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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
19/63

第二章――懐かしいヒトと言葉――その六

 売店に向かう途中、黒龍は不穏な視線を感じた。おそらくは藤崎(あの男)だ。黒龍の中ではすでに見当はついていた。

「んなに重いもん、俺が持つぞ」

 しかし夏姫は、「有事の際、自分が持っていたほうがいい」と提案を突っぱね、買ったものは渡そうとすらしなかった。そして、黒龍は勝手知ったるもので、どんどん進んでいく。

「……間違った」


 こっちは職員通用口。いつもはこちらを利用するため、ついついいつもの癖が出たのだ。

「引き返せばいいでしょう?」

「……そうしたいのはやまやまなんだが……気がついてたのに油断した」

 呪術で囲まれた。

「やっぱり、お前さんか。藤崎」

「おや、気がつかれてましたか。えぇ協力してますよ」

「ようこそ、我が空間へ」

 静かにこちらへと宣戦布告する声の主が現れた。



 我が空間へと誘った男は、三百を超えているはずだが、外見は三十歳前半くらいだった。蛇を連想させるような鋭い目つきと冷徹な笑い。

 その笑みは真っ直ぐと夏姫へ注がれていた。

「サンジェルマンさん、これでいいですか?」

「えぇ、藤崎君ご苦労様です。あとはそのお嬢さんにいくつか憑けるか、何かしらすればそれで終わりです。しかし、驚くこともある(あれ)がどんな形にせよ、弟子をとり、使い魔を渡すなど。どのような手段を用いたのか参考にしたいものです」

 色仕掛けすら通用しない男に、そうサンジェルマンは呟く。


「その瓶はあれが使い魔を入れる際に使うもの、持っていれば分かりますよ。……あなたは、あれと同眷属かな?だとしたら同じものが創れるのか……試してみたいところではありますが、あなたは四条院と関わりが深すぎる。今のところ四条院と事を構えるのは避けたいのでね。残念だ」

 聞きもしないことをべらべらと話す男だ。正直、鬱陶しい。

「まぁ、どうでもいいでしょう。そちらの男性はあれと同眷属と分かれば、あとは関係ありません。そちらに一人用の出口がございますので、お帰りください。私が話したいのは、お嬢さん、あなただけすから」

「俺がそんな馬鹿な事をするように見えるのか?」

 そう言って、どこからともなく剣を出していた。

「馬鹿なことですか? あなた方は我々ヒトを見下しているというのに。

 それにしても、藤崎君が私にこんな素晴らしい連絡をくれるとは思いもよりませんでした」

「夏姫を化け物の傍に置いておく趣味はありません。それだけです」

「お嬢さん、あなたは人外(じんがい)から魔術を習い、そして守ってもらっているのです。これほどおぞましいことはない。まだ間に合います。こちらへ」

 人外? 化け物? 二人の言葉は紛れもなく、黒龍と聖を指している。


「そこの男も、お前の雇い主もヒトじゃない、化け物なんだと。サンジェルマンさんが教えてくれたよ。十子も十子だ。そういうものを忌嫌うくせに、あっさりそんな所に預ける」

 藤崎の確たる言葉に思わず黒龍を見つめた。否定せず、揺らぐ瞳は藤崎の言葉を肯定していた。

 夏姫は深いため息をついて、二人の許へ向かった。



 夏姫が二人の許へ向かうのを黒龍は静かに見つめていた。やはり、ヒトは我々を嫌うのだ。四条院とて同じこと。我々は普段は人型を取っているが、有事の際、元の姿に戻れば四条院家の人間といえど離れていく。夏姫も同種のヒトであっただけ。もし、サンジェルマンや藤崎と共に行くのであれば、止める権利などない。

 ならば大人しく出口からお暇しようかと思った、その時だった。


 ぱしん、平手打ちの静かな音がした。

「夏姫?」

 藤崎の少しばかり驚いた声。どうやら夏姫が藤崎の頬を叩いたらしかった。

「昔、あそこにいた藤崎さんならそんな事言わなかった」

「変わりもするさ」

「そうだね」

 そのあと、夏姫はひとつため息をついていた。


「あたしは藤崎さんに色々教わった」

「教えたね、色々」

「今の藤崎さんは永遠の命が欲しいの?」

「欲しいね」

 そう呟く藤崎は虚ろで、夏姫はその顔に今度は手加減なしで殴っていた。


「帰るよ、黒龍。馬鹿馬鹿しいから」

「……嬢、ちゃん?」

「ですから、あれは人外ですよ、お嬢さん」

「だからなんだっての」

「人外に守ってもらうのです、恐ろしいことですよ」

 その瞬間、サンジェルマンにつかつかと歩み寄っていた。そして、鈍い音が響き、サンジェルマンは股間を押さえてうずくまった。


「あのさ、黒龍。少しは言い返したら?藤崎さんには言い返しにくくても、三百年生きている馬鹿に言われたくないとか」

 夏姫にとってヒトだとかヒトじゃないとか、そういった事はどうでもいいことなのか? 初めての出来事に黒龍は目をぱちくりさせた。


 すぐさまぐいっと、藤崎が夏姫の腕を掴んだ。

「藤崎さん?」

「夏姫、駄目だ。化け物に関わるな」

「じゃあ、そこの男は何になるの?三百年生きて……」

「あれらは人外。私は呪術で長生きしているだけです。誰しも永遠の命には興味があるでしょう」

 股間を押さえながら立ちあがりサンジェルマンが言う。


 黒龍は己の中にある剣を取り出した。

「お嬢さん、あれらと私を一緒にしないでください」

 藤崎が当たり前のように夏姫をサンジェルマンに渡していた。

「そんな物騒なものは捨て置いてください。でないと頭の中をのぞきます」

 黒龍に向かってそう言うと、がしっと夏姫の頭を掴んで、呪を唱えていた。


「……あ」

「やめろ!」

「だったら早く物騒なものは捨て置いてください」

 からん、二人には分からない間合いで剣を捨てる。

「人のいい人外もいたものだ。頭をのぞくと言われておとなしく武器を捨てるなど」

「サンジェルマンさん?」

「もちろん、のぞきますよ。なにせあれが使い魔を渡したお嬢さんですから」

「やめてください!」

 懇願したのは藤崎だった。

「うるさい。永遠の命のためですよ」

 その言葉に藤崎がひるみ、夏姫の頭に指が入りかけたその時だった。夏姫の身体から力が抜け、買い物袋がサンジェルマンの足に落ちた。


 先程夏姫が売店で購入したものは、すぐさま必要なボディソープの他にシャンプー、コンディショナー。それだけに留まらず、買い物最中に使い魔が瓶の中でごね、仕方なく夏姫が二リットルのジュースを三本購入したのだ。つまりはかなり重い。


 一瞬、サンジェルマンと藤崎の気がそれたのを見逃さなかった。黒龍は捨てていた剣を取り、夏姫を引き離した。

「こんなふざけた事に嬢ちゃんを巻き込んだ痛みをかみ締めろ」

 無理矢理剣で空間を引き裂き、こじ開けてその場をあとにした。


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