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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
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第二章――懐かしいヒトと言葉――その十三

 実をいえば、夏姫は魔術屋の界隈を詳しく知らない。聖が案内すると言い出し、結局は着たくないゴスロリに袖を通していた。

「白銀様のご趣味は相変わらずですこと。そんな合わせよりも、こちらの方がいいでしょうに」

 気がついたら葛葉にスカートを短くされていた。

「これだけ綺麗で素敵なおみ足ですもの。これくらい出さなくてはっ」

 ギラギラと(キラキラというのを超えていると思える)した目で葛葉が口出しをしていた。

「ほほう、悪くない。ただ、そのタイツよりもこのソックスの方が」

「あら、このソックスでしたら、こちらの方が」

「だとしたら、靴はこれかな?」

「こちらのブーツの方が」

 聖と葛葉が二人がかりでしばらく夏姫の服をとっかえひっかえしていた。


「葛葉、これから夏姫が着る制服を任せていいかな」

「お任せくださいッ! 白銀様の趣味に合うように、なおかつ夏姫さんに似合うゴスロリと小物をご用意させていただきますッ!!」

 気がついたら聖が葛葉にお金を渡していた。

「帰りがけ、ケーキ買ってきてもよろしいですか?」

 そう言いながらも、「似合うから」という理由の一点だけで日傘を渡された。



 夏姫と聖を見送った辺りで一人の男が現れた。

「……兄様、しつこいですわよ?」

 呆れ果てた葛葉の言葉が、男の正体を明確にしていた。

「今回、俺は除け者か」

「仕方ないんじゃありませんの?その代わり、この葛葉めがしっかり協力させていただきますので」

 自分の名前を強調して言う葛葉に黒龍はため息をついた。

「葛葉の嬢ちゃん、まずは……」

「そうでしたわっ。夏姫さんの服を買いにいかないと!」

 嬉々とし、興奮する葛葉を尻目に、黒龍は夏姫に深く同情していた。

「買い物なら……」

「兄様、お車出してくださいますの?ありがとうございますっ」

「それくらいなら、白銀の旦那も、樹杏も許してくれるだろ、俺は知らんからな」

「では、黒龍、留守番お願いしますわね」

 ばたばたと出て行く葛葉を見送り、黒龍も次のステップに入る。



「君はなぜ、そこまで生にこだわらない?」

 全員が動いたであろう時を見計らい、聖は尋ねた。

「こだわってないつもりはない。こだわるほど、いいこともないと思ってるけど」

 諦めきったような、突き放した物言い。こだわるということをすでに投げ捨てていいるようだった。

「ただ、私が頭をつかんだ時、君は死ぬと思ったはずだ」

 そして死ねなかったから怒ったと取っていた。

「そういう理屈じゃないんだけどね。確かに死ぬなとは思ったけど」


 口数が少ないのは、理解を拒んでいるからだろう。理解を拒むのは、裏切りが怖いから。

 理由は色々あるようだが、人格形成に関わっているはずの藤崎も、夏姫の養母もすでに夏姫の傍にいない。

サンジェルマン(あの男)に協力している男だがね……」

「いいよ、言わなくて。知らなくていい。葛葉さんと黒龍にだけ教えていれば問題ないでしょ?」

「まだあの二人には教えるつもりはないよ。確証が取れてからでいい。君の場合は藤崎が絡んでいるからね、教えようと思ったんだが」

「藤崎さんは敬虔なカトリック教徒だったよ。あたしが覚えているのはそれくらい。十子さんは無神論者だったから、折り合いがつかなくて駄目になったんだと思ってた」

「思ってた?」

「今になって思えば、違うんじゃないかなって」

「正直、今回のことにその辺りは関係ないと思うからね、私はどうでもいいかな」

 二人の破談の話など、どうでもいい。

 覚える気がなさそうな夏姫は、ただ黙って後ろをついてきていた。



 かさり、と動く影。協力者である「影使い」である。

 無論、四条院内部にも「影使い」は一定数いるが、他人の影を操れる人間はそう多くない。その能力を使ってしまっては自分がサンジェルマンの「協力者」だと言っているようなものだが、この「影使い」はそんなことを気にはしていない。

 それもそのはず。彼はある一定のチカラを持った人間の影すら操れるため、自身の姿をあらわさなくて済む。

 見つけた。己の欲を邪魔する男、白銀の呪術師。そして己の欲を叶えるやも知れぬまだ名も知らぬ女。今日のところは見逃してやろう。藤崎にでも言えば、女を己に会わせてくれるはず。そこで影を踏めばいい。そして、紅蓮あれを誘惑し、手中に収めれば絶大なる発言権を持つことができるのだ。



 それが間違いであることは、藤崎が持つ本来の思惑すら知らぬ男に気がつきようもなかった。


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