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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
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第二章――懐かしいヒトと言葉――その十二


「……合格だ」

 どさりと倒れこみそうになった夏姫を抱えながら、聖が言う。

 さきほどまでの殺気はどこへ消えたのか、間違いなく一歩間違えれば、夏姫も葛葉も、無論黒龍さえも殺されていてもおかしくなかった。

「合……格?」

 葛葉が怯えたように呟いていた。

「合格だよ。ここまでしても怯えないとは」


「頭つかまれた時点で逃げられなかっただけだろ」

 殺気がないからこそ、悪態もつけるというものである。

「いや、夏姫は逃げる気すらなかったよ。……黒龍に言われてはいたが、本当の意味で生に執着してないね」

 つまりは、本気で殺すつもりでやったということだ。そして、それを夏姫は受け入れたのだ。

「……ありえねぇ」

「事実だ。お前達すら怯えるくらいに殺気を放った。だからこそ、黒龍は夏姫の救出という選択肢がなくなり、傍にいた葛葉を守ることしかできなかった。違うか?」

 そのとおりである。また守りを放棄してしまった。

「実際、夏姫は意識を失っている。頭にチカラを込めたしね、殺されるとは思ったはずだし、それ位の圧力はかけたからね。

 一応逃げ場は確保していたんだが……」

「白銀様! 言い訳は結構です!! 古いつき合いの私たちですら動けなくなるような殺気を、夏姫さんに放ってどうするんですか!」

「どうもしない。……こちらに向かってきたのが誤算なくらいだよ」

 葛葉の怒りはもっともだが、聖は気にしていない。


「あの状況で己が死ぬことを受け入れられる精神が凄いね。おまけとして、あの男がかけた呪術は解いた。妖魔はこれから使い勝手がよさそうだから、そのままにしておいたが」

 ここまで言われてしまえば、黒龍は別の意味で脱力するしかない。何でも利用するのは分かりきっていたが、今までの中で一番悪意がありまくりである。

「おや、起きたかい?気分は……」


「最っ悪!」

 助かったはずの夏姫はためらうことなく、聖を殴っていた。



 倒れる直前、確かに夏姫は死を受け入れていた。だが、一つだけ腑に落ちない点がある。

「聖、あんたいつから四条院内部に協力者がいることに気がついてたの?」

 不敵に微笑む聖に夏姫はため息をつきながら言った。


 黒龍も葛葉も四条院家内部に早いうちから内通者いることに気がついていない、とするなら質問は己以外できない。そして聖はそれを夏姫にあえて言わせようとしている。

「協力者がいるからこそ、その次期当主とやらを出入り禁止にしたんでしょ?ってことは、あたしを雇用した時点で気がついてるってことだよね?」

 そう、その直後から紅蓮(その男)は来ていないし、数日後に紫苑が来ている。

「正直に言えば、黒龍からも聞いていたと思うが、四条院の方にも弟子取りの話は通してある。君に対しての試用期間が始まったと同時に、樹杏に君の身辺調査を頼んだ。その時点で君と紫苑に繋がりがあることは知ったよ。四条院自体でも内密に『適合者』を探していた」

「『適合者』とは、四条院内部において、四条院の術式と組しやすい方の事です」

 術式は様々、葛葉が聖の言葉をつなげるように説明してきた。

「君の質問には関係ないが、おそらく初対面の時から紫苑は君の潜在能力に気がついていたはずだ。無論『適合者』になりうる人物として当主に報告していたはずだよ」

「ちょっと待て!」

 黒龍がいきりたった。

「ってことは嬢ちゃんは最初っから四条院でマークしていたって事か?」


「おそらくね。一応内部資料になるが、君の養母自身、紫苑が五、六歳時まで四条院で世話になっていて、紫苑の母親が死亡してまもなく出奔しているよ。その後、行方不明」

 さらさらと、聖が十子も含めて四条院家の簡単な家系図を書き出した。


 これを見てすぐさま気がついた。

「夏姫は気がついたかな?そう、あり得ない。君の養母は自分と血縁関係にある紫苑に君の事を頼んでいるわけだからね。つまり、当主はずっと君の養母の動向は把握していたんだよ、おそらく『適合者』としてね」

 そういえば、高校を卒業する少し前くらいから、差出人不明の手紙が十子に来ていた。十子が「破って捨てた」と言っていたから、それを信じ込んでいたが、それが嘘だとしたら……。

 全て納得がいってしまう。すでに支払われた国民健康保険、そして桑乃木に持って行く書類に保険証が入っていたことも。もちろん、紫苑が住んでいると十子にいわれたあの家が空き家だったことも。


 全ては夏姫を孤立させるため、絶縁するため。夏姫の能力に十子も気がついていた、だから捨てるために仕組んだのだ。


 最初から夏姫は十子に裏切られていたのだ。

「夏姫?」

「……なん」

「『何でもない』で済ませないで欲しいね。おそらく君の想像どおりだよ。だからこそ、紫苑から連絡が行ってすぐ、君と絶縁するつもりになったわけだ。もちろん、君の養母が結婚するにあたって君が邪魔になったというのもあるだろうがね」

「紫苑叔父様がややこやしくしているということですの?」

「それは一理ある。だが、紫苑が絡んでいるとしたら、当主も絡んでいることになる。無論、お前の父親も」

 葛葉の問いに厳く返答していた。

「……そう、ですわね……だとしたら、私が動くのを父様もお爺様もお許しになるはずがありませんもの」

「そこから顧みても紫苑があの男と絡んでいるということはあり得ない。別だよ、だから私は紅蓮を外した」

「まさか……」

「言っておくが、樹杏ではないよ?だとしたら夏姫の調査など頼まない」


 どうも葛葉は樹杏が協力者だと思ったらしい、言葉に詰まっていた。

「まぁ、現四条院家当主の兄弟達は仲があまりよくないことで疑うのも無理はない。ということで葛葉、しばらく協力してもらえないかな?」

 何も言わさぬ物言いで葛葉を黙らせていた。


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