不本意
聖によって買い取られ、「制服」として着ることになった服の数々だが。
当然の如く仕事中の着用が義務付けられる。それに付き合わされる獏ごと不機嫌なまま、夏姫は死者の国へ来ていたりする。
「よう似合うておるではないか」
「そういう世辞は聖か四条院の方々へ」
「……子坊の趣味か」
先日、門番と樹杏が顔を合わせた時に門番は樹杏を「坊」と呼んでいた。つまり「子坊」とは紅蓮のことである。因みに、樹杏の奥方は「気高き方」らしい。
「選んだのは葛葉さん。悪ノリしたのがその子坊と聖」
「なるほどの。小物関連に気高き方が関わっておるようじゃの」
「……ふうん」
バッグを見つめた門番に言われたが、夏姫にはそれ以外言いようがない。
「相も変わらず見事じゃ。この刺繍、気高き方が直に刺したと見える。糸の用意は坊か。よくそなたの手に渡ったものじゃ」
「仕方あるまい。葛葉では力不足になる可能性がある。紅蓮にはこういった細かいチカラの使い方は出来ない。消去法だ」
迎えに来た聖が、裏事情をあっさりと言う。
「それでも、じゃ。気高き方は坊が『誰かのために』用意するのも嫌うであろ?」
「否定はしない。……が、夏姫に抜けられて困るのは花蓮だ」
「……坊が説得したか」
「おそらくは。対価が知りたくなってくるが」
「まことにの」
二人、不敵に笑う。
そんな二人に興味ないとばかりに、夏姫はケルベロスと獏へブラッシングをしていた。ふわっふわになる手触りに、昔「動物は癒しだ」と言っていた知人の言葉が蘇ってきた。
「……君はどこまでもマイペースだね」
「あたしに関係のない話っぽかったし」
夏姫の用件も既に終わっている。聖と門番が雑談をするというのなら、端っこで別のことをしていたほうがいい。
「間違いではないのだがね。さて、地上に帰ろうか」
「弟子よ。地上が嫌になったらいつでも来るがいい。そなたはいつでも歓迎するぞ」
「その時はよろしく」
ないとは思うが。
小さくなった獏を抱きしめ、夏姫は聖と共に地上へと戻った。




