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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
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第四章――決着――その七

 どこかの空間から夏姫たちが東屋に戻ってきた。

「聖!黒龍の手当てをして!!」

 聖の姿を確認した夏姫が叫ぶ。夏姫に支えられた黒龍はすでに意識はなく、危険な状態である。


 黒龍をここまで追い詰めることができる人間など限られているはずだ。

「死者の国で!黒龍が!あたしのせいで!!」


 やはり夏姫も死者の国へ行ったか。元則につかまれ、そして藤崎の思いにひきずられ。

「……魔青、結界を。サファイは結界の中で魔青の補助を。夏姫は十分でいい、サンジェルマン(あの男)と対峙しなさい」

「獏、一緒に戦って」

 夏姫が懇願するように獏に言う。その言葉によって獏は大型犬くらいの大きさになった。


「……ん?」

 ちらりとなぜ、ケルベロスまで従っている?あの男も禁忌の知識欲しさに死者の国へ元則を遣わせているのは分かってはいたが。


 まずは放っておくしかないだろう。黒龍の治療が最優先である。

 治療を続けながらも、夏姫の動向に視線を配る。


 しまった。やっていいことと悪いことを、教えておくのを忘れていた。

 夏姫がやっているのは、やって悪いことの方である。


 少しの治療で黒龍は意識を取り戻した。おそらく死者の国の毒気にやられたのもあるのだろう。ここまでくれば問題はない。結界を解き、夏姫の傍に立った。

「私が悪いとはいえ、やって悪いことばかりやられると困るね」

 ぽん、と頭を撫でた。

「今の戦いで、相手が呪術を唱える前に蹴りを繰り出したり、獏を動かしていたのは君が魔術が苦手だからかな?だが、呪を唱えるのを妨害すると、普通に体術を使うよりも疲労が大きい。だから、動きが鈍くなるのだよ。それでも、サンジェルマン(あの男)相手に優勢だった」

「ふざけるな!使い魔二体いれば当然……」

 男が叫んだが、もう一体の妖魔が何か気がついたのだろう。言葉を失っていた。

「今頃気がつたかな?一体はケルベロスだよ。おそらくお前を狙って来たのだろうね」

 何か言いたげな夏姫の口を、起き上がった黒龍がふさいでいた。

「さて、夏姫、君は休みなさい。呪符を使って店に……」

「あたし行くところが……」


「その必要はない」

 聖の言葉をさえぎった夏姫の言葉を、女がまたさえぎった。

「そなたに大きな借りができたわ。先程の約束は無効じゃ。それにこれの居場所に連れてきてくれるとは、まっことありがたい」

 何の取引をして夏姫は出てきたのか。そんなことはどうでもいい。この女の気が変わらぬうちに、夏姫を店に戻すとするか。

 うもう言わさず、夏姫のポケットをまさぐり、呪符を出す。問答無用で店に戻した。


サンジェルマン(この男)も知識を欲したか」

「さようじゃ。しかも死者を御霊返りさせ、それを使うなど言語道断。それに比べ、そなたの弟子はできた娘じゃの。妾の後継者にしたいくらいじゃ」

 そこで改めて聖は呪を唱え姿を変える。


 龍の姿でないにしろ、これが本来の聖の姿。

「も……元則……私を……ひっ!」

 サンジェルマンの恐怖に歪んだ顔が絶望へと変わっていく。元則はサンジェルマンを取り押さえたのだ。

「妾がおって、死者がそなたの言うことでも聞くと思うておったのか?」

「私としては、ここまでおろかなことをやったお前に、もっと恐怖と絶望を与えてやりたいのだがね」

「それは困る。このまま妾に引き渡してもらいたい。そなたに恐怖と絶望を与えられたら、死んでしまうわ。妾がつまらぬ。それに、生きたまま奈落に突き落としたい」


 奈落にいるもの、それは禁忌の知識を得ようとして失敗したモノ達のなれ果て。この男にそれ以上に相応しいものはない。


「……ならば、貸しだ。そのまま元則ごと奈落に落とせ。肉体も魂も死者に貪られるが良い」

「交渉成立じゃな」

もしサンジェルマン(この男)が、私の前に現れたら、門番の魔女、貴様を私が殺す。それだけは覚えておけ」

「無論じゃ。そなたを敵に回したい魔女なぞ、誰もおらぬ。おお怖い」

 そう言って女はケルベロスに命じて元則とサンジェルマンを捕らえる。そして男二人はずぶりと空間に消え、それを追うように門番も戻った。それを見届けて、聖は一つ呪を唱える。


 するといつもの聖に戻っていた。

「厄介で疲れたが、まぁ、門番に貸しができたしよしとするか」

「……嬢ちゃん、どうなるんだ?」

 聖は黒龍から顛末を聞き、脱力していくのが分かった。一番の番狂わせは夏姫だ。

「問題ないぞよ?そなたが面倒だと感じたら、妾のところによこせばよい。気に入ったわ」

 ひょいっと現れて、女はそれだけ言って戻った。

「これを聞く限り、死者の国には戻らなくていいとしか言えないね」

「……だよなぁ」

 その交渉に口を挟めなかった黒龍も呆れていたに違いない。おそらく、夏姫は本気で戻るつもりでいたのは、聞くまでもない。



 店に戻ると、夏姫はぐったりとしていた。仕方ない。あちらで走り回ってきたうえ、呪を唱えるのをかなり妨害している。

「葛葉、ご苦労さん。明日、頼みたいことがある」



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