葛葉の企み
急きょ呼び出された葛葉は、話をきいて開いた口が塞がらなかった。
「樹杏伯父様ももう少しご自身で説明する事を覚えていただきたいのですが」
いや、この話に関わらないよう、逃げた夏姫をとっ捕まえた杏里も杏里だが。
「あそこにいる面子に言っても無駄」
今回の一件だけでここまで悟る夏姫がある意味一番凄いのだが、葛葉はあえて知らぬふりをする事にした。
「わたしが呼ばれた理由は……」
「多分、問題になっている、ナントカって家のことだと思う」
ナントカではなく椎名です。そして立場上椎名の家には詳しくないです。そこまで思ったところでふと思い出した。
多分、今回の問題をここまで大きくした女性に心当たりがあるではないか、と。
「後日、とある女性を紹介いたします。わたしの一存では紹介できないのが、残念ですわ」
会わせるには、父親を通じて祖父に話を持って行き、そこで承諾されない事にはどうしようもない。
「あの女狐、そこまで偉くなってんの?」
「といいますか、父があまりわたしと関わって欲しくないようで」
「俺と? 夏姫と? それとも女狐、もしくは機密とか?」
杏里が楽しそうに言う。
実際、葛葉の父親である青葉は、樹杏、杏里兄弟……特に杏里とかなり反りが合わない。そして、夏姫ともあまり関わって欲しくないようである。
とどのつまりは。
「杏里小父様がおっしゃった全てのことに『当てはまります』とだけ答えますわ」
「蒼葉らしいよ」
くつくつと楽しそうに杏里が笑っていた。
「ともあれ、あの女狐には俺が時機を見て会わせる。とりあえず、夏姫に禁忌の呪術の定義を教えてやってくれ」
「高く、つきますわよ?」
「さすが弥生さんの娘だ。……いくらだ?」
二人の間にほんの数秒だが、緊張した空気が流れた。
夏姫にはその数秒が数分どころか数十分にも感じたのだが。
「夏姫さんに似合いそうな服をリストアップしましたのっ!! 」
バッグから出したスクラップを見せつつ葛葉が叫んだ。
「どれを買えと?」
呆れたように杏里ぼやいた。
「全部、といきたいところですが、ここからここまでをっ!!」
「他は誰にたかる気だ!?」
金額が半端ないぞ!? と突っ込みを入れているが、そういう問題ではないと思ってしまう。
「兄様にここからここまでで、白銀の呪術師様に残りを」
「お前は阿呆か!? 婚約者に別の女物の服を頼む奴がどこにいる!?」
「ここにおりますっ」
「……もういい。今回は全額藤崎が夏姫の為に貯めていた金から出す。あいつらにこのスクラップは出すな」
ドヤ顔で言い放った葛葉に、杏里が負けた。
……かくして、夏姫の趣味に合わない服は、ウォークインクローゼットを占領するほどの量で増えることになったのだった。
「頼む人、間違えていませんでしたか?」
「……言うな。俺も思った」
買い物に付き合わされた杏里と夏姫の言葉は、葛葉には届くことがなかったという。