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『キミがユリ・シノザキだね』


 朱莉ちゃんと一緒に帰宅している最中に突然、そう声をかけられた。

 白いフードを被った男が目の前に出てきたのだ。


「え、あ、はい」

『それじゃあ、死んでもらうよ』


 突然のことに思考回路が追い付かなかった。

 白いフードを被った男がにこやかな笑みを浮かべてそう言うと、その男が私を剣で切り捨てようとしたからである。


「は?」

「ちょ!?」


 ガキンと音が鳴る。

 突然目の前に出現した赤色が、白いフードの男とつばぜり合いをしたのだ。


『やらせるかよ、《白い闇》!』

『《赤の勇者》か……どうやらそっちが先に接触していたみたいだね』

『おうよ! 間に合ってよかったぜ! 大丈夫か、お姫様、嬢ちゃん!』


 赤い髪の剣士が私を守るように剣を振るう。


「ひええええ!」

「きゃああああああ!」

「警察だ! 警察を呼べ!」


 突然始まった剣劇に周囲にいた人たちが驚く。


「由利ちゃん!」

「うん!」


 あのウーヴェさんの警告していた危機だろう。そして、赤い髪……コスプレじゃなく、炎のように赤い髪の人物は、ウーヴェさんが私を守るために遣わした人物だろう。


『ちょっと下がってな、お姫様。俺が《白い闇》の野郎を片付けてやるからよ!』

『おお、怖い怖い』


 私の語彙力では表現できないけれども、すごい戦いが目の前で繰り広げられている。

 赤い髪の人物が剣を振るうたびに炎が撒かれる。その攻撃を白いフードの男はひょいひょいと回避して攻撃を仕掛けているのだ。


『おい、何している! 援護してくれ!』

「援護って……」

『カードを使え! 召喚術師のお姫様!』


 召喚、と言われて、私はカードケースを取り出して、カードを見る。


「もしかして……!」

「朱莉ちゃん……?」


 朱莉ちゃんは私からカードを奪い取ると、ザッと目を通す。

 そして、朱莉ちゃんは一枚のモンスター……フェニックスと名前と姿の描かれたカードを手渡してきた。


「これよ、おそらくこのカードは由利ちゃんが使うと描かれているモンスターが召喚されるのよ」

「え、ちょっと待って、理解が追いつかないんだけど……」

「良いから! たぶん、カードをかざして、カードに書かれているモンスターの名前を宣言すれば良いわ」

「……わ、わかったわ」


 私はフェニックスのカードを持って構えると、腕にカードリーダーのようなものが出現し、巻きついた。どうやらこれにカードを差し込めば良さそうだ。

 もはや訳がわからないけれども、やるしかなさそうだった。

 私はカードリーダーをスライドさせると、カードを差し込めるギミックが出現する。


「……フェニックス、召喚!」


 私はそう宣言すると、カードをリーダーに差し込み、スライドした部分をガシャっと戻した。


《Summonraize!》

Summons(召喚)──der legendäre(伝説の) Phönix(不死鳥)──heißt(その名は) Phoenix(フェニックス)


 ドイツ語でカードリーダーから音声が出る。

 とても聞き取りやすい音声で、直訳するならば『召喚します、伝説の不死鳥、フェニックスと呼ばれます』だろうか。

 音声とともに、私の周囲から円状に炎が吹き出る。

 その炎が私の頭上に集まり、鳥の形に収束する。


《我を呼びしは汝か、契約者よ。望みは何だ?》

「あの、私を襲ってきた白いフードを着た男を撃退して!」

《承った、では汝に従おう》


 ブワッと炎が吹き飛び、フェニックスがその姿を見せた。

 それは伝説の不死鳥の姿というよりは、カードに描かれた姿そのままのモンスターの姿だった。


『……既に目覚めていましたか……!』

『へっ! やるじゃねぇかお姫様! 行くぜ《白い闇》!』


 フェニックスと炎の剣士が協力して白い暗殺者と戦う。

 フェニックスの炎を剣士が利用して有利に戦っている感じだ。

 それでも有利になっただけで白い暗殺者は倒せなさそうであった。

 私の語彙力では表現するのも難しいけれど、炎の剣士はフェニックスの炎を纏ってパワーアップしながら白い暗殺者と激しい戦闘を繰り広げている。激し過ぎて既に空中戦である。

 ビルの壁が一部凹んだり破壊されているのも、その残滓である。


『せいやああああああ!』


 フェニックスは口から炎を吐き出しながら、白い暗殺者の逃げる先を誘導しているように見える。

 炎を纏う炎の剣士には有利な状況だ。

 白い暗殺者は身のこなしの軽さと奇妙な動きで全ての攻撃をいなしているのが、あの人の強さの証左でもあるだろう。


「由利ちゃん、これを使って!」


 朱莉ちゃんから新たなカードが手渡される。


「えっと、《フェニックスブレイド》?」

「たぶん召喚獣の攻撃だと思う」

「わかったわ。使ってみる」


 私はカードリーダーをスライドさせて読み取り口を開くと、カードを挿入する。


《Angriffraize!》


 カードリーダーを閉じると、再び音声が鳴る。


《Phoenix-Klinge》


「まるで、変身アイテムみたいね……」


 私が呆れながらそう言うと、フェニックスが再び炎を纏った。


《行くぞ剣士よ》

『まかせな!』


 カードの力なのか、炎の剣士の構えにフェニックスが合わせる。


《フェニックスブレイド!》


 炎の剣士の斬撃がフェニックスの炎を纏い、炎の鳥になって白い暗殺者を襲う。


『さすがにこれは不利ですね……。良いでしょう、今回はこれで引きましょう。それでは、また』


 白い暗殺者はそう言うとマントで自分の姿を覆う。そして、爆炎に紛れて姿を消したのだった。


『チッ、逃げやがったか』


 炎の剣士は舌打ちをして剣を腰に収める。


《契約者よ。契約は果たされた》


 フェニックスはそう言うと姿を消した。と同時に、自動でカードリーダーからカードが排出される。


「うわっと」


 私がカードをキャッチすると、今まで描かれていたフェニックスの絵柄が消えてしまった。


「絵柄が……」

「まるで、仮面ライダーの変身アイテムみたいね」

「朱莉ちゃんって結構詳しいよね」

「まあ、弟と一緒に観ていたりするからね」

「あー、4歳ぐらいの弟がいたっけ」


 ふと、気が付くと例のカードリーダーも腕から消えていた。


『話は終わったか?』


 肩を竦めた炎の剣士が私たちのところに走ってきた。

 その速度は戦闘時のものとは違い、普通の走る速さだった。


「えーっと、助けてもらってありがとうございます」

「ええ、あのままだったらきっと殺されていました」

『いや、礼なんていいさ。それに、俺はアイツを倒さなきゃならねぇからな』


 しかし、不思議である。

 ウーヴェさんと同様にこの剣士も日本語ではない言語を話しているにもかかわらず、ちゃんと意味が理解できるのだ。


『さて、俺たちの戦闘でここは少々騒がしいからな。少し静かなところで話そうか。ユリが狙われる理由は知りたいだろう?』


 私達は顔を見合わせてうなづいた。

 炎の剣士はそれを確認すると、私が持っているチケットと同じものを掲げた。

 すると、例の【シュマリット】の到着音が鳴り、近くのビルの隙間に例の扉が出現した。

 遠くからはパトカーと消防車のサイレンの音が聞こえて来る。


『さ、早く行こうぜ。官憲に見つかっても厄介で面倒くさいしな』


 私達は【シュマリット】に案内された。

 客室は、外観同様に中世ヨーロッパを感じさせる内装になっている。豪華客車みたいな感じだ。

 新幹線の乗車口のような間取りを抜けて、客車の扉を開けて、私達は唖然とする。


「由利ちゃん、なんかすごいわね……」

「……そうね」


 客室一室がバーテンになっており、何人かの強そうな人たちが寛いでいた。


『ここが【シュマリット】のバーだな。戦闘車両が運転室、次に会議室、バー、ショップと快適に過ごすための施設が揃っている。後部車両はそれぞれ英雄が休むための部屋になっている』

「は、はぁ……」

『マスター、あの席借りるぞ』

『ええ、構いませんよ』


 私達はバーの一角の4人ぐらいで座るスペースに座った。


『ウーヴェ……この【シュマリット】の車掌から話は聞いているか?』

「い、いえ……あんまり詳しくは聞いてないです」

『あー……やっぱりか。じゃあ、俺がどう言う人物かも知らないわけだな』

「は、はい……」


 炎の剣士は頭をかきながら、眉を寄せる。


『簡単に言うと、この列車は世界を救う英雄を乗せて、世界を救うための列車だ』

「それは、ウーヴェさんから聞きました」


 朱莉ちゃんが答える。


『で、俺はルーカス=ブランドン=アーベルライド。仲間からはルーカス、敵からは赤の勇者と呼ばれている。これでもかつて、俺の世界で魔王を倒した勇者っていう存在らしいぜ』

「え、は、はぁ……」


 信じられない、と言ったら嘘になる。それぐらい、彼……ルーカスの戦いぶりは人間のソレでは無いように見えたからだ。

 もし、あの戦いを目撃していなければ信じることはできなかったかもしれない。

 それにしても、見事な赤髪である。染めたにしてもここまで発色のいい赤には染まらないであろう。


『お姫様とお嬢さんは?』


 ルーカスに促されて、私達は自己紹介をする。


「私は篠崎由利です。普通の大学生で、経済学を専攻してます」

「私は栗栖朱莉(くるすあかり)よ。由利と同じ大学に通っているわ」

『ユリにアカリだな。よろしく』


 ルーカスはにこやかな笑みを浮かべる。


『しかし、不思議だな。ダイガクセイってのは俺の世界で言う大法学院の学生って事だろ? それが世界を救う存在……ねぇ……。それも《白い闇》から狙われるほどの……』

「あ、あの、説明はして貰えるんですよね?」

『ん、ああ、すまない。俺もわかってないことの方が多いからな。とりあえず、かいつまんで説明はする』


 ルーカスはそう言うと、説明をしてくれた。

 この時空横断蒸気列車【シュマリット】は異世界を渡り歩く列車であること。役目は英雄……資格者とウーヴェさんは言うらしいけれど、そう言う人たちを集めて、滅びゆく世界を救う事が主な活動のようだ。だから、この列車に乗っている人物は世界を1度以上は救った経験の持ち主らしい。だから、ただの学生である私が資格者に選ばれたことは不思議で仕方がないそうだ。

 異世界と言うのは文字通り異世界で、私の世界が科学文明が発達した世界だけれども、魔法文明が発達した世界、そもそも世界の成り立ちが3本の剣から始まった世界、蒸気機関が発達した世界など、様々に存在するらしい。

 で、今回ウーヴェさんからルーカスに与えられた使命は、私を守る事らしい。理由もわからないらしいが、それが全ての世界を救う鍵になるということで引き受けたそうだ。《白い闇》に私が襲われているのを観て、納得はできないが確信はしたらしい。

 で、《白い闇》と言うのはどうやらルーカスの……【シュマリット】の因縁の敵らしく、ウーヴェさん曰く【破滅の案内人】だそうだ。《白い闇》のせいで滅んだ世界も多く、資格者も何人も殺されているらしい。ヤバい人物である。


「わ、私、なんかとんでもないことに巻き込まれたような……」

「……えーっと、それじゃあ私達はどうしたら良いのよ」

『では、私からご説明いたしましょう。お客様』


 突然声が聞こえてきたかと思ったら、ウーヴェさんが立っていた。

 私達は驚く。


『びっくりさせんなよ!』

『これは失礼いたしました、ルーカス様』


 ウーヴェさんは紳士らしく綺麗なお辞儀をする。


『お客様にはもちろん世界を救っていただきたいと存じ上げます。もちろん、ルーカス様にはユリ様のサポートをしていただく予定です』

「は、はぁ……」

『アカリ様には同行はして頂いても構いませんが、資格者ではございませんので元の世界でこの【シュマリット】の記憶を消させていただき、元のように生活をすると言う選択肢もございます』

「由利を置いて帰れと?」

『資格者はユリ様のみですので、世界を救うなどと言う危険な行為を資格者以外の方に強要するつもりはございません。ですが、資格者ではない方でも世界を救われた方も存在いたしますので、アカリ様のご決断に従うことになっております』


 私は帰れないんだ……。


「……私達は学生よ。大学の授業には出させて貰えるのかしら?」

『もちろん、【シュマリット】は時空を横断する蒸気機関車です。世界を救っていただけるならば元の世界で通常生活を送ることも保証いたしますよ』


 あ、帰れるんだ。それだけで安心できる。


『ただしその場合は、【破滅の案内人】からの襲撃を気にする必要がございます。ですので護衛としてルーカス様にご同行を願うことになります』


 そう言えば、私はその【破滅の案内人】から命を狙われているんだった。うーん、これは困った。

 身の安全を考えるならば、この列車に身を寄せた方が安全ではある。だけれども、やはり元の世界が落ち着くし、私の部屋が一番落ち着くのだ。

 だけれども、逐一あんなド派手な戦闘を街中で繰り広げるというのも気が引ける。


『一番は、ユリ様が強くなられることでございます。一度【世界を救う】と言う経験をされた方が良いかと存じますが如何でしょうか?』


 ウーヴェさんはそう、私に提案をしてきたのだった。

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