スタミナ論者、異世界転移する
ネトゲ三昧、趣味の間に人生をやっている男「木山 翔」はスタミナのないスタミナ論者。スタミナが無限にあれば英雄視される、という考えを持つ変態。そんな彼のある日の出来事だった
「あー……やばいやばい!……あぁ…」
パソコンの画面の前で、俺は深く溜息をつく。今週に配信されたクエストがこんなに鬼畜難易度だなんて……もう少しでクリアできたのによお……。長時間やりすぎたせいか、なんだか体が重いしめまいがするし、すこし屋上で外の空気を吸ってくるか。
数多くの星が藍色の空で何時になく輝いている。弱弱しい風が俺の屋上まで登って疲弊した体を突き抜けていく感じで、とても気持ちがよかった。
「シャバの空気は最高だな……!」
と何も特別に拘束されていたわけでもないのに口からボソっと言葉がでてきた。マンションの屋上から見る景色はなかなか悪くない。今の状況からして、この眺めは富士山の俗的な景色の上をいってると思う。すっかり、さっきまでのあのクエストに対する苛立ちは消えており、ただただ風に吹かれながら黄昏ていた。
もう遅い時間だからだろうか、車の音がほとんど聞こえず、完璧な静寂ではないが静かになっていた。
「こんな静寂の中を体力の限界なしに駆け抜けられたら、めっちゃ楽しそうだな。でもそんな体力なんてないしな……ははは……」
誰も俺なんか見てないと静けさは語ったせいなのか、そんな願望が口から洩れてしまった。
体力……言い換えればスタミナ。この趣味だらけの人生で、スタミナがどれくらい偉大なのかというのを学んだ。だから「スタミナの限界がなくなる能力」のヤバさはよくわかる。永遠と走り続けることができる、技を連発できるようなスタミナを持つ者は、ほとんど英雄視されつづけてきた。それになにかと便利だし、もしかしたら時間停止とかマインドリーディングに並ぶくらい良い能力なのでは?というくらいとにかくやばいのだ。……この熱心が漏れてしまったのかもしれない。
「あーあ、神様、『スタミナ無限の能力』をください」
蛇口をひねれば水が出てくるように欲望がなぜかあふれ出た。
「どうせそんなこと、起こらないだろ」そう思った瞬間、突如、俺の前に大きく黒い穴が時空を割いたように出現した。うわっ、と驚きの声が出る前にその穴に吸い込まれ、意識はそこで途絶えた。
―
「……ん。ここは……」
目が覚めるとあたり真っ白なところにいた。右も左も上も下も、すべてピュアな白だった。とても静かで、それらが俺を不安にさせる。
「……なんだよ……ここ」
「気が付いたみたいだね」
あたりを見渡していると、いつの間にいたのか、目の前に白のコートを身にまとい真っ白なフードを被り顔の見えない人が立っていた。声からして、女性だ。ちょっと怖い。
「えと……貴女は……?」
「私?」
「貴女以外誰がいるの」
「そうだね……私はね…」
そういうとフードを外した。きれいな金色の髪が見え、澄んだ目、綺麗な顔の形が露になった。正直、一目惚れしそうになった。
「私は、メア。ちょっとした旅行者よ」
「……はあ?」
何を言っているのかわからなかった。ちょっとした旅行者ぁ?
「メアさんが俺をこの空間に送ったんですか?」
「うん。ちょっと君に用があるからね」
ますます意味不明。なんだこのラノベのような出来事は?空間に閉じ込められてるし意味不明なこというし。
……とりあえず冷静になるべきだ。
「……で用件とは?」
「あなた……無限のスタミナがほしいみたいね」
「なんでそれを……」
「静かなところでのおしゃべりはよく響くものよ?」
「……」
うわ、恥ずかしい。
「そのスタミナ無限能力、あげちゃうわよ」
「!?」
何だって!?俺が、能力を手に入れられるのか!?
さっきまでの不安が消え去り、今の状況が俺の反応を作ってしまった。
「ええ……でも現実世界はだめよ。ちょっと試験的な問題があるから、あなたには違う世界に行ってもらうわ。」
「違う世界……?」
「ええ。よく言われる『異世界』ってやつかしら」
あれ、俺異世界転移までしちゃうの?もう理性的な判断は消えて喜んでた。それはもう頭の中身サルみたいに。
「……やばっ、のんびりしてたらこんな時間!時間無いからもう飛ばすわよ!また後で会いましょ!」
メアさんは腕時計も何も見ていないのにつぶやき焦った。
純白の部屋は次第に暗黒に飲み込まれ、地面の揺れる音とともに俺は気絶した。
こうして俺の異世界生活は始まろうとしていた。
続きます。けど自信ないです。