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我が覇道  作者: もふ
7/8

7 大望を抱く

●趙雲SIDE


「食い扶持がない」


主からの熱烈な治療を受け、恥ずかしくも野太い悲鳴を上げてしまった後、そう言えば腹が減ったという主の言葉に頷き、今は3人で卓を囲んでラーメンを食べている。

勿論、私はメンマ増し増しからの追加にした。

どんぶりにはメンマしか見えない、だが、それが良い。

2人は理解に苦しむような表情を浮かべ、首を左右に傾げていた。

ちなみに、私達はそれぞれ真名を交換している。

主の雄という名は恐らく、真名だと思われる。

中々謎が多く、不思議な程に人を惹き付ける主だ。

そこが良い。

そして、食事の最中に主がポツリと呟かれた。

確かに、私も愛紗も荷物が少なく、持ち合わせも同じ。

どうにも前途多難な出だしだが、それもまた面白く思う私は浮かれているのだろう。

元皇帝の遺児が費えに困っている現状は、不謹慎にも笑いが込み上げてくる。


「ご主人様、特にアテもないのですか?」


「あれば俺の顔はにこやかに違いない。元々は1人で行動していたんだ、まさか2人も仲間にするとは思ってみなかった。まあ、仲間にする価値があったけどな」


遠慮がちに愛紗が尋ねるが、主は軽くぼやいた後に嬉しい事を言ってくれた。

私?私はメンマを堪能しているので耳だけは動かしている。

というか、愛紗は顔を真っ赤にして俯きながらちゅるちゅるラーメンを食べている。

初々しいが、私も同じだから心の中だけに留めておく。

案外、私も頬を染めているような気がするが、ラーメンが熱いから熱気に当てられたのだろう。


「こういう時にこそ、この得物を使って商人から借りようと思う」


そう言って主は立て掛けていた二振りの薙刀を指差す。


「売る訳ではないですよね?」


「これは大事な商売道具で、大事な形見だ。これを見せて俺の将来性を売ろうと思ってな。だからそこそこ信用出来る商人が居れば良いのだが・・・」


成程・・・主の将来性は確かに期待が持てる。

運が良ければ次期皇帝となり、皇族お抱えの商人に成り上がる事も夢ではない。

それにどれだけの値を付けるかが肝要。

・・・ふむふむ、ならばあの商人なら主のお眼鏡に掛かるかもしれん。

まずは至高のメンマを堪能し、それから話をしてみよう。



●雄SIDE

星がメンマ丼を食べ終え、耳寄りな情報があると話し始めた。

今までひたすら食べていたから会話は俺と愛紗だけだったが、妙に存在感がある。

多分、商人の事だろうな。

もしかすると斥候や諜報活動に向いているのかもしれない。


「主の憂う御心をそれがしが救って差し上げましょうぞ。それがしと同郷の者に張世平という商人がおりましてな。常山の豪商で誠実な商人として有名でして、公孫瓚殿の所へも何度か城に上がり、取引をしていたおり申した。それがしも至高の酒やメンマを融通してもらった事があり、面通しも済んでおりましてな。中々強かで上昇志向の強い商人ですが、利と人を見る目利きは優れていると判断しています。幸いな事に先日もお会いしておりまして、今も城下の宿に滞在されているかと」


ふんすっと鼻息を荒くをしながら、私は役に立つぞ?というような決め顔を見せている。

だが、星が言うのなら信じてみるのも悪くない。

彼女自身も目利きに優れていると思うしな。


「・・・商人ですか」


「おやおや、主にゾッコンの愛紗は反対か?」


「なっ!?ぞっぞぞゾッコンではないわっ!」


「まあまあ、落ち着いてメンマでも食べるか?あげないが」


「星!」


「顔を真っ赤にしてチラチラと主のお顔を見ているではないか?」


「ぐぬぬ・・・!」


案の定、星から手玉に取られている。

戦場でもちょっと、いや、かなり心配だ。

それより、善は急げとも思い立ったが吉日ともいう。


「場所は分かるか、星?」


「市井の情報収集はお手の物ですぞ、主。勿論、心得ています」


「では、案内をお願いしたい、頼む」


そう言って立ち上がり、頭を下げてお願いする。


「あ、主?頭を上げてくだされ」


動揺したような声色で言われたので、スッと頭を上げる。

・・・何故か、愛紗が勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「ふふっ、相変わらずですね、ご主人様。私もその誠実さは美徳だと思うようになりましたよ」


「愛紗は知っていたのか?」


「当然だ、星。お主より交わした言葉の数、接した時間は長い。甘く見ないでもらおう」


「むむむ・・・!」


ほぅ、愛紗が星を言いくるめた。

ただ、交わした言葉の数々が喧嘩腰で罵倒だった事は言わぬが花、か。


「俺達は仲間であり、対等だ。普段は気さくな関係を築き、いざ戦場になると気持ちを切り替えれば良い。息抜きも必要だぞ、星」


「・・・成程、分かり申した。では、もう少しだけ積極的に主を我が魅力で篭絡させてみせましょうぞ」


「せっ星!」


逆転負けか。

というより、俺の責任だろうな。

どちらも頬を染めて可愛らしいから眼福と思おう。



●張世平SIDE

手前は張世平と申すもので、中山の出身である商人です。

扱う商品は糧秣・武器・防具・馬などを豊富に取り揃え、酒に関しましては商売仲間の蘇双に任せております。

我ならが商人としてどうかと思いますが、天の御使いの噂が頭から離れず、手前は利を度外視して足を運びました。

伊達や酔狂で商人をしている訳ではありませんが、それでも信じてみたくなりました。

それだけ手前も大陸の不穏な情勢を心配しておりますので。

そして、その時が訪れました。

ですが、名を知らないという事であまり良い対応はされませんでした・・・どうにも名の知名度で優劣を決めているように思えます。

別件としまして公孫瓚様との商談も御座いましたので、そちらは可もなく不可もなくという手応えでした。

幽州は作物が不足がちで糧秣が飛ぶように売れますが、此処まで来るのは命懸けです。

常山には黒山賊という数百万の犯罪者などを束ねた大規模な賊が根城としています。

その眼を掻い潜るのが至難の業でして・・・

ただ、手前は商人ですので利があれば向かわせていただきます。

そこは商いに従事する矜持がありますので。



そんな時、時々ご贔屓にしてくださる趙雲様が手前や供回りが宿泊している宿に、態々足を運ばれました。

どうやらお連れの方がいらっしゃるようで、片方のお方は遠巻きに見た事がありますが、もう片方の男性のお方は初めてお会いする方です。

その男性のお方が一歩踏み出され、


「お初にお目に掛かります。私の名は雄と申しまして、しがない傭兵をしている者です。本日はこちらの趙雲の紹介で足を運びました」


朗らかな笑顔を浮かべながら挨拶をされた雄様は、目付きは鋭いですが、どこか惹き付けられるような感覚があります。

警戒心さえ霧散してしまうような物腰の柔らかさと、親しみやさ。

その中でも媚びへつらうような感じは一切させないような雰囲気。

それでも瞳の奥には強い意志・・・

外見と年齢に騙されてはいけない・・・商人としての勘が強い警笛を鳴らしています・・・


「ご丁寧にありがとうございます。手前はしがない商人をさせていただいております、張世平で御座います。差し支えなければ早速で申し訳ないのですが、要件をお伺いしても?」


「要件ですが・・・もし宜しければ私のお抱え商人になりませんか?きっとご満足してもらえると思いますよ」


全く想像していなかった要件をお願いされてしまいました・・・



●雄SIDE

俺は現在、張世平が滞在している宿に赴き、愛紗と星を伴って対面している。

あれからあっという間に目的の宿まで星に案内され、流れるように今の状況になった。

時間を掛けると食い扶持がなくなる恐れがあったから、本当に助かっている。

人当りが良さそうな温和な顔付きだが、瞳は鋭く光っており、絶えず値踏みされているような感じがする。

そういう強かなところは嫌いじゃないし、お互いに利用し合う関係は傭兵として心地良い。

張世平は一瞬、驚いたような顔を見せるが直ぐに商人としての顔に戻している。

ちなみに後ろの2人も息を呑むような気配を感じた。


「・・・お抱えでございますか・・・」


絞り出すように言葉を零す。

急過ぎて驚愕しているのだろうな。

だが、考えさせる時間は与えない。


「はい、ですがその前に、こちらの得物に刻まれている文字を見てください。ただ、決して声に出さないでください」


畳み掛けるように言葉を放つ。

その内容に更に驚き、最早商人としての強かさを失っている。

恐る恐るといった感じで両手で得物を受け取り、



「・・・なっ!?ばっ馬鹿な・・・!!・・・しっ、失礼しました。手前でも驚きを隠せませんし、何とも信じ難い話ですが・・・これは鋳造された際に刻印されております。鍛冶職人が刻まれたのでしょう。それに、宝剣とお呼びしても差し支えない最上級の素材が使われています。手前はかれこれ20年以上商いに従事しておりますが、このような品は初めてお目に掛かりました・・・」


目を見開いて身体を小刻みに震わせながら俺の知らない情報を教えてくれた。

度肝を抜いたのは間違いなさそうだ。

ちと、やり過ぎたような気もするが。


「そこで、私は貴方にお抱え商人としての栄誉を与え、共に栄華を極めてもらえないかと思いまして。私の将来性に投資をしてもらい、貴方は孰れ、膨大な利益を確保する事になります。上手くいけば皇帝御用達の商人も夢ではないでしょう。悪い話ではないと考えていますが」


「・・・成程。仮にお抱え商人となった場合、手前めが支援するものは何でしょうか?」


額の汗を手ぬぐいで拭き取りながら得物を返し、期待するような眼差しで喰い付いてきた。


「糧秣・武器・防具・馬、更に少しの兵を」


「後は、酒ですな」


ここぞとばかりに星が身を乗り出してきた。

それを無言の圧力で愛紗が下がらせている。

それより、俺にも目的が出来た。

今まで惰性で生きる為に必死だったが、仲間を得て生きる為だけでは駄目だと悟った。

ならば俺の流儀的に傭兵団を旗揚げするのが良い。

誰にも仕えず、己の武だけで成り上がっていく。

流浪の傭兵団。

中々どうして面白い。


「・・・微力ながら張世平、雄様のお抱え商人として支援させていただきます」


暫く黙考した後、俺が欲する言葉を告げてくれた。


「こちらこそ、宜しくお願いします」


今まで下げてきた以上に深く頭を下げ、その言葉に万感の想いを乗せる。

人は1人では生きていけない事を改めて知る事が出来た。

大切な仲間を護りたいと更に思うようになった。

元皇帝の母さんかどうか分からないが、蒼天から見守る両親に恥じない男になりたいと思った。

ならば、必死にこの混沌とした時代を生き続けよう。

俺は、弱者が飢える事のなく平凡で当たり前の幸福を得られる時代にする、という理想を掲げよう。

今この時より台頭し、新たな産声を上げよう。

そして、洛陽で待つ2人の家族を迎えに行こう。

これぞ、我が生きる道、我が覇道なり。

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