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魔術屋のお戯れ  作者: 神無 乃愛
魔術屋とその内情
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第二章――懐かしいヒトと言葉――その四

 土曜日なのに、いつもと同じ服、そしていつものウィッグ。呪術で固定し、当たり前のように歩き出した。黒龍はラフな格好で夏姫の横を歩いていた。すれ違う人が皆、二人をまじまじと凝視しているのが分かった。凝視さるのは、聖と一緒でも同様なわけで、やっぱり外見だけはいい男と歩いていると違うもんだなぁと気楽に思っていた。

「嬢ちゃん、モデルやってたとかは無いよな?」

 なぜそんな面倒なものを好んでやらなくてはならんのか。口に出すのも面倒な夏姫は、心の中で総読ついた。

「振り返る連中の気持ちが分かるよ。歩き方も綺麗だ」

「見てんのは、あたしじゃないと思うけど」

 仮に夏姫を見ているのだとしたら、似合わないゴスロリを着ているせいだ。

「これ、全部病院の売店にあるぞ」

 買い物リストを見た(作らされた)黒龍が言う。どうせだから、そちらで買おうと。その言葉を受け、駅へ向かった。



 病院の最寄り駅に到着したのは黒龍から見ればほぼ時間どおりだった。だが、乗り物酔いはあったらしく、駅のベンチに座って少し休んでいる。

「難儀だなぁ。今まで乗った事なかったのか?」

「田舎から出てきたとき、新幹線に乗ったくらい」

 しかも、込んでいない時間帯を狙って指定席を取ってもらったという。

「それ、家出じゃぁねぇな」

 思わず呟いたが、夏姫は相変わらずのだんまりである。


「んじゃ、行くぞ。具合悪いようなら、そのまま病院で診てもらえ」

 歩き出してすぐ気がついた。誰かが見ている。急ぎ夏姫を引き寄せた。さすがにいきなりだったので、夏姫が驚いていたが構う暇などない。

「来い! 撒くぞ!」

 人気のない方に行って呪を唱える。

「俺、こういうの苦手なんだよなぁ」

 逃げや守りは苦手だ。だがここで使い魔を出すのは難しい。というより黒龍にとっては「奥の手」だ。黒龍たちをつけてくる奴に夏姫が使い魔を預かっている、というのは知られない方が良い。

 呪を軽くくらった相手がひるんだその瞬間を見逃さなかった。

「来い! 嬢ちゃん逃げるぞ!!」


 病院に着いた時にはさすがに夏姫の息が上がっていた。仕方が無い。乗り物酔いをして気分が悪い上に、バス停三箇所分くらい全速力で走ってきたのだ。

「何とか撒けたな。用件済ますぞ」

 そう言って夏姫を促す。夏姫は聖から頼まれたのは、確かこの書類だと確認して受付に向かっていく。

「嬢ちゃん、ストップ」

 その言葉に夏姫がじろりと睨んできた。いや、睨んだわけではないのだろうが。

「俺が取り次ぐから少し待っててくれ。できれば目の届く範囲で」


「聖」という名前では相手は絶対分からない。それに院長への聖からの取り次ぎには決まった暗号がある。それを夏姫に言うべきではない。見知らぬ人と話さなくていいならと夏姫はあっさり引き下がり、その場から離れた。目の届く範囲のぎりぎりまで下がるのは気を利かせたのか、ただの嫌味か。いつもの暗号を受付の一人に言う。それだけでもうすぐ迎えに来るはずだ。


 珍しいこともある。夏姫が誰かと話している。顔見知りは他にもいたという事か。

「十子も元気にしてる? って、それ取ったら何も残らないか」

「残ると思うけど」

「まぁ、他にもあるか。それより、いつからこっちの病院に通う羽目に?」

「まだ。紹介状届いてないし」

「届かなくても簡単な診察ならあとでするぞ」

「小児科医が何言ってんの」

「ま、本分は小児科医だけど、夏姫が抱えてる病気なら大抵分かるさ」


 ちょっと待て。黒龍は表に出さぬよう、警戒する。

 夏姫の抱えている病気なら分かる? その言葉はかなり親しい人物からでないと、出てこない言葉だ。


「取り次いだぞ」

 こちらを見た四十くらいの男が苦笑していた。

「彼氏?」

「違う」

 すさまじい即答に男がほっとしたように笑う。プレートには「小児科 藤崎」。覚えておくか。

「藤崎さん、のんびりしていていいの?」

「そろそろ行くさ。十子におめでとうとだけ伝えといてくれ」

「誰だ?」

「藤崎さん。十子さんの知り合い」

 母親は看護師だったはずだ。ただの知り合いではなさそうだが、夏姫はそれ以上言おうとしない。あとで聖経由で聞くしかない。


「お待たせいたしましたわ、黒龍」

 後ろから穏やかな女性の声がした。



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