表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界で一番あなたがきらい  作者: 湊波
第一章 銀の騎士
4/57

始まりのあの日、揺れる蒼




 どうしよう、と、ただそれだけしか考えられなかった。




 あちこちが焼けていた。子供たちが駆け回っていた広場、仕事帰りの男たちが疲れを癒すために立ち寄った出店、母親たちが談笑しながら家事をこなしていた東屋。それが全部、炎に呑まれ、真っ黒になっていく。

 さっきまで、そこかしこで上がっていた悲鳴も、どんどん聞こえなくなっていた。それが怖い。声を上げていた彼らはどうなったのか。震える足であちこち駆け回っても人影一つ見当たらない。それでますます、体が震える。無慈悲に燃え盛る炎は近い。なのに、体はどんどん冷え切っていく。


 焼け焦げた空気。おかしい。この国の風は澄んで冷たくて、皆を癒すもののはずなのに。どうしてこんなに熱をはらんで、何もかもを奪っていくのか。まろぶように運んでいた足がもつれて転んだ。煤だらけの地面に崩れ落ちる。荒く呼吸を繰り返す。


 その最中で呟いた。おねがい、と。だれか、と。

 だれか、願って。助けてと。救ってほしいと。そうすれば、助けてあげられる。生かしてあげられる。こんな炎なんて祓って、元の、美しい国に戻してあげる。だから。

 誰か。


「……た……す、けて……」


 かすかに声が聞こえてハッとした。

 どこなの、と声を張り上げようとして、むせた。喉はとうの昔に焼け焦げて、音を紡いでくれない。どうして、こんな時に役に立たないのか。早く助けたい。助けなきゃ。見つけて、手を差し伸べて。それから、だから。


 最後の力を振り絞って立ち上がる。辺りを見回す。声の主を探す。炎しか見えない。赤しか見えない。炎の赤。流れる血の赤。破壊の紅。違う。諦めるな。たった一人でもいい。声の主を探すんだ。

 探して、助けて。この国を守って。

 そう思って、強く思って、唇をかみしめた時だった。


 眼前の炎が大きく逆巻いて晴れた。その先。人影が一つ。自分と同じくらいの少年が、ぼろ布を握って立ち尽くしている。それに気づいて、走り寄ろうとして、けれど気づいてしまった。





 ぼろ布だと思ったのは剣を胸に突き立てられた子供で。

 剣を突き立てていたのは、まさにその少年だということに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=174212479&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ