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“どうぞ。”
掛けられた声に顔を上げると、其処にはこのギルドの長がトレイ片手に立っていました。
うわぁ〜…、好い人の代表みたいな優しい笑顔だぁ。
何だかギルマスの笑顔って和む。
そんな事を思いつつ会釈で礼を返し、出されたお茶を受け取る。
僕は、カップの中で揺らめく仄赤い液体を見詰め、ユックリと口に運んだ。
ギルマスが煎れてくれたお茶は微かに甘い香りのする後味のサッパリした華茶だった。
うん、美味しい♪
何かウキウキしてきちゃいそうだ。
受付嬢の彼女がチラッとギルマスに目配せをする。
視線で何か物申したみたいだ。
ギルマスが、スッ…とフェードアウトしたようだ。
気がつけば居なかった。
…それで良いのか!?
このギルドのギルマスは、人の良さそうなオジサンで、受付嬢に顎で使われている可哀想な人でした。
僕は、このギルドに不安を感じてるんだけど…それは口にしない方が良いよね。
平穏は、とても大事です。
さて、散々ピカピカ光輝いていた魔王(僕)だけど、今はやっとクリティカルヒット特典が終了して普通に戻りました。
何て言うか…まるでネタみたいな特典だったなぁ〜なんて今更思う。
って言うか、やっぱりネタなのかな。
何と言っても武器が“ハリセン”だしね。
あれ?でも待てよ、伝家の宝刀とか何とか言ってなかったか?
・・・・・・。
うん、止めよう。
考えたら色んな物に負ける、そんな気がしてきたよ。
其にしても、本当にキッチリ2時間ピカピカだったなぁ〜。
嫌味?って疑問視しちゃう位、律儀だった。
とにかくその間は、ずぅーっと一人ぼっちで隔離。
僕、このままじゃ死んじゃうよ!?
って思う位に寂しくて寂しくて。
すんごく寂しいからウサギになったのかと思った。
ほら、ウサギってさぁ、寂しいと死んじゃうっていう吃驚な生き物でしょ。
だからその時の僕には、そのウサギの気持ちが大変よぉーく分かったんだ。
あぁ…寂しいウサギは、きっとこんな気持ちなんだなって。
ほら、ウサギになった気がするでしょう。
でもさぁ、ウサギって本当、呆れる程の吃驚な生態だよね。
野生(野良)って弱肉強食のとぉーっても厳しい世界だってお勉強したよ。
あの弱い生き物が、そんな世界でどうやって生き抜いてきたのかな?
寂しいと死んじゃう!なんてオマケまで付いてるし。
もぉこれは人間界の七不思議って言っても良いと思う。
うんうん。
まぁ、其はともかく、結局僕はウサギに変身してる!なんて事も無く、無事、隔離部屋から生還しました。
もぉ、あまりの人恋しさに目がうるうるになちゃったよ。
今、優しくされたら、知らないオジサンにだって尻尾振って《実際は尻尾なんて無いけどさ!》付いて行く自信があるよ、僕。
また、うんうん一人頷いていた僕の目の前で、ポン!って効果音と一緒に、突然ニョキっと手が出現したんだ。
思わず、うわぁ!?ってのけぞってたよ。
うん。
そのまま勢い余って、後ろにグルンと見事なでんぐり返し。
ちょっとドキドキした。
・・・・・・。
ご、ごめんなさい!
本当は…かなりドキドキでした。
心臓(核)が バクン!! って大きく脈打ったくらいには。
はぁ〜、これ、心臓(核)に良くない。
だって、核がキュー!!っと縮んだ感覚がしたからね。
絶対、良くないよ!!
!!
あぁ…、もし、核が縮んだままだったら…ど、どうしよう!?
本当に魔界(お家)に帰れなくなっちゃう!!
気になって、そしたら心配と不安が僕の心にズッシリのし掛かってきた。
うぅ…胸が重いよ。
心臓(核)がバクバクドクドク言い始めてから、気付いたんだ。
何と無くだけど、核は大丈夫だって!
正しく動いてるって!
僕の本能なのかな?
そう思えたんだ。
だから、ほっ として力が抜けちゃったよ。
クテンってテーブルに突っ伏した。
きっと魔族(一族)以外には、僕の切羽詰まった感じは解らないんだろうなぁ。
もちろん他の種族にも心臓って大事なんだって知ってるよ。
魔族の核も心臓と同じ働きしてるんだし。
ただ魔族(僕達)の場合はね、核の役割は其だけじゃ無いんだ。
あんまり大きな声では言えない事なんだけど、所謂、公然の秘密って感じかな?
僕達、魔族の力の源ってね、心臓(核)なんだよ。
体を巡る血脈が世界からほんの少しづつ自然力を吸収するんだ。
血の流れに混じった自然力が心臓(核)に辿り着くと、そこにポンポン溜め込まれる。
その溜まった力を魔族(僕達)は自分に合う形にして使うんだよ。
だから、核がダメージを負うと、僕らは何等かの障害が現れるんだ。
酷い場合は昏倒して眠ったまま、その生涯を閉じたりする。
他にも溜まっていくマナを消費出来なくなって体を維持出来なくなったり、逆にマナが溜められなくなって満足に動けなくなったり…。
マナを使えなくなって、体力や寿命も人間と同じになったのに、魔族の特徴がそのままだから他種族から命(核)を狙われたりする。
何故か?
魔族の体から取り出された核は結晶化するから、魔法の媒体に成るんだ。
でも簡単には結晶化しないから安心して。
魔族の体から取り出した核は、細心の注意を払いながら処理しても灰に成って消えちゃうんだ。
結晶化するのは、ほんの1%程度だからね。
条件を揃えれば、確率はググゥ〜っと25%位に上がっちゃうけど大丈夫!!
条件は完全に秘密だから。
だって其を知ってるのは魔王だけ、つまり僕だけだから。
ほら安心でしょ。
でもだからこそ、結晶化した核は貴重品になるんだ。
弱った魔族が居れば、駄目元で試してみたくなる。
魔族にとっては、核を傷付けて良い事なんて一つも無い。
悪い事ばかりで未来(先)なんか望めなくなるんだよ。
解ってくれたかな?
切羽詰まった僕の気持ち。
ふぅ〜説明に疲れちゃったよ………。
突っ伏したままだった僕は視線だけを動かした。
さっきからズゥーッと消えずにいる存在が有るんだ。
説明しながらも気になってたんだんだよね。
手何で生えて来たんだろう?
思いっきり宙に浮いてるし。
やっぱり手で間違い無いよね。
・・・あぁ、何か動き出した。
んと?
親指と薬指で輪を作って・・・って、あれ?
何か嫌な予感がする。
ピシッ!
はうっ!!
痛っ!!マジで痛い!
おでこがジンジンするよ〜。
ん?大袈裟すぎ!?
侮る無かれ!!
たかがデコピン、然れどデコピンなんだぞ〜!
僕はヒリヒリするオデコを擦り擦り恨みがましい目を宙に浮く手に向けたんだ。
そしたら、ポヒュ!って音を発てて弾けた。
何がって?
もちろん、僕にデコピンした手が…。
何故!?
一体、何!?
もぉ、何がなんだか僕にも分かんないよ!!
今は何も無い場所を、ただぼぉー…っと見てるだけ。
その視線の先で、受付嬢がニマニマ笑ってたりしてる。
ぱちぱち瞬きしながら、
あぁ…なるほど。
って、みょーに納得。
つまり彼女の仕業だったのだ。
“どうだ?”
はい!受付嬢がとっても偉そうです!
コレ、言ってみたいけど言えない台詞だね…。
“お前の為に態々呼んでやったお仕置き精霊だ。”
お仕置き精霊だったんだ…。
そんなのとも契約してんだね。
しかも態々、呼んだ(召喚した)んだ…。
あぁ…、僕、分かったよ。
理解した。
このギルドに無法者が居ない訳が。
僕が目の前にいる受付嬢を無言で見ていると、頭の中で ぽん っと、ちょうど良い感じの単語が浮かんだ。
…女王様…。
あ〜…、きっとコレも口にしたらいけない言葉なんだろうなぁ。
僕、此処に登録して大丈夫なのかな?
熊さんにはわるいけど、
何か不安だよ…。
!?
あっ!!
今、気付いちゃったよ。
僕…、何でお仕置きされたんだろう?
ねぇ、知ってる?