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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
30/63

第三章――影と揺らぎ――その二

「参ったね、これは」

 聖が閉まりかけの空間に入っていったものの、すでに夏姫の姿はない。

「これだけ上手く空間創生ができて、あれだけ影が上手に動かせるのに、どうしてこうも馬鹿なのかと聞きたいくらいだね」

 あの男、話術が巧みではあるが。ここは、夏姫の精神世界のようである。壊してしまえば楽だが、そのあとが夏姫のケアやら、制約内であったかを審議するためかなり面倒だ。


 小さな灯りを呼び出し、少しずつ進んでいく。現在の夏姫と師弟関係があるからこそ、多少の無茶はできる。だが、どうしても制約は受けてしまう。

 皮肉にも魔青の気配は追える。そこを相手は考慮していなかったのか、わざとなのか、意外にもあっさりと夏姫は見つかった。

「夏姫?」

「ここ、どこ?」

 そこにいたのは、見覚えのある小さな幼子。夏姫の過去の姿。

 だが、夏姫の髪の長さと色が違う。過去でも夏姫の髪の色は黒に近い栗色だったが、今の髪の色は明るめの栗色、そして髪の長さもくるぶしまでとかなり長い。

「君の精神世界だ」

「あたしの?」

 ため息をついて、夏姫はここから出たいとだけ呟いていた。

「私が君をここから連れだしてしまうと制約を受けてしまうからね、君ができると楽だよ。セフィロトの樹は覚えているかな?」

 先日教えたばかりで、重要だから覚えておくようにと念を押した箇所である。


「忘れた」

 潔いよく言うものの、夏姫は視線をそらした。唱えられなければどうしようもないので、空間に文字だけを書いていく。

「分かるように書いたからね、このまま唱えなさい」

 噛みそうになりながら唱える夏姫に合わせ、聖も唱えた。



 空間を出たときには、以前の姿に戻っていた。

 夏姫も不思議がってはいたが、実際、引き取られた頃はくるぶしまで髪の長さはあったらしい。

「ふむ。時間もそれほど経ってないね。あぶり出しご苦労様」

「……もう、慣れた」


 次の瞬間、夏姫がまた倒れた。

「師父!」

「紅蓮、こちらなら問題ない。夏姫は自分の精神世界に飛ばされて、挙句そこで魔術を使ってもらったからね。精神的疲労も多すぎる」

 倒れたというより、寝込んだが正解である。

「それで、紅蓮。明日はどうするつもりだ?」

「京都まで行く。それに変更はない」

 どこまでも強情な子供である。

「あいつを連れて行くのかい?」

 聖のその言葉に、静かにうなずいていた。

「紅蓮の坊ちゃん、分かりきってるだろうが、今回ばかりは向こうでも責められるぞ?」

「……言われなくても分かってる。俺の責任だ」

「兄様のせいでは……」

「いや、俺があいつに情報を漏らしていた。報告事項としてだが。俺の判断が悪かった」

「お前のせいとばかりは言えないね。私も樹杏も『影使い』に野心があるのを知っていて、お前のそばに置いていた」


 それで野心がなくなるか、増大するか。二人で賭けていた。無論、二人とも「増大」に賭けていたので、賭けになっていないと言われればそれまでだが。

「樹杏伯父様も白銀様も……兄様を使ってそのような事を……」

「あとはお前がそれを見極められるか、それもあった」


 四条院の頂点に立つことを定められた男だ。己の言葉が相手を狂わせる、それくらい分かっていないと話にならない。

「類まれなるチカラ」と能力をもてはやされる紅蓮にとって、相手の力量を見極め、適所に適材を配置するということは不得手な分野である。全ての役割を自分でしかねない、それを危惧していた。


「今回のことはいい薬になっただろう。明日は、覚悟しておくことだね」

「……あぁ」

「夏姫にそこまで影響はないよ。影は取られていない。だからこそ、明日何がなんでも動くと思ったのだがね」

「多分、高確率で動く」

 そう言いきったのは黒龍だった。

「嬢ちゃんを傀儡(かいらい)にしたいんだろ、元則(もとのり)は。だとしたら、俺が傍にいない明日しか有り得ない」

 今まで誰も出さなかった「影使い」の名前を黒龍は出した。

「師父の方が要注意だと思うが」

「実際はそうだろうが、元則はそんな風に思っちゃいない。何せ、自分の傍には白銀の旦那の『師匠』がいるんだ。能力的にそっちが上だと思い込んで、軽視してるんじゃないか?それに、白銀の旦那は四条院内部で体術もそうだが、呪術はほとんど使っちゃいねぇ」

 使う頻度が少ないため、能力を甘く見られていると。

「私はそう思わないがね。ただ、明日動く、この意見には同意だ」

 あれほどの能力を持った男が、動くタイミングを見誤るとは思えない。とするなら、何かしらの策を複数用意していると思うのが当然である。あの二人には藤崎も捨て駒だろう。

 そして、己は関係ないと言わんばかりに、元則はしらを切るはずだ。

「明日になれば、全て分かる。葛葉、明日の夏姫の衣装をトータルコーディネートしておいてくれ。ウィッグも変えるなら、そちらのほうまで」

 前回の買い物で、帽子やヘッドドレスの他に、ウィッグも買っていたのは知っている。


 今までとうって変わって、にっこり微笑む葛葉を前に、聖は夏姫に同情していた。


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