第1話 初っぱなから大波乱の冒険者試験
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この世界の人間には、子供の頃にスキルと呼ばれる能力が発現する。それは人間が魔物と戦う唯一の手段であり、そのスキルによって職業が決まるようなものなので、スキルの良さは人生を大きく左右する。そんなスキルだが、俺の発現したスキルは【食欲旺盛】、わかっている能力はいつでも腹が減るのと、食べたものの消化がとんでもなく早いことと何でも食べること。はっきり言って外れだよ。しかも身長は低くて156㎝だ。全く、それらのせいでいじめられてたりしてたんだぜ?今日はそんな俺、マノ・ラマトの冒険者選抜試験の日だ。
「おいおい、なんで外れ君がこんなとこにいるのかなぁ?」
ああ、またこれか。
「いやいや、僕にも可能性があるかなぁって思って」
「あるわけないじゃん、バカじゃねぇの?しかもなんで飯食ってんだよ」
「お腹空いたから?」
「お家に帰ってお母さんの手料理でも食っとけ」
「帰れ帰れ」
「あはは」
やなんだよこれ。さっさと始まらないかなぁ。
「今から冒険者選抜試験を開始する!参加者は第一闘技場に集まるように!」
おっ、やっと始まるな。俺は腰をかけていたところから立ちあがる。
「おい、さっさとお家に帰りなよ」
「あはは、参加するだけだから勘弁してくれよ。試験で雑魚の俺に当たったら上がりやすくなるだろ?」
「それもそうだな。楽しみしてるよ」
アーハッハッハと嘲笑しながらあいつらは闘技場に向かう。
「あいつらのこと気にしない方がいいよ」
そう声をかけてくれたのは幼馴染のサナ・アフロイド。美少女で男子からモテモテだった。今日は俺の付き添いで来てくれたわけではなく(そうだったらよかったんたけど)、冒険者のサポート役兼記録係の賢者の試験を受けに来ている。運動能力も頭も良くて、スキルも賢者に最適らしい。俺と違って完璧なんだよな。
「サナ、ありがとな。お前も頑張れよ」
「うん。さっさと行きなよ、それで実力を見せつけてやんなさいよ。マノ」
「はいはい頑張ってきます」
そう言って俺は試験会場の第一闘技場に向かう。
「こっちだよな」
扉を開け、中に入る。
「番号452、マノ・ラマト!どこにいる!」
「ただ今来ました」
「全員揃ったな!それでは第431回冒険者選定試験を開始する!内容は実戦!452番マノ・ラマト、38番ヤナハ・クルス前に出てこい!」
ヤナハ・クルスて、俺に帰れ帰れって言ってたやつじゃないか。あいつ中級貴族だから中々番号早いんだよな。良いよな、低級貴族の俺とは大違いだ。
「ルールを説明する!それぞれ自身の持ってきた武器を使って敵を戦闘不能にさせろ。殺しても構わん。以上だ!」
俺は70㎝ほどの刀を、ヤナハは2mぐらいの大剣を持つ。俺の使う刀というものはこの国の勇者が使う剣と比べ、細い剣だ。ちなみに自作だ。実戦で使うようには作ってないので刃は無い。ただの長い鉄の塊ともとれる。
「!?452番?!そんな武器で大丈夫か!?」
武器の確認をした試験官がそう聞いてくる。
「いやぁ。僕に人を殺すなんて怖くて無理なんで殺傷能力の無い武器がお似合いだと思いましてね」
「そうか…死んでも我々は知らないぞ?あと今おにぎりを食べるのはやめようか」
「…わかりました」
俺はおにぎりをパクっと一口で食べる
「ガハハ、あいつ刃の無い剣で戦おうとしてるぜ」
「…お前、俺をなめてるのか?」
「いやいや。ゴクン。そんなわけ無いじゃないですか。僕はこんな武器しか使えないんですよ」
「そうかよ、それじゃあ本気でやってやる」
ヘラヘラした態度にイラついたのか目つきが変わって、殺気があふれでている。
「両者構えよ!」
俺は刀を片手に持ち、ヤナハは両手で引きずるようにして構える。
「それでは、始め!」
――――――――――――――――――
俺はヘラヘラしたマノにイラついたので、さっさと殺そうと思い始めの合図と共にスキル、【瞬天速足】で速度を限界にまで上げ、大剣を振りかざそうとした。その瞬間、マノが不敵に笑った。それにゾクッとした俺は一瞬で距離をとる。
しかし、何故かマノは後ろ歩きでスキルを発動して限界まで速度を上げた俺に追い付いてきた。そのマノはまだ不敵に笑っていて、鋭くて細く、刃のある剣を首に向けて軽々と振った。俺の持つ大剣は全然早い動きができない。死ぬんだを感じた。刹那の出来事だったので走馬灯も見る間もなかった。俺の、ヤナハ・クルスの人生はこんなところで終わるのだと思い、目を閉じる。
「はい、おしまい」
――――――――――――――――――
コンッと刃の無い刀をヤナハの頭にぶつける。そして刀を鞘にしまう。
「試験官、これ刃のある剣だったら相手死んでるんで僕の勝ちで良いですか?」
「…ん!?」
「いや、刃があったら僕の勝ちじゃないですか。だから勝ちになりません?」
「今何が起きた!?」
「総督官!?何があったか見えましたか!?」
「…なかった」
「なんですか?なんと言いましたか?」
「見えなかったと言ったんだ!!」
「嘘だろ!?Cクラスと同等のハニナ・マドリッド総督官が見えなかっただと!?」
司令官達がざわざわし始める。で、勝敗はどうなったんだ?騒ぐばかりで一向に勝敗が決まらない。相手のヤナハも黙っている。そんなとき、
「インチキだ!!そんな低級貴族がヤナハに勝てる訳がない!!!」
と外野から聞こえた。そっちを見ると俺を罵っていた上級貴族、イイノマ・ノワラが言っていた。俺が「ならもう一度しますか?」のなを言ったとき、ヤナハが叫んだ。
「黙れ!!!」
その一言に全員が黙りこむ。ノワラただ一人を除いて。
「なんだ?中級貴族のお前が上級貴族の俺に黙れだと?」
「これだからバカは嫌いだ。俺は負けたんだよ。散々罵倒していたやつにな」
そう言うと立ちあがり、俺の方を向き、膝をつく。
「マノ様、今まで無礼な行為をお許しください」
ん?おかしくないか?なんで低級貴族の俺に中級貴族が頭下げてんだ?
「おい!!何してる!!!」
「うるさい。やっと見つけたんだよ。俺が真に仕えるべき主をな」
「はぁ?お前ら中級貴族が仕えるべきなのは上級貴族だ!」
「そんな頭の悪い主より俺は強い主様を選ぶね」
「てめぇ!!」
そう叫んだ上級貴族様は少し考え込んだ。そしてある条件を持ち出した。
「そうだ。それじゃあその低級貴族と俺が手合わせして俺が勝ったら俺に仕えるんだな?」
「ああ、もちろんだとも。頭の悪いお前じゃいくら策を練っても勝てないからな」
「んだと?!」
「おい君達!なんで手合わせする前提で話を進めているんだ!?」
話を聞いていた試験官が止めに入る。しかし、怒り心頭の上級貴族様は止まるわけがなく、
「ああ?俺に指図するのか?お前クビにするぞ」
「し、しかし相手の任意なしにするというのは」
「おい、もちろんやるよな」
うーん、でもこれで終わるならやるか。
「良いですよ。前から手合わせ願いたいと思っていましたので」
「どうだ?これなら文句はないだろう?」
試験官は総督官の方を見る。総督官は手で大きな円を作った。許可がでたらしいな。
「それでは、5番イイノマ・ノワラと452番マノ・ラマトの決闘を開始する。ルールは先ほどと同じ。準備はよろしいか?」
俺は鞘から刃の無い刀を出す。そのとき、ノワラは文句を言った。
「おい!そのやる気のない剣を変えろ!」
「はい?」
「やるからには死を覚悟するような決闘でなくてはな。おい、そこのお前」
そう言って総督官を指さす。
「それと同じ剣を持ってこい」
総督官に命令をする。怖いもの知らずなのか?
「すみません。あの剣は少々特殊なので同じ物は無いんですよね」
「はあ?今すぐ準備しろ!」
「ああ、大丈夫ですよ。総督官殿、武器庫に案内してもらっていいですか?」
「構わんよ、ついてきたまえ」
そう言って歩き出す。俺はノワラに一言「少し待っていていださい」と一礼し、総督官についていった。
少し歩き、武器庫に着く。そこには剣だけでなく色々な種類の武器がたくさんあった。
「これはどうだ?他と比べ軽くて良いぞ」
「うーん。やっぱりあれか」
「どうした?どれが良い?」
「ここまで連れてきていただき、ありがとうございます。ですが私の目当ての物がここでは見つかりませんでした」
「そうか。それではどうするつもりだ?」
「取り敢えず戻りましょう」
来た道を戻り、第一闘技場に戻る。俺が剣を持っていないのを見たノワラは激昂する。
「何故何も持ってきていないんだ!!」
「ヤナハ君、剣貸してくれない?」
「?私の剣ですか?」
「そう。それを貸してくれない?」
「はい。どうぞご自由にお使いください」
ヤナハは俺に剣を渡す。俺はそれを両手で受けとる。
「重っ」
「おい、その剣でいいんだな?後で言い訳とかするなよ?」
「後も何も負けたら死ぬんでしょ?言い訳なんてできるわけないじゃですか」
「ああそうかよ。じゃあ始めるぞ」
俺はヤナハの大剣を両手で引きずるようにして構え、ノワラは1m程の普通の剣を両手で持って構えている。
「それでは、始め!」
――――――――――――――――――
始めの合図と共にマノ様は一瞬で間合いを詰める。速度は俺の時と同じほどだ。しかし、それに反応したノワラは剣を振りかざす。するとマノ様は回転しながら後ろに退く。おかしい。ノワラではあの速度には反応できないはず。そう思っているとノワラが
「どうした?おいおいまさかビビったんじゃないだろうな」
と煽りを入れてくる。俺はイカサマをしているのではと考えた。しかし、マノ様のやっていることに驚愕してその考えは吹き飛んだ。
「もぐもぐもぐもぐ」
おにぎりを食べていた。こんな緊迫した勝負の最中に。これにはノワラも試験官も総督官も驚きを隠せなかったようで
「よ、452番?何してるんだ?」
「ゴクン。いやぁ、おにぎりが懐から落ちたんで地面につく前に拾ったらお腹空いてきちゃって食べちゃいました」
そういえばノワラが剣を振りかざす直前なんか落ちてたな。もしかして剣にびっくりして退いたんじゃなくておにぎりをとるためにあんな大袈裟に退いたのか?
「てめえ遊んでんじゃねぇ!!!」
「遊んでなんかいませんよぉ。ノワラ様は俺のスキル知ってるでしょう?だから腹がへったら食べないと」
「ふん!仕方ないな。じゃあ本気で行くぜ」
カチャッと剣を構える。俺の知る限り、ノワラには剣技なんて使えないんだけどな。もしかしてあのめんどくさがりのノワラが鍛練したのか?そんなことを考えていると「ぐぅぅ~~」と誰かの腹がなった。ここまで来ると予想ができる。マノ様だ。
「あーまだ腹へったなぁ。一戦で決めるって聞いてたから腹空いて仕方ないなぁ」
構えながら考え込んでいる。すると何か気付いたようで「あっ」と声をもらす。
「どうした?やる気になったか?」
「はい!とってもやる気が出ました!」
そう言うマノ様の目はやる気に満ち溢れている。
「それではいきます!」
ノワラのもとに駆けていくマノ様。ノワラはふっと笑い、迎撃する。構えていた剣がマノ様に伸びる。少しその動きが不自然だと思ったが、次の瞬間にはあり得ないことが起きた。
「バリボリボリバリ」
マノ様がノワラの持った剣の先を6㎝ほど食べたのだ。これを見た参加者は全員(俺もノワラも試験官も総督官も)腰を抜かした。ノワラは齧られた剣を手放し、バタンと後ろに倒れる。
「な、なななな何してんだよお前!」
「ボリボリ。何って、剣食ってるだけですけど」
「は、はぁ?」
「あっ、これから魔力の味がする!試験官さーん。ってあれ?なんでみんな後ろに倒れてるの?」
「あ、ああ、なんだ?」
立ち上がった総督官が話を聞こうとマノ様に近づく。
「あー、これから魔力の味がするんですけど」
「うん、それは何を暗示するんだね?」
「この剣に魔法がかけられている可能性があるんです。簡単に言えばイカサマですかね」
「何?!それは本当か?!」
「で、デタラメだ!」
「この勝負、一時中断とする!鑑定師、すぐに調べろ!」
「はっ!」
観客席から飛んで来る鑑定師。そして暴れるノワラを抑える試験官。「あー、ちょっと切っちゃったかな」と口の中を触るマノ様。こ、これからどうなるのだろうか。