星に願いを 【短編完結】
その女の子は口が聞けなかった。
半年前に事故でお父さんが亡くなり、
お母さんは彼女が産まれて間もなく病気で死んでしまいました。
両親を失ったことのショックで、
言葉を話すことができなくなってしまったのです。
10歳の彼女には、
それはそれは大きな傷を心に残してしまったのです。
女の子の名前は『綾乃』と言いました。
古き良き日本の女性らしく、
凛として、気品のある女性に育ってほしいと願いを込めた名前です。
忠広は17歳の高校生です。
アルバイト先の花屋さん夫婦に引き取られた綾乃を見かけると、
なんとか元気を出してほしいと、
暇を見付けては遊びに誘いました。
初めは、連れまわされるだけで表情も変えず、
相変わらず口もきかなかった綾乃でしたが、
ある日、忠広がプラネタリウムに連れて行くと、
綾乃は目を輝かせて、
スクリーンに映し出される星々を見つめていました。
そこで忠広は、
冬のある夜に、綾乃を連れ出し、
街の北にある高台へ行きました。
冬の澄んだ空気のおかげで、
空にはたくさんの星たちが輝きを放っていました。
忠広はその中にある
二つの並んだ星を指差しました。
それは、ふたご座のポルックスとカストルという星でした。
「綾乃ちゃん。あれが、お父さんとお母さんの星だよ。」
「・・・。」
「お父さんもお母さんも、いつもお空から君を見守ってくれているんだ。」
「・・・。」
綾乃はけっきょく口を開くことはありませんでした。
でも、確かに二つの星を見て、
お父さんとお母さんのことを想ったに違いありません。
その時、二つの星の近くを、
すっ、と流れ星が一筋の線を描いて流れていきました。
【星の神様。どうか、この子に笑顔を・・・】
忠広は、そっと流れ星に願い事をしました。
帰り道、綾乃がそっと忠広の手を握ってきました。
忠広はその小さな手をしっかり握り返し、二人並んで家に帰りました。
花屋さんの夫婦に綾乃を引き渡し、
家に帰ろうとする忠広に、小さな声が聞こえました。
「・・・ありがとう。」
思わず忠広は立ち止まって振り返ると、
「お兄ちゃん。ありがとう!」
確かに綾乃がそう言って、
笑顔で手を振ってくれていました。
忠広は綾乃に駆け寄ると、彼女をそっと抱き寄せました。
こうして、
星に願いが通じたのか、
綾乃は言葉と笑顔を取り戻したのでした。
ようやく、二人の物語が始まったのです。
それは空に二つの星が輝く日の出来事でした。
おわり。
お読みいただきありがとうございます。
この短編を基礎に、
長編物語を書いてみようかなと思っています。
作者のやる気MAXのために、
ブックマークと高評価、
どうぞよろしくお願いします!




