葬送行列
現地確認が必要な仕事があり、一昨日から山奥の小さな村に出張していた。天気は良かったので滞りなく仕事は済んだ。
「お世話になりました」
民泊させてもらった家の老夫婦に別れの挨拶を済ませる。山の天気は変わりやすいとよく言うが、今朝も眩しいくらいの青空だ。駅のある二つ先の村までは行きと同じくバスを使う。
夜にしっかり寝たつもりではいたが、疲れがまだ残っていたらしい。バスに揺られ始めて間もなく、瞼は徐々に重くなり、うとうとしだした。
眠ってバスを降り忘れたなど、笑い話にもならない。ぱっと目を開けてはまた閉じ、ぱっと目を開けてはまた閉じ……。
ぱっと目を開けて窓の外を見たとき、黒い、ぞろぞろした人の行列らしきものが田園風景の中に浮かんで見えた。目を擦る。もう一度見ようとしたが、トンネルに入ってしまい見えなくなった。
すっかり目は覚めたようで、その後は風景を眺めてバスに揺られた。
目的の駅に到着した。整理券とお金を運賃箱に入れ、バスを降りた。
田舎の駅なので、都会の駅と比べると、とてもこじんまりしている。また、田舎であるため、駅の利用者は行きに来たときもほとんどいなかった。
改札口の先がすぐにホームになっているのだが、ホームに黒い着物に身を包んだ人が沢山いるのが見えた。
そばにいた男に声をかける。
「親父さん、ありゃ何だい?」
「あー、ありゃー葬送行列だ。うちの村は焼き場がねぇーもんだから、焼き場のある村まで電車で行くんだ」
そう聞いて連中の方をよく見ると、成る程、黒い着物は喪服だった。しかし、悲しんでいるようには見えない。既に酒が入っているようで、顔が赤らんだ者がちらほら見え、笑い声も聞こえてくる。
男に焼き場のある村はどこかと尋ねると、自分の行き先と同じ方向だと分かった。
今自分がいる村には有名な史跡があり、駅から徒歩でも行けることは出張前に調べていた。
黒い連中をもう一度見る。史跡観光をしてから、一本後の電車で帰ろうと決めた。
標高はそこそこある村なので、自分の住む町よりも幾分か涼しい。澄んだ田舎の空気を吸いながら、史跡観光はちょうどよい散歩になった。
駅に戻ると、先程の男も黒い連中もいなくなっていた。改札を通り抜けホームに入って電車を待つ。
「もし」
人がいるとは思わなかった。
真っ白な着物に白髪の長い髪。自分の母親よりも一回りは歳上だろう。
女が指差して言う。
「わたしを電車に乗せてくれませんかね」
女が指差す方向、ホームの端に、忘れられた棺があった。