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夫は、たぶん私のことが好きみたいだ。

作者: 有梨束
掲載日:2026/07/31

「俺が君のことを好きだと言ったとして、もし君が俺以外の人を好きになったり、俺より先に死んだら、怖いと思うんだ。だから、君のことを好きになりたくない」

「えー、っと、それはもう好きだと言っていませんか…?」


残念というべきなのか、かわいらしいと笑うべきだったか、初夜の日に口下手な夫が珍しくよく喋ると思ったら、そう打ち明けられたのだった。


婚約者時代には、仲良くなろうと努力してみたが、いまいち何を考えているのか掴めず。

まあ、結婚したらほどほどの距離感で夫婦になればいいか。

白い結婚にはならなそうだし、私も役目を果たせそうだなぁぐらいしにしか思っていなかったので、かなり拍子抜けした初夜だった。


そんな夜が明けてからも、夫の態度は変わらなかった。

婚約していた時と変わらず、会った時の一言目は「元気か?」だった。

初夜明けの朝に、同じベッドの中で言われたので、吹き出すところだった。危ない。


「元気ですよ」と変わらず答えると、「ならいいんだ」と定型文のように返ってくる。


どうやら、私は夫を少々誤解していたらしい。

掴めない人ではなく、不器用な人だ。

で、たぶん、愛情もある。


それは同じ家で暮らすようになって、確信に変わったものでもある。


毎日種類の違う紅茶が出されているなぁ、と思っていた。

15日ほど経った頃、出される紅茶が固定されて、私の飲みやすいと思っていたものが毎回出てくるようになった。


「あれ?このお家では毎回紅茶は変わるのではなかったのね」

と侍女に言うと、「若旦那様がそちらにお決めになったようです」と微笑まれた。


首を傾げると、侍女は「内緒にしてくださいませ」と言葉を続けた。


「今まで出されていた紅茶の中で、その紅茶が一番若奥様の反応がよかったとおっしゃっていましたので」


危うく、紅茶を吹き出すところだった。

紅茶を飲むたびになぜか凝視されているなぁとは思っていたが、そういうことだったんですか…?



またある日の夜、寝室に今までと違う香が焚かれていた。


「旦那様のお好きな匂いなんですか?」

「いや」

「違うんですか」

「君はこの家に来てから、眠りが浅いと医者から報告をもらった。この香は、外国では睡眠にいいとされているらしい」


淡々とそれだけ言われて、頭の中で疑問が湧くというものだった。


そんな報告まで行っていたのですか。

お気遣いいただきまして…、いや、気遣い以上のものじゃないかしら。

国内では聞いたことがないものを、わざわざ取り寄せてくれたってことですよね?

そこに至るまで、きっとお調べになったんですよね?

あんなに忙しいのに、どこにそんな時間があったんですか。


優しさ、として受け取るには、私、受け取り方間違えていませんか…?



「それは、ありがとうございます」

それしか言えなかったけれど、「夫としては当然だとしか言われなかった。

その日から、よく眠れるようになって、医者からも「これなら大丈夫そうですね」、と言われたのだった。




それから、冬支度を始める際には、私の分の外套をこれでもかというほど買ってくださった。


「こんなにいっぱいあっても、冬はそんなに出かけない気がしますよ…?」

「君に風邪を引かれたら、困るからな」

「そうですか」

「それに君は寒がりだろう。用意することに越したことはない」

「ありがとうございます」



極め付けは、第一子となる娘が生まれた時だった。

魔法鑑定によって女児だと判明したので、ガッカリされてもしょうがないと思っていた。

夫は何も言わなかったけれど。


だけれど、実際の出産は、私の生死が彷徨うこととなり、三日三晩眠り込んだあと、目を覚ましたら私の手を握って大泣きしている旦那様がいた。


「うっぐ…、えっっぐ、うううう…」

あんなに泣いている夫を見たのは、後にも先にもあの時だけかもしれない。



「やっぱり、君がいなくなってしまったらと思ったら、俺は、生きていけない…っ」


目が覚めた私の胸に顔を埋めて、泣きじゃくる旦那様を見ていることしかできなかった。

すっかり回復してからも、「君は何もしなくていいからっ!」と強めに言われて、私の仕事までテキパキこなしてしまうようになった。



そんな旦那様が、娘を愛おしそうに抱いている横で、あの日と同じことを言ってみた。


「旦那様って、私のことお好きですよね?」

「………………好きになったら苦しいから、ならない」

「そうですか」


あたたかい日差しと柔らかい時間に、私は愛を感じていた。


「じゃあ、私も旦那様をこれ以上好きにならないようにしないとですかね」

「…?」

「好きになるのも、苦しいばかりじゃないので悪くないですけどね」

「…っ!?」



目が落ちちゃうんじゃないと思うくらい目を見開いた旦那様を見て、もう我慢できないと、私は吹き出したのだった。







お読みくださりありがとうございました!!

211日目。

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