第一話 3
見た目オンボロな今にも幽霊など出てきそうな雰囲気のあるアパート。
家賃2万円。1LDKと普通の部屋の大きさ。
学園からもそう遠くなく、商店街や駅へもそう遠くないいい物件である。
見た目がオンボロに見えるのは誰も清掃をしていないからというだけで中は比較的綺麗な作りになっている。
なのになぜ安いかというと先の通り、幽霊など出てきそうないわくつきなアパートだからである。
「お前にはちょうどいいだろう。我が家の権力のない県であり、学園からも近く家賃も安い。最低限の生活費以外は働いて稼げるほどに働き先もある繁華街もある。最悪自分で除霊でもすればよいわけだしなできるのなら。」
180度態度の変わった父親の言葉をかりるとアパートが安い理由と住む街はこの通りである。
入学式当時は確かに色々あったのだが、今はもう『俺の家族以外何も』住んでいない。
「ただいま。」
すでに時刻は18時をまわっていた。
「遅いぞ!いつまで我を待たすつもりじゃ。」
すいません。と駆け寄ってきた小学生にしか見えない少女にプリンを差し出す。
「おおっ!プッチンじゃ、プッチンじゃ!」
目を輝かせ小躍りをしながら、プリンを乗せる皿を探しはじめる。
はい。と皿を差し出すと慣れた手つきで蓋をあけ、後ろについているでっぱりを慎重に押している。
「見ろ!成功じゃ神凪。ついに我はプッチンをマスターしたのじゃ。」
「よかったですね。」
俺はその無邪気さに癒される。頭を差し出してきたので白髪の髪をゆっくりと撫でてやる。
「へっへっへ。おっと角は触るな。今触られると気分が高揚しておるため、サクッと切りかねんぞ。それぐらい我は今機嫌がよい。」
十二単を身に纏う少女。白髪の髪に一本の角。人ではない人型のモノ。今の唯一の家族。
「ねえ、ウヅメさん。本当にいいんですか?僕と一緒で。」
「何を言っておる。お前みたいな子供を一人になどしておけんじゃろう。寂しがり屋の癖に我より常識知らず。本当に現代っ子なのかと思うほどのソナタを見捨ててなどおけんわ。起こされたくもない封印をといた罰当たりだとしてもの。」
そう、二年前の儀式は成功していたのだ。
「まあ、あやつらから我を隠してこうして逃してくれておるのじゃ。変に見世物にされず利用されずにいるのはそなたのおかげじゃ。だから我はこうして契約しておるのじゃ。」
「そう言って頂けると嬉しいです。」
「それじゃー、もう二年経つのに硬いのー神凪は。ほれ、我を姉のように慕えと言っておるのに。硬いのは男の一部だけで十分じゃ。」
芸能の神らしいが、その格好で言われるとなんとも言えない規制というなの力が働きそうなので自粛を願いたい。
「そうだ、ウヅメさん。明日転校生が来るらしいんだけど、赤い髪の日本人てありえると思う?」
「赤い髪の日本人じゃと?それは本当か?」
いや、見た事ないから本当かと言われれば多分としか言えない俺なのだ。
「うむ、神凪心当たりはないのか?」
そうは言われても、全くといってない。
その手の知識は他者から貰っていたのだ。俺にできるのはすべての怪異や幽霊などを排除する事と神を降ろす事ができるだけである。戦闘と祭りにしか知識はない。それしか教わっていなかったのだから。
「そうじゃろうの・・・このアパートに入った時は本当にこやつは神童と呼ばれていたのかと疑ったものじゃ。何でもできるくせに加減も何もできん偉く偏った天才じゃったからの。」
何も言えない。最近は引退した身ではあるがこの手の嫌味に対抗できるよう少しはその手の知識も得ようとしているのだが、他に覚える事の方が多く日常生活に支障がでないそちらは後回しになっている。
「仕方が無いの・・・まあ、たいした事ではないだろう。術式の失敗による影響の一端か、火焔か何かじゃろう。気にする必要はない。むしろ興味を持った方がいいかもしれん女じゃ。」
どういう意味かは、まー知り合ってから気づけばよい。そう言うと興味をなくしたのかプリンの前に両手を出しありがたやと拝んでいた。
神に拝まれるプッチン・・・恐るべし。