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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋と巨大企業
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とある週末の出来事


 淡々と尚近に四条院内の常識を教えてもらっていた。

「ここまでで質問は?」

「とりあえず上層部の人間に絡まない、下手に逆らわない、何かあったら次期当主か総括責任者の秘書、しかも四条院内部の人を通せばいいということですよね」

「話が早くて助かる。……流石だな」

 含みを持たせた言葉に、一瞬夏姫も驚いたが知らない振りをした。

「ま、やっぱり『親子』だって事だよ」

「……杏里様……」

 唐突に入ってきた杏里を尚近が嗜めていた。

「いいじゃねぇか。お前の父親(、、)とは個人的に繋がりあるのは事実だし?」

 その言葉に周囲がざわついた。この男は何もないところに火種を置いて、大きくするのが趣味と見た。

「あ、今度の週末空けとけ。墓参りに付き合え」

 断ろうとした瞬間、尚近がため息をついていた。

「山村さん、お願いします。……墓地までしかこちらで情報が掴めていないので」

「……分かりました」

 こうして怒涛の一日はあっという間に過ぎてしまった。



 夏姫に羨望の眼差しを向ける女性秘書たちを、杏里は冷ややかに見ていた。

 数年前に離婚してから、「優良物件」として、女たちの見る目が変わったのを実感している。

 だが、杏里はそんなふざけた女たちに興味はない。


「あ、兄貴。終わったの?」

 やっと部屋を出てきた兄に杏里は声をかけた。

「どうも、何が悪いか分かっとらんな」

 いまだこめかみに指をあてている兄の不機嫌さはおそらくかなりなものだろう。

「どうせ彼女は明日休みだし、明日いっぱいかけて再教育すればいいじゃねぇか。それにしてもあいつは有望だ。あっさり何かあった場合、冬太か疾風に言うとさ」

「……半分でいい。紅蓮にその思慮深さを分けてやって欲しい」

「無理だろ」

 兄の望みを一刀両断にした。夏姫と紅蓮では育った状況が違いすぎる。それゆえにおきている事象だと杏里は思っている。

「組ませることで学べれば御の字だと白銀の呪術師に言われた。Win-Winだそうだ」

「……あぁ、少しでも執着心を学べって事か?」

 尚近が「紅蓮と夏姫は足して二で割ると扱いやすい性格になるかもしれない」と言っていたのを思い出した。

「今週いっぱいはこちらにいるのか?」

「あぁ。『小児病基金』の事もあるからな。あとは結婚式だよ」

 離婚したはずだが、未だに子供たちは「四条院」の姓を名乗っている。その方が箔がつくと思っているらしい。実際、杏里の子供ということで直系扱いではあるが、紅蓮に比べると重要な仕事は任されていない。

「墓参りの件は?」

「あ゛? 結婚式は土曜、墓参りは日曜。それだけだろ」

 元妻や子供と仲良くする気はまったくない。


 こうして樹杏、杏里兄弟の一日も過ぎていった。



 日曜。

 夏姫はとある駅の前で待っていた。

「車使うとか思わねぇの?」

 開口一番にそれを言われた。

「電車で行ける距離ですし」

 それに会社の人間に見られいて痛くない腹を探られるのは真っ平ごめんだ。

 だが、いつの間にか後ろにいた尚近に引き摺られるように車に乗せられた。


「悪いな。俺も時間がない。金輪際お前の手を煩わせたりしねぇから、安心しろ」

「分かりました」

 正直、紅蓮と話しているよりも、樹杏や杏里と話しているほうが落ち着く。

 ちなみに、今日の服装は黒いシャツに黒いパンツ、そしてパンプスだ。

「間違えても派手なネクタイとか、スーツ合わせるなよ」

「?」

「メイクすれば、ホストになれるぞ」

 まったくもって酷い言い方だ。誰かに媚を売る仕事は自分に向いていない。

 そういえば昔、「ホストになりませんか?」と繁華街で声をかけられた。「女だ」と一言告げると、「では系列でホステスを!」と言われて辟易した記憶がある。そんなこと、どうでもいいが。

「ここが藤崎さんの墓です」

 カトリック教会内にある、無縁墓地の一角。そこに藤崎は眠っている。

「……俺さ、止めれたのかと時々思っちまうな」

 急に杏里が語りだした。

「俺と藤崎は似ているようで似ていなかった。それが俺たちは心地よかった。だけど、あいつは俺と関わったことで、八陽の馬鹿やサンジェルマンと組んだ」

「どうでしょう? それは藤崎さんにしか分からないことですから」

「……お前の近況、教えたのは俺なんだよ。……後悔なんかせずに、幸せになって欲しかったんだ。藤崎の幸せの隣には常に娘の存在が不可欠だと思ったんだよ。余計なお節介だったかも知れない」

「苦しむのは勝手ですが、それにこちらを巻き込まないでください」

 この男の苦しみに夏姫が付き合う必要はまったくないのだ。

「そっか……そう言ってもらえると助かるわ」

 優しく杏里が夏姫の頭を撫でてきた。


 その手は、藤崎を思い出させた。


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