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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
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第四章――決着――その一

「おっきいマスタ、獏が約束破ったぁぁぁ!」

 朝もかなり早い時分、全員がその声で起こされた。


 呆れながらも廊下に出ると、大型犬の大きさの獏が夏姫の部屋の前に陣取っていた。

「マスタをね、起こすのは魔青の役目なのに!起きたらマスタのベッドの近くで獏がおっきくなってたの!」

 しかもマスタは気にしてないし!魔青の怒りはおそらく獏が甘やかされていると取れる部分だろう。

「魔青、怒って聖に言いつけに行くのはいいけど、ドアだけ閉めてって」

 起きた夏姫の注意はそれだけだった。



 すぐさまばたばたと動き始めた。元則側から見れば聖にほとんどの計画を知られている。紅蓮を何とか騙したと思い込んでいる男は、どうやっても夏姫の影を盗ることに執念を燃やすだろう。影さえ盗れてしまえば、夏姫の言葉すら操り、聖に全てを擦り付ける。


 そして、己の野望を叶えるために動くだろう。

「ここまで動いて、四条院側にばれないものなの?」

 夏姫の疑問はもっともだ。

「そんなことは気にしてないんじゃないかな? 葛葉がいるのも最初は秘匿にしていたし。四条院に対しても、先日初めて葛葉もバイトとして雇うと伝えたばかりだし」

 一見、仲が悪そうに見える女二人だが、そうではないのは分かっている。


「白銀様!見てくださいっ!この素晴らしきゴスロリを!!」

 手に持っているだけというだけで、夏姫用とすぐに分かる。

「この深い漆黒の生地!そしてふんだんに使われているレースとリボン!!胸元は若干深めの開き具合!」

「予算オーバーじゃないかい?」

「何をおっしゃいます!これ一点一点に伯母様方の……」

 思わず口をふさいだ。この服こそ、ある意味「防御服」なのだ。

「あぁ、早く夏姫さんに着せたい……」

 葛葉はうっとりとする顔で若干後退りする夏姫に無理やりあてがった。



 聖は、夏姫の出かける時間を多くする。葛葉とだったり、黒龍とだったりさまざまだが。やはり、葛葉と一緒のときが元則の一番動きが少ないらしい。

 これらの行動自体もあぶり出しとは気付かれずに、元則への罠が張り巡らされていた。



 あえて夏姫を一人で出かけさせてみよう、そうなったのは自然な成り行きだろう。

 桑乃木の病院へ行き、当たり前のように藤崎と話した。


 そして近くの喫茶店で落ち合うと約束したのだ。

「本当に一人なのには驚いたよ」

「忙しいからね」

 次の瞬間、悲鳴があがった。藤崎の影が、藤崎を刺したのだ。

「藤崎さん!」

「夏姫、あの時一緒に連れて来られなくてごめんな。……俺が強かったら、守れたのに……これでいいんだ。永遠の命を欲して殺されて、初めて俺の願いは叶う」

 笑った顔は、あの時と同じ。夏姫を置いていった時と……。

「逃げろ、夏姫」

 しかし、夏姫の影が空間を裂き、裂かれた空間へと夏姫は連れ込まれた。



 夏姫を一人で出かけたように見せかけ、聖はあとをついていっていた。無論、この状況はすぐそばで見ていた。人気の多いところで呪術を使う以外は聖が予想したとおりすぎて笑えてきた。


 予想外だったのは一点、藤崎のみ。がしりと、藤崎が聖の足を掴んだ。

「夏姫を……」

 それだけ言ってこときれた。藤崎の最期の記憶を読み取るため、頭に触れた。

「こればかりは、止めないと」

 優しい男は最期まで後悔していたのだ。



 空間が再度開き、獏が出てきた。

「ご苦労さん」

 本当に有能な使い魔だ。

 獏が開けた穴から、夏姫が引き込まれた空間へと聖は入っていく。



「くははは、やっとだ」

 元則は高笑いをした。

 サンジェルマンには裏切られたが、結果は良し。女の影は盗れたし、これで女は意のままに操れる。

 まず初めに、紅蓮(あの男)を篭絡してもらうか。話のそぶりからも、外見は好みらしい。好みの女が色仕掛けで近づいてきたら、それはさぞ嬉しかろう。ついでに白銀の呪術師のことを悪く言ってもらうか。

 使い魔が動いたところで、すでに女の意思は自分が握ったのだ。


 やっと、これでやっと願いは叶う……はずだった。




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