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遅くなったので今日はそのまま投稿です。

「おお、ルーカス、ユリ、アカリ! やはり来ていたんだな」


 うれしそうに話す彼の隣には、女の人がいた。

 冒険者の格好をしており、相当な美女である。

 金髪碧眼で腰まで届く絹糸のような髪を、冒険の邪魔になのかポニーテールにしている。

 どことなく、アイリスさんを彷彿とさせる感じがする。


「ギャレンさん、その女の人は……?」

「ああ、彼女はここに来る道中で助けた女性だ。俺は【ルル】と呼んでいる」

「ルルです。初めまして。ギャレン様からお話は聞いています。よろしくお願いしますね」


 なんというか、囁くように話す人であった。

 囁いてるように聞こえるが、はっきりと耳に入る感じである。


「ルルは、暗闇の洞窟の奥地にとらわれていて、ドラゴンが守っている扉の奥に捉えられていたんだ」


 朱莉ちゃんが何かに気づいたような表情をした。


「ルルは記憶をなくしていて、身元もわからない感じなんだ」

「なんでルルって呼んでいるんですか?」

「この金でできたドックタグ……削れてほとんどわからないがルルって書いてあることだけがわかったから、仮でルルって呼んでいるんだ」


 見せてくれたドックタグ……何かのアクセサリーの一部には魔物の爪で削り取られているような跡がある。

 その一部分に確かに【ルル】と書かれているのがわかる。


「ねえねえ、由利ちゃん。彼女ってもしかしてお姫様じゃないの?」


 朱莉ちゃんが耳元で囁いてくる。


「お姫様?」

「うん、ドラクエでもそういうイベントってあるじゃない? あれの場合は記憶喪失になんてなってなかったけれど」


 ルーカスさんにルルを紹介するギャレンさん。

 なんというか、ギャレンさんとルルの間には甘い雰囲気が纏っている気がした。


「朱莉ちゃん、伝えない方がいいかもしれないよ」

「……そうかも」


 笑いあうギャレンさんとルルの様子はお似合いに見える。

 変な情報を伝えて関係を複雑にするのもなんだか悪い気がした。

 現状普段の凛々しい感じの……戦士としてのギャレンさんの表情はデレッデレな感じに歪んでいる。

 大丈夫かなぁなんて思いつつも、ここまで彼女を無傷で守り通してきたわけなので心配するだけ無駄だろう。

 何気にルーカスさんが遠い目をしているのが気になった。


「ギャレンさん、早いところ【太陽の石】を回収しないと」

「おっと、そうだったな」


 ギャレンさんは祠の奥に進んでいく。

 私はルルさんを見る。

 本当にお人形のようにきれいな人である。

 こう、なんていうか神々しさすら感じてしまう。

 なんでこの人はとらわれていたのだろうか? その理由が気になってしまう。


「ん? どうされました?」


 私の視線に気づいたのか、ルルさんが反応した。


「いえ、ギャレンさんとは仲がよさそうだなと思いまして」

「はい! ギャレン様に助けていただきました。とても頼もしいお方で、私はギャレン様についていきたいと思いました。これでも、回復魔法と聖属性の魔法が使えるんですよ」


 頬を赤らめつつそう答えるルルさんは、なんていうか可愛かった。

 こう、見ているだけで尊い感じがする。


「ギャレンさんとはどこまで行ったんですか?」


 若干興奮気味に朱莉ちゃんが尋ねる。

 すると、ルルさんはもじもじしながら答えてくれた。


「その……あ、あまり言いたくないです……」

「この反応! 絶対ヤってる! 昨晩はお楽しみだったよ! 由利ちゃん!」

「朱莉ちゃん興奮しすぎ! ああ、ルルさん顔が茹蛸のように真っ赤になっちゃった!」


 どうやら、本当にお楽しみだったようだ。

 そりゃまあ、こんなかわいい人と二人旅なんて私が男だったら手を出さないわけがなかった。

 反応も初々しくて可愛らしいし、高校の頃の彼氏との初めてのことを思い起こさせられてこっちまでなんだか恥ずかしくなってくる。


「……はあ、おしゃべりはそこまでにして、ギャレンが戻ってきたぞ」


 ルーカスさんに言われて祠の方を見ると、ギャレンさんがまばゆく輝く宝石を手にこっちに来ていた。


「これが【太陽の石】……」

「なんていうか、すごい力を秘めたオレンジ色に輝く宝石って感じね」


 私と朱莉ちゃんは感想を言い合う。

 魔力を感じ取れるようになった私から見ても、超強大な魔力を内包しているのがわかる。

 これと【雨雲の杖】があれば確かに『虹の橋』を架けることができるアイテムを作成できそうだ。


「これで、最後のアイテムである【勇気の印】を手に入れるだけね」

「ああ、【勇気の印】は魔の島よりさらに北にある広大な砂漠のどこかにあるらしい」

「どこか、ねぇ……」


 朱莉ちゃんがぼそりと「見つけるには王妃の愛が必要だったっけ」なんてつぶやいいている。


「その砂漠で探すにしても、ヒントがほしいですね」


 私がそう言うと、ギャレンさんはうなづいた。


「ああ、その砂漠の近くには魔物の侵攻に耐えている城塞都市があるそうだ。名前をアレクサンドリアと言うそうだ」


 私の中で城型ロボット【アレキサンダー】が思い浮かぶのは、昨日の戦いが尾を引いているからであった。

 レア度が高い召喚獣は基本的に大きいからなぁ。

 いや、召喚獣自体が大きかったね。おかげで戦闘後は大概地形が荒れる。

 祠の前も自然が破壊されて大変なことになっている。


「それじゃあ、そのアレクサンドリアを目指すわけね」

「ああ、ルーカスたちもそこに行くんだろう?」

「そうなるな。どちらにしても、《白い双子》は俺が戦う必要があるし、奴も【勇気の印】を狙っているはずだ」


 私たちは【シュマリッド】で先行して向かうことになりそうである。


「ここからだと徒歩で4か月はかかりそうだな」


 私たちにしてみれば一瞬だったりするんだけれどね。

 そう考えると【シュマリッド】は移動チートともいえるだろう。

 時間まで移動できてしまうのだから、すごい蒸気機関車である。

 まあ、私たちの敵である【破滅の案内人】も同じものを使っているので、同じ土俵で戦っているんだけれどね。


「ギャレンさん、ルルさんと仲良くするのはいいけれど、妊娠はさせないでね! 次会った時ルルさんが妊婦さんだったら殴るわよ?」

「は、はははははは、な、何のことかなぁ?」


 白々しいギャレンさん。

 私たちは睨みつける。


「ま、仲がいいのは構わないが、必ず守れよ? それができないならば、王都にでも預けたらいいさ。守るべき人を守れなかった時が一番つらいからな」


 ルーカスさんはかなり真剣にそう忠告する。

 さすがにルーカスさんの忠告にはギャレンさんはうなづいた。


「あ、ああ。わかっているさ」


 こうして、【太陽の石】を入手したギャレンさんたち。

 私たちは【シュマリッド】で北の砂漠のある都市アレクサンドリアを目指すことになった。


 ◇


『4か月ですか。でしたら3週間ほど移動に時間がかかりますね』

「うわっ! びっくりした!」


 ギャレンさんと別れた直後に後ろから声が聞こえた。

 びっくりして振り返ると、ウーヴェさんが立っていた。


「まあ、そうだよな。それだけ時間がかかるか」


 ルーカスさんが納得したようにそう言うと、ウーヴェさんは首を横に振る。


『いえ、単に時間を移動するだけならば、10分ほどでたどり着きます。ただ、他の世界を救う兼ね合いもありますのでお時間をいただければと思いまして』

「どういうことだ?」


 ルーカスさんがむつかしい顔をする。


『【シュマリッド】クルーが観測した世界の時間が不可逆になるというのは、ルーカス様にはお伝えいたしていますね?』

「ああ」


 どういうことだろうか? 

 私が疑問に思っていると、ウーヴェさんが丁寧に解説してくれる。


『ユリ様、アカリ様、【タイムパラドクス】はご存知ですね?』

「あ、はい。それは知っています」

『【シュマリッド】には、それを防ぐための機構が搭載されております。我々が干渉した事実を世界に記録する機構でございます』


 なんとなく言いたいことは理解できる。


『この機構により、我々が介入した期間以前の時間遡行は不可能になります。これは【破滅の案内人】に代表される【侵略者】が遡行を行い過去に干渉することを防ぐ機能を果たしております』

「なるほど、過去の私たちに対して私たちを倒せるだけの戦力なんかをもって倒してしまえば、今の私たちは消えちゃうもんね」

『はい、おっしゃる通りでございます』


 朱莉ちゃんも納得したようだった。


『また、世界に流れる時間と言うのも各世界によって異なっております。この世界では一日が……ユリ様方にわかりやすい単位でいうならば23.18時間ですが、他の世界では一日の時間が18時間のところもございます』


 世界によって理が異なるということは、そういうことなのだろう。


『そのため、派遣したクルーを回収する際もタイミングを合わせる必要があります』

「その帳尻が合うのが3週間と言うことか」

『はい』


 それは、ちょっと長い休みになりそうであった。

 まあ、4か月待つよりは良いだろうけれどもね。


「それはわかりました。それじゃあ、私たちは3週間【シュマリッド】で待機ってことですか?」

『いいえ』


 ウーヴェさんは首を横に振った。


『【シュマリッド】ではなく、元の世界で待機をしていただきます。ユリ様の世界の時間でいえば、1週間ほどの時間が帳尻が合いますので、その間休暇とさせていただきます。もちろん、これまでの活躍による報酬を先にお支払いいたしますよ』

「は、はぁ……」

「え、元の世界に戻れるの?!」

『はい。1週間経ちましたら、ユリ様とアカリ様をお迎えに上がります』


 なんと言うか、急に休みをもらった感じがしてびっくりしていた。


「やったね! 由利ちゃん!」

「う、うん……」


 と言っても、1週間なんて何をすればいいんだろう? 

 夏休みになったばかりだったし、なんだかんだでこっちの方が忙しかったため、特にすることが思いつかない私であった。


 ◇


 私たちは元の世界に戻ってきた。

 あの日の襲撃から1日経った時間のそれぞれの家の前に下された。

 私は部屋の鍵を開けて部屋に入ると、変わりない私の部屋が待っていた。


「……ただいま」


 何というか、非常に濃い1ヶ月間だった。

 もちろん、体感時間だけれども。

 何だか疲れが一気に押し寄せてきた気がして、私はベッドによくになって倒れる。

 と、携帯がポコポコ音が鳴る。


「ん?」


 見ると、LINEの通知と留守番電話の通知とメールの通知が大量に届いていた。


「わわっ! すごい通知の量!」


 私がスマホを操作すると、120件近くの通知が溜まっていた。


「あー、そうよね、そりゃ心配するわよね」


 友達からのメッセージを見て納得する。

 私と朱莉ちゃんが謎の火災に巻き込まれて行方不明になっていると騒がれているのだ。


「あー、お父さんからもきてる」


 私が1ヶ月間異世界を救っている間、みんなが心配してくれたんだなと思うと何だか嬉しくて、安心した。

 私は早速、お父さんに電話をかける。

 ワンコールで出てくれた。


「あ、お父さん?」


 怒鳴りつける勢いで心配してくれるお父さんに、何だか嬉しくて涙が出てくる。


「うん、友達も無事だったよ! うん、うんうん」


 泣き声のお父さんに、ついもらい泣きしてしまう。


「ごめんなさい、心配かけて」


 私の帰宅1日目はそんな感じで心配する両親や友達への対応に追われたのであった。

 それは朱莉ちゃんも同様だったらしい。

 実家暮らしだったから、余計に心配かけたんだろうなと思った。

少し短めです。

次回は砂漠の話になると思います。

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