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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
31/63

第三章――影と揺らぎ――その三

 いつも以上に派手なゴスロリである。聖が選んでいたころは、スカート丈は長かったが、葛葉が選ぶようになってからは膝上数センチが基本となっていた。

 しかも、膝まで隠すソックスとか(後日、ニーソックスという名前を聞いたが)、編み上げのブーツとか、パンプスも種々多様で、小物に至るまできっちりと決められている。本日は「いつもより動きやすくしてみましたっ」と葛葉が言っていたが、夏姫の目から見れば同じである。

「やっと届きましたわぁ。間に合ってよかったです」


 そう言って渡してきたのは、日傘。

「これが例の特注『呪術対応型仕込み日傘』か」

 聖が感心したように呟き、葛葉は満足そうに微笑んでいた。

 超特急で仕上げてもらったので、デザインも能力的なものもいまいちだが、護身用にはもってこいらしい。

「お時間があれば、もっと夏姫さんにお似合いで、もっと高性能なものができましたのに」

「これで上等だ。夏姫はまだ魔術を習って日が浅いからね。あまり強い呪具はよろしくない。これくらいでちょうどいい。あれらにもいいダメージだよ」

「それはこれが不完全だからですわよね?」

「無論」

 日傘を手に取って葛葉と聖が確認したあと、夏姫に渡された。

「さて、出かけるとするよ。あとは手はず通りに」

 聖が促し、本日の動きと相成った。



 わざとらしく日傘をさしながら、夏姫は動く。どうも一部に誤解を招いたようで写真を求められたが、黙殺して歩き続けていた。

「だから目立つって言ってんのに」

「それ位がちょうどいい。君の場合、君自身も目立つからね。私と一緒にいて、なおかつその服だと、君の容姿とかはあまり記憶に残らない」

 思わずついた悪態に、聖がさらりと返してきた。


「普通、一瞬にして目を奪われる場所がある。大抵は顔。ところが、私と歩いていれば、ほとんどが私の容姿に目が奪われる。何せアルビノだからね。君が言った『白髪』とこの赤い瞳が目印になる。

 私だけが目立ちやすいと思っているだろうが、君自身も身長が高いからどうしても目立つんだよ。それ以上に君の容姿もヒトを惹きつける。とするなら、何かしらの防御策を講じなければならなくなる。手っ取り早いのがヘアスタイルを変える、服装を変える、そういった部分になる。そうすることで、容姿を覚えにくくするということもあると覚えておきなさい」

「あんたの趣味は?」

「もちろん、あるさ。何せ私は君の『雇い主』だからね。制服を決める権限は私にある。葛葉はそれに悪乗りしただけだよ」


 ふと、魔術屋に来てからの日にちを数えた。

「もう、試用期間の半分は過ぎたんだけどな」

 最初はこんな場所と思ったが、意外に居心地がいいことに夏姫は驚いている。

 それは多分、葛葉のおかげかもしれない。



 夏姫と聖はゆっくりと遠回りをしながら向かっていく。相手のために。



 教会に着いた二人を待っていたのは、藤崎一人だった。

「遅かったね」

 教会の中でステンドグラスから入る日の光を浴び、微笑む藤崎の足元には影はなかった。

「影は遊びに行ったよ。時々なくなるから困っているんだけどね」

「影がなければ、夏姫とお前を二人きりにしないと言ったら?」

「あってもなくても、同じじゃないですか?」

 この切り返しは、自身の影が盗られている事を、しかも盗った相手が誰なのかを知っていなければ言えない。


「そう、同じだ。だからこちらは夏姫を一人にするつもりはない」

「サンジェルマンさんから聞いてた話と違うなぁ。あなたは誰にも冷徹かと思ってましたが」

「私は冷徹だよ。夏姫だって利用するために大事にしている」

「……それを、俺に向かって言いますか?」

「お前とて、同じだろう。家族ごっこがしたくて夏姫を傍におき、不要になったから山村十子の元へ置いてきた」

 その瞬間、藤崎は顔を伏せた。

「あれからずっと、後悔しない日はなかったよ」

「そんな戯言、どうでもいいのだがね」


 藤崎の言葉を切って捨てる。後悔しない日がないというなら、それ相応の動きをすればいいだけの話である。

「あなたに何が分かるというんです?」

「あいにくだが、分からないね。後悔するくらいなら、行動を起こせばよかった。そうすれば、お前が影を盗られる事も、夏姫が養母からの裏切りにあうこともなかった」

 時間がなかったなどは詭弁でしかない。

「あなたに分かってもらおうとは思っていない!夏姫!」

 夏姫は静かに日傘を持っていた。

「あたしも分からない。藤崎さんが考えていること。永遠を否定したはずの藤崎さんが、なぜ永遠の命を欲しがるの?」

 日傘を持ったままの夏姫を制する。ここで抜かないほうがいいと。


「あたしに『永遠なんてない。あったとしてもそれは惰性。永遠という言葉に甘んじたら、それで終わり。あとはない。それよりも「現在(いま)」を大切に』そう教えてくれたのは、藤崎さんだった」


「宗旨替えというものですよ、お嬢さん」

 笑いながら蛇のような男が教会の中へ入ってきた。

「誰しも宗旨を替えるということくらいあります。藤崎君は永遠の命に素晴らしさを感じた、それだけです。私の話を聞けば、お嬢さん、あなただって永遠の命が欲しくなりますよ」


「どうせなら、あたしは大切なヒト達と一緒の時間をすごしたい」

 夏姫が静かに呟いた。

「今のところ誰ってのはいないけど、少なくとも藤崎さんじゃない。そのヒトはあたしがおばあちゃんになっても現れないかもしれないけど、それでいいと思ってる」

 滅多にない微笑がそこにはあった。


 ぐにゃりと空間が動き、夏姫の影を掴もうとしていた。

「夏姫!」

 だが、夏姫は動こうとすらしなかった。代わりに動いたのは藤崎である。

「裏切るのか!藤崎!!」

 藤崎の「影」が叫んでいた。

「裏切ってませんよ元則さん。俺は……」

 藤崎が「影使い」に抵抗できたのはそこまでだった。夏姫を抱きしめ、空間へ男と共に入っていった。


「どうせなら、夏姫の影を盗って欲しかったのだがね」

 消えた空間を見据え聖は思わず呟いた。そのために夏姫に忠告を促したのだが、先日の一件で夏姫は忠告におとなしく従わないほうが、夏姫自身にとっては都合がいいと判断したようで、一切動かなかった。だが、夏姫への忠告に藤崎が動いてしまったのだ。

「困ったね、これは」

 盗聴器でこれを聞いているであろう葛葉へどう説明していいものか。


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