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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋と巨大企業
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謎な男

 夏姫が店から出てしばらく歩くと、一人の男が出てきた。

「話も終わったみたいだな」

 その男に促されるまま、夏姫は車に乗る。乗り物酔いのことを言い忘れたが、何とかなるだろう。

「藤崎が使ってた部屋でいいのか?」

 藤崎のことで話がある、そう言ってきたのは男の方だ。

「外からも見える喫茶店の方がいいです」

「……賢明な判断だな」

 やましいことはない、だからそういった場所がいい。でも、桑乃木総合病院に近い、藤崎が死んだあの(、、)喫茶店だけは嫌だ。

「じゃあ、そこのファミレスでもいいだろ」

 男が促したのは、全国に展開しているリーズナブルなファミレスだった。


「意外か?」

 男は面白そうに問いかけてきた。

「さて、山村 夏姫さん。あんたに色々言いたい事がある。紫苑には関係ないから安心しとけ。ついでに言うとあんたの師匠である白銀の呪術師ともあんまり仲は良くないな。……兄貴には言う必要もない話だ」

 兄貴? 誰のことだ? そんな疑問が夏姫の頭をよぎった。

「……あんたさっき、東堂ホテルで俺と顔合わせたよな? 俺兄貴の代理で出席したって自己紹介したよな?」

 表情の変わらない夏姫の疑問に、どうやって分かったのか、男が呆れながら言った。

「再度自己紹介させてもらうわ。俺は四条院 杏里。苗字で呼ばれても誰だか分からなくなるだろうから、名前でいい。どうせ、紫苑とは血の繋がってない従兄妹同士だろ? 俺と紫苑も従兄弟同士になるからな。

 で、今すぐ(、、、)名前で呼んでみろ」

 四条院の人間は傲慢な人間が多いな、そんなことを夏姫は思ったが、一応呼んでだけみる。

「……杏里小父さん?」

「嫌味か?」

 小父さん以外言いようがないだろう。

「確かに俺は子持ちだ。お前より年上の娘二人。だがな、今は一知人として話している」

「藤崎さんを父と仰いでいたら、間違いなく『小父さん』と呼んでいた自信はあります」

「んな自信要らねぇ!」

 聖よりはかなり扱いやすいかも、不躾ながらも夏姫はそんなことを思った。

「いいか、白銀の呪術師(あいつ)らと一緒にすんじゃねぇ。あんなに人生経験豊富じゃねぇし、兄貴みたいに世渡りは上手くない。

 ってなわけで、『小父さん』呼びはやめろ」

「お断りします。尊称だと思ってください」

「お前の態度から、どうみても尊称には聞こえねぇ」

 何の話にここに来たのかすら、謎になってきた。

「ほれ、藤崎からの預かりもんだ。警察にも、白銀の呪術師にも触らせたくなかったんだと。武満(たけみつ)に頼んだら、間違いなくどっちかの手に渡る可能性が高い。だから、俺だ」

「アリガトウゴザイマス」

 武満は桑乃木総合病院の副院長を勤める、夏姫の主治医だ。当然、桑乃木総合病院に勤め、小児科医であった藤崎とも知り合いで、藤崎の持ち物全てを夏姫に渡すよう弁護士を通じて遺言を作ってくれた人物でもある。

 その武満にすら見せたくないものだったのかもしれない。

「……藤崎は常に後悔ばかりしていたな。だから俺と話が合った」

 後悔はお前のことだ、そう杏里は呟いた。

 藤崎は後悔していたのか、そういえばあの時もそんなことを言っていたと、夏姫は思い出した。そして、いつも思い出してしまう優しい手のぬくもり。

「で、俺としては娘と関わんねぇで欲しいんだわ。分かるか?」

「そちらから絡まなければ関わることはありませんが」

「じゃあ、何で葛葉や紅蓮と絡んでんだよ」

 勝手に絡んでくるだけだ。どうせなら、この携帯をさっさと解約したい。そうすれば絡まれる機会もかなり少なくなる。

「……そういう理屈かよ、あんたは。分かった。今すぐ俺から紫苑に連絡して携帯を持っていってもらう。そうすりゃ、携帯はなくなる。OK?」

 夏姫がすぐさま頷き、杏里はどこかに電話をしていた。

「あと十分くらいで来るとよ。携帯、用意しとけ」

 その言葉に夏姫は、テーブルの上に携帯を放り投げた。

「……ぼろいな」

「電話、かけれれば問題ないですから」

「半端な敬語もやめろ」

 馬が合いそうにない、それが今回杏里から受けた印象だった。



 紫苑の代理という年配の女性が夏姫が投げた携帯を持って行こうとした時、杏里が口を挟んだ。

「この一件、紫苑は知ってんのか?」

「はい」

「じゃあ、さっさと解約してやれ。藤崎が生きてたら、こんな回りくどいことしなくて済んだんだろうな」

「杏里様、何が仰りたいのですか?」

「さっさと本腰入れて()養母と縁を切らせてやれってことだ。千寿(せんじゅ)

「私に関係ございませんので」

「大有りだろうが。その件が片付かないことで巡り巡って紫苑に迷惑が行ったらどうする? 俺の目の前でこいつはお前に渡したんだ」

「善処いたしましょう。紫苑様は多忙な方なので」

 杏里はこの女性を夏姫に紹介するつもりはないらしい。まぁ、厄介なものを持っていってもらえるのだから、それ以上追求しないでおいた。

 女性がいなくなると、杏里はまたどこかへ電話をし始めた。

「明日にでも白銀の呪術師のところに携帯が届くようにしておいた。四条院の名義だ。仕事上どうしても必要になる、不要な連絡先は入れておくな」

「そんなもの、ないです」

「……だろうな」

「話はそれだけですか?」

「それだけだ」

「ありがとうございます。色んな意味で」

 特に携帯を引き取ってもらえて。

「藤崎に対する償いの一つだ。……道を誤らせたのは俺かもしれん」

 この男にとって、この行動は償いなのだ。そう思ったら、すとんと納得した。


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