だあれだ?
第四十七回開催は7月28日(土)第四十七回開催は
お題「夏といえば…」/冷たい
7月25日はかき氷の日、7月26日は幽霊の日、7月27日はスイカの日です。
「夏と言えば……」
急に消された照明に、驚いて身を竦ませる。それからひんやりと、生きてはいないような十本の指が、ぼくの首に絡みつく。
「ひゅ~どろどろ……」
「うひゃあ!」
ぼくは情けない声を上げて振り返る。するとリビングの入口のスイッチが押され、電気がぱっと点くと、けたけたと姉が笑う。
「びっくりしたあ?」
「びっくりもなにも、ぼくがお化け嫌いなの知ってるくせにひどいよ」
ぼくが気持ちの悪い感触の残る首許を触っていると、冷凍庫から二つに分かれるアイスを持ってきて「食べる?」と暢気に言うものだから、ぼくは食べる、と言ってアイスをひったくった。
「あはは、可愛くないねえ、弟くんは。電気消したくらいでそんなにびびりますかな」
しゃりしゃりと姉がシャーベット状のアイスを噛む音と、テレビが出すゲームの音が響く。
「ぼくだって、好きでお化けが怖い訳じゃないよ」
ぼくはアイスのつまみを引っ張って開ける。行儀悪くトップに残った方も吸い付くと、アイス本体にしゃぶりついた。
ぼくがお化けの類いを極端に怖がるようになったのには訳がある。
あれは冬の初め、学習塾から帰る途中で同級生の女の子が駅とは逆に向かって歩いていた。こんな夜中に女の子が出歩いたら危ないよ、と多少のお節介もあったと思う。そしてなにより、彼女は可愛かったのだ。男としては全力で守らねばと思った。
「優しいんだね」
彼女は何故か元気が無かったが、か細い声でそう言った。
「当然、ぼくが守るよ、危ない奴が居ないかってね」
彼女の家に送り届けるとき、ぼくは彼女が何処か悲しそうな顔をしているのに気付けば良かったんだ。
次の日、学校全体は彼女の話で持ちきりだった。ぼくが教室へ入ると、その話が嫌でも耳に入った。
――一家惨殺。
四人家族だった彼女の家の、父と母と兄は刺殺で、彼女だけが何故か絞殺で見つかったと言うのだ。
学校は箝口令が敷かれ、学校は一週間休みになった。ぼくはその間熱を出した。熱に浮かされているとき、彼女のひんやりと冷たい手が、ぼくの首筋に何度も絡みつく夢を見た。きみも一緒に行こうよ、と。
彼女の初七日が終わった頃、ぼくはようやく起き上がれる様になった。彼女の墓前に花を供えるとき、何度も何度も謝った。
もしぼくが彼女を家に送らなければ彼女は殺される事は無かったんじゃないかと。
「優しいんだね」
彼女の最期の言葉だけが耳について離れない。
「――ねえってば」
姉に蹴りを食らうまでぼくはぼうっとしていたらしい。
「あんた、大丈夫?」
姉が顔を覗き込んで来た。溶けてしまったアイスを飲むように胃に流し込むと、ぼくは手の甲で口を拭った。
「汚いなあ、ちゃんと洗ってきな」
姉の小言に、ぼくは立ち上がり、洗面所へ向かう。
手を洗い、ついでに怖い思いを断ち切るように顔も洗った。
「……あれ」
見ると赤黒い二つのなにかがぐるりと首筋についていた。
手鏡を持って後ろを見る。
「……ひっ!」
首筋には十本の絡みつくような指の跡がくっきりと残っていた。