瑠璃川小里。
俺は店を後にし、早足で帰る。
あ〜、はやく漫画読みてぇ。嬉しくて笑みがこぼれる。
すると、前の方で年寄りのおばあさんが買い物袋を落としてしまった。中身は地面に散らばった。
困っているおばあさんを気にすることなく、さっそうと人は通り過ぎて行く。まるでそれが当たり前のように...。
そうだ、思い出した。これが現実だ。人間は自分が楽しければいいのだ。他人なんて関係ない。俺もそうだ。変わりたいとも思えない。俺は何一つできやしない...。
そう思いながら通り過ぎて行ったとき、誰かが横切った。とたんにふわっとしたいい香りがした。
「えっ」
後ろを振り返ると、一人の女の子が荷物を一つ一つ拾い集めた。
「大丈夫ですか?」
女の子は優しい笑顔で問いかける。
「まぁ、ありがとうね。」
おばあさんもとても笑顔になった。二人は笑いあっていた。
俺はその笑顔が頭から離れなかった。
翌日、高校で俺はある女の子を見ていた。
「ねぇ。」
俺は彼女に話しかけた。彼女は振り返る。
「あんたってさ、昨日俺に会ってたりする?」
彼女は少し驚いていたが、すぐ普通の顔に戻った。
「うーん...。会ってはないかな...。人違いだと思うよ!」
「そっか。昨日歩道で会った子同じ顔だと思ったんだが...。悪かったな。」
俺は振り返り、歩いた。
「なんで!なんであの時、おばあちゃんのこと助けてあげなかったの?」
やっぱりな。
俺は立ち止まった。
「どうせみんなそうしてただろ。」
「でも ─
「ッせぇな」
俺は小声で呟いた。
「え?」
「俺とはなしてたらあんた汚れちゃうよ〜」
俺は早足でその場を立ち去った。
あーもうっさいな、黙れ、黙れ....。
知ってるんだ、俺が間違ってることくらい。
悲劇のヒーロー気取って、逃げてることくらい。
平日に俺は久しぶりにアニメイタに行った。行きたくなった。
現実から逃げているつもりではない。だってここは現実世界。
俺にとって現実とは思えないくらい愛している場所なのに、やはり高校と同じ現実世界の建物なのだ。
また、あの子がいた。俺はずっとひっかかっている。なんだか気になってしょうがない。
「あのー。」
その子はビクッと肩を震わせ、振り向いた。
やはり帽子とマスクを身に付けている。
「なっ、ななっ、何ですか!?」
「聞きたいことあるんだけど」
彼女は黙った。
「お前ってもしかして ─
彼女は一目散に逃げていった。
「ちょっ、まっ」
俺はすごくイラッとした。
なんで逃げんの!
昨日と似たような翌日になる。
俺はまた誰かを探していた。
今日はやたらと避けられる。めんどくせー。
「おいっ!瑠璃川小里!!」
俺は大声で叫んだ。
「ひぃぃっ!!!!」
見た事のある反応をした彼女は、変な声を出した。
「ちょっと話がある。」
「は、はい...。」
廊下を歩く二人を見て、周りのヤツらはヒソヒソと話しているが、気にしない。
とにかく聞きたいんだ。
人気のないところで俺は立ち止まった。
「あ、あの〜。聞きたいことって何?」
「お前、一昨日と昨日アニメイタいたか?」
「.........。」
「誰にも言わないから、言う人いないし...。教えてくれ。というか、もう分かってる。」
「え...えとですね...。その....。」
沈黙が続く。
「そうです!あたしです!一昨日と昨日あなたのこと見ました!!」