらなくてね」
「そんなに違うもんか」
「だって、生産職って地味だろう」
ほう。且つて生産職をやっていた俺に対する宣戦布告か。
俺の恩恵を受けておきながらの、その発言、よほど命が惜しくないようだな。
「多分考えている事とは違うぞ。考えてみろ。VRライバーは動画や配信がメイン活動だぞ」
「あー。そういう事ね」
それは、納得だわ。
生産作業って動画映えしない似たり寄ったりの作業になる。
再生数を稼ぐ必要があるVRライバーにとっては辛いのか。
「でだ。俺がお前を生産職のVRライバーに推薦した」
行き成り話が飛んだぞ。こいつ酒が来て無いのに、もう酔ったか。
「何でVRライバーで無い俺を推薦した。しかも、俺の知名度は皆無だぞ」
「何をおっしゃる。ケイ・K・キングフィールドさんよ」
アルは5年前。俺が高校生の頃にアルと一緒にやっていたゲーム。その、アバター名を言う。
なるほど。アルの言いたいことは解った。
「だが、最後にやったのは5年前だぞ。覚えている奴も少ないだろう」
「確かにその可能性はある。だから、俺が所属している事務所に入ってもらう。うちは少人数だが知名度はそこそこあるからな」
「過去の栄光が有る名前と、割と有名な事務所。合わせて一本って所か」
「正解だ。で、どうする。やるか。やらないか」
仕事が見つからない今、渡りに船だが懸念がある。
「アル。正直な所、俺が生産職の公式VRライバーになったとして、再生数稼げると思うか」
「稼げる。断言できるぞ。お前は、容姿は良いし、口も回る。そして、何より戦闘職じゃ無くても十分戦える運動神経がある」
「ほめ過ぎだ」
「事実を言っただけだぞ。中堅になら余裕で食い込めると思ってるしな」
照れるが、そこまでお墨付きをくれるならやってやろうじゃないか。
「解った。やる」
「そうか、やってくれるか」
ここで、タイミングを見計らったかのように酒とつまみが届いた。
今日は、これで祝杯だ。思う存分楽しもう。
「よし、今日は門出を祝してパーッとやろうぜ」
アルも同じことを思ってらしく笑顔でグラスを差し出す。
グラスを片手に二人、盛り上がっていた。
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