第十話
刻々と色を変えていく夕空。
地平線がほんの一時紫色に染まる。
だがその美しさを仰ぐ街の住人は一人もいなかった。
今この街で外を歩くのは、気のふれた者かエリアスたちを含む討伐隊のみだ。
今日の午後、急遽募集された討伐隊は予想以上の人数が集まった。
宮廷勤めの魔術師が王都を出ることはほとんどない。
エリアスが来たこの機を逃せば、魔物の討伐はほぼ不可能だと街の人々もわかっているのだろう。
何もせず手をこまねいていては、ただでさえ大きいとは言えない街がますます寂れてゆくだけなのだと。
聞くところによると、魔獣は猫を大きくしたような姿形で、柔軟で俊敏。
三十匹ほどの群れで町を襲うのだそうだ。
一般的に魔獣は、普通の獣と比べ知能と身体能力が高く、傷の治りも早い。
特に頑丈というわけではないが、傷を負わせても殺し損ねると何度でも舞い戻ってくる。
それ故に彼らを退治するには、確実に命を奪わねばならない。
「惨い戦いになりそうですね…」
魔獣が住処にしているという森を見据え、シヴァは呟いた。
「そうだね。それでシヴァ、なんでここにいるの」
その声に非難の響きを聞き取り、シヴァはエリアスの方へと顔を向けた。
「何か問題が?」
「君は明らかに戦闘要員じゃないよね。武器も持ってないし」
狼へ投擲した短剣はそれほど高価なものでもなかったため放置していったので、今のシヴァは武器と呼べるものを持っていない。
「大丈夫です。私は救護班なので」
「救護班はあっちだと思うんだけど」
森とは反対側の方向をを指差すエリアス。
シヴァ達が立つ数百メートル後ろには天幕が張られ、医師や女性たちが待機中だ。
天幕の周りには数人の男が立ち、彼らに危害が及ばないよう守っている。
「私はエリアス専用の救護なんですよ。今回はエリアスが攻撃の要ですから。気分が悪くなったらすぐに言ってくださいね」
「ここが一番危険なんだよ」
「分かっていますよ。周りの皆さんも、怪我したら私に言ってくださいね、応急処置くらいはできますから」
にこにこしながらシヴァが周りの男たちに手を振ると、緊張で張りつめていた糸が少し緩んだようだった。
「おう、頼りにしてんぞ坊主。なるべくそっちには魔獣が行かねえようにすっからよ。」
「有難う御座います。こちらこそ頼りにしていますよ」
「シヴァ!」
男たちとの会話を遮るように、エリアスが声を荒げた。
シヴァの肩がびくりと震えた。
「これは遊びじゃない。人が死ぬかもしれないんだよ」
「分かっています。…血を見るのは慣れています」
「まな板の上で流れる血と、戦いで傷ついて流れる血は別物だよ」
「私がこの街へ来るといったんです。何もしないわけにはいきません。それよりエリアスこそ魔力の方は大丈夫なんですか?」
シヴァが強引に話をそらすと、エリアスは諦めたように溜息を吐いた。
「僕の方は大丈夫。ここに寄った分、魔力の回復分にも余裕ができてるから」
「それなら、よかったです」
エリアスは、シヴァのわがままに付き合ってくれたようなものなのだ。
この世界に召喚したことに対して、負い目を感じてのことかもしれないが、この街を救って世界が滅びてしまっては本末転倒だ。
ずっと気がかりだったことへの不安が晴れて、シヴァは胸をなでおろした。
そこでようやくシヴァは、周りがざわめいていることに気が付いた。
近くにいた男を捕まえ、何があったのかを聞いてみる。
「なんだか、黒い影を見たとか見ないとか」
日はすっかり沈みきり、いくつか配置された松明だけが頼りだ。
だが所詮松明ではすべてを照らし出すことはできず、こういったあやふやな情報になるのだろう。
シヴァが改めてあたりを見回そうとしたその時、悲鳴にも似た怒鳴り声が、聞こえた。
「魔獣が出たぞおおお!!」
ペースが落ちていて申し訳ありません。
忙しかったのもあるのですが、やはり自分文章書くの苦手な気がします。。
来年までには書き上げたい!