表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋と巨大企業
45/63

仕事始め

文芸社様で書籍になったものの続編です。

本章開始です。最初の部分は発売された書籍を踏まえております。

書籍があってもなくても楽しめるよう、頑張ります。

 相変わらずのフリフリの服に身をまとい、歩く。

 一緒に歩いているのは、百七十を超える己の身長よりも頭一つ分大きい中性的な男。男はシルバーブロンドの髪を腰まで伸ばし、赤い瞳。本日はいつも着ているローブではなく、スーツである。

 この男こそが、現在己の服とウィッグ等小物までのトータルコーディネートをして、降りかかってきた全ての厄災の元凶の男。そして、己の魔術の師でもある。


 本日何度目かのため息をついた。


「いい加減、諦めなさい」

 誰が諦められるか! そう言いたいが、それすらも面倒である。

「夏姫、その姿のまま三日間拘束され、新幹線に乗り、京都まで行くのと、本日しっかりと相手と話をするのとどっちがいい?」

 何だ、それは。ゴスロリの服に身をまとい、背中くらいまでの髪になるようウィッグをつけた女、山村 夏姫(やまむら なつき)は思わず隣にいる己の魔術の師、(セイン)を見やった。

「事実だよ。今日わざわざ四条院八家(しじょういんはっけ)当主陣にも君が乗り物酔いをするという観点から、無理を言ってこちらまでご足労願ったのだから」

「あんたって、最悪……」

「それは今に始まったことではないだろう?」

 あっさりと聖がかわし、すたすたと歩いていく。

「それに、私が弟子を取った理由も四条院家に由来する。それは試用期間中にしっかり言っただろう?」

 そういえばそんなことも言ってたっけ、それくらいにしか覚えていない。

「今日はただの顔合わせだよ。おそらく葛葉(くずは)も来ているとは思うけどね」

「葛葉さんも?」

「昨日電話が来て、そんなことを言っていたよ。……君が携帯の電話番号教えていないせいで私に連絡をよこした」

 教えるもなにも、聞かれてすらいない。葛葉は教えていったが、夏姫としてはかける必要もなかったから、かけていなかったわけで。ついでにメアドも教えてくれたが、夏姫は今まで使ったことすらない。自分でもかなりアナログな人間だとは思うが。

「……今まで友人と呼ぶ人間がほとんどできなかったのは、君のその不精さが原因だと思うのは私だけかい?」

「それは認める。もう少ししたら解約するつもりだったし」

 養母だった十子(とおこ)に縁を切られた今、携帯を持っている理由すらなくなったのだ。

「今日の帰りに解約するかい? 私は別に構わない。使い魔の魔青(マオ)かサファイで連絡を取ればいいだけだし」

 それ以前に聞いていないわけだし。責めるわけでもなく、聖は言う。

「ん。そうする。病院行ったあと、解約する」

 その言葉に聖がくすりと笑う。普段持ち歩かない携帯を、今日持ってきていたのをいつの間にか気付かれていた。

「そうそう、今の住まいの環境はどうだい?」

「広いし、高い」

 ワンルームマンション、ペット可の物件である。聖がいつの間にか用意してくれていた。

「なら、また住み込みにするかい?」

「却下」

 田舎の倍くらいの相場に正直驚いている。初期に言った給与で間に合うかが不安になっている。


 また、ため息が出てきた。


「ここだよ。ついた」

 どう見ても「高そう」なホテルである。

「ここは東堂家で経営しているホテルだよ。大抵、こういう集まりがある時は使っている。君も道を覚えること。いいね?」

 本当に覚えることが多くて、面倒だ。

 ロビーには既に葛葉がおり、夏姫たちを見つけるなりこちらへ来た。あいかわらず、メリハリのきいた身体のラインを存分に強調するワンピースに、その上からニットカーディガンをはおり、上品に決めていた。

「お久しぶりですわ。夏姫さん、今日こそは電話番号教えていただきますわよ」

 その言葉にうやむやな返事しか返せない。

「私的なことは終わってからでいいだろう。皆集まっているかい?」

「えぇ。……樹杏(じゅあん)伯父様以外ですが」

「昨日連絡があったよ。自分は夏姫と顔合わせもしているし、今日奥方の退院日だから、そちらを優先するとね」

「よくそれで、責任者が……」

「務まるさ。それよりも、紫苑(しおん)は来ているのか?」

 聖のその言葉に、思わず身体がこわばった。

「紫苑叔父様がいらっしゃらないわけないでしょう?」


 夏姫と紫苑の関係は、聖と正式な師弟関係を結んだことにより完全に決裂した。

 紫苑の言い分は「試用期間も終わったのだし、使い魔全てと契約破棄をして十子に謝罪をいれ、田舎に戻れ」だった。それを師匠権限で聖がつき返した。

 聖がつき返したにも関わらず再度夏姫につめより、夏姫の「使い魔」にあたる魔青と(ばく)を始末しようとしたのだ。それに対して夏姫がぶち切れた。

 魔青は聖が「創った使い魔」であり、夏姫権限ではどうしようもないのも一つの理由だが、最近は魔青が傍にいる生活が当たり前になっており、完全な「同居人」である。そして獏は夏姫が「最初に契約した使い魔」であり、こちらも夏姫にとっては家族同然。今回ワンルームマンションをペット可の物件にしたのも、獏が犬型の妖魔であることに由来しているのだ。

 新しい同居人に対してその態度なら、夏姫は絶縁で結構二度とその顔を見せるなと、売り言葉に買い言葉で紫苑に言った。結局どうやったのかは分からないが、十子と夏姫の養子関係は綺麗になくなっていた。それに気がついたのが先日である。

 その後も厄介な電話がいろいろかかってくるため、面倒になり携帯を放置、本日解約しようと思っていたのだ。


 そんな内情を葛葉は知らないのだろう。さも当然と言わんばかりの態度だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ